第28話 夏便り
運動会は、僅差で俺たち偶数学年が勝利した。
3年生の間では、俺たち主戦力騎馬を恐れているらしく、明らかに対応に差が出始めている。
しかし、そんなことはどうでもよい。…勝ったことはどうでもよくないが…。
今日は運動会の振替休日。今日こそのんびりしようとしたのだが…。
幸伶「英春くん、虫取りに行こう!」
英春「……は?」
なぜか、幸伶と望美に虫取りに誘われた。
どうやら、山に行ってカブトムシやらクワガタやらを捕まえたいようだ。
そのためのトラップ作りを手伝ってほしいのだと言う。
面倒くさいが、小学生という遊び盛りの年齢の子供に、虫取りという言葉の響きは、なにやら興味をそそるものがある。参加してやろう…。
望美「よーし、まずはバナナの皮でしょ。」
幸伶「たくさんあるよ。」
英春「………!!」
なんと、幸伶はどこから持ってきたのかもわからない大量のバナナの皮を持ってきた。
さすがに数日もすれば腐るだろうから、直近のものを集めてきたのだろうが、さすがに多すぎだろ…。
英春「…で、このバナナの皮をどうするんだよ…。」
どぎついバナナの匂いにあてられたが、何とかまだ耐えている。
望美「これを、焼酎に漬けて発酵させるよ。」
…ただでさえヤバい匂いなのに、もっとヤバくする気か……。
英春「…子供がどうやって焼酎なんて手に入れるんだよ。」
幸伶「警備のおっちゃんからもらってきた。」
英春「大人が小学生に酒を渡すなーー!!」
警備のおじさんは何してるんだ…。幸伶に何か与えたらろくなことにならんぞ。
…と思っていたのだが、幸伶の手に握られている瓶には、ほんの少ししか入っていなかった。さすがに、警備のおじさんも話は理解していたのだろう。
望美「それじゃあ、幸伶はバナナをボウルに入れてきて。」
英春「え、ボウル使うの……?」
幸伶「あいあ〜い。」
望美「ヒデ、マスクしてきて。」
英春「あ、ああ…。」
色々と不安だが、今は従うしかない。自分で参加するといった折、反乱をしでかすようなことはできない。
…だが、料理でも使うボウルを引っ張り出してきたことは許さん。
俺は、不織布のマスクを手に取ったまではよかったのだが、これをつけるほどか?と疑問に思い、ポケットにマスクを突っ込んだ。
台所ではすでに準備ができていた。
望美「よーし、バナナに焼酎をかけまーす。」
望美が瓶を開け、思いっきりぶっかけた。
英春「ぅ゙ッ!!!」
その瞬間、耐えがたい激臭が鼻を襲った。
幸伶「うええ……。」
望美「このまま1時間目待つよ。」
望美はボウルにラップをかけた。
今が午後1時なので、さすがにまだほかのこともやるはずだろう。
森に移動した。夏のつよい日差しも、ここまで来るとだいぶ和らぐ。
俺たちは害虫対策で長袖なので、あまり日が当たらない恩恵を授かれていないのだが…。
幸伶「えーっと、ここにライトトラップだっけ。」
望美「そうそう。この辺でいいかな。」
ライトトラップ…。虫は確かに蛍光灯などの光に寄ってくる。それを捕まえるというわけか。
これは聞いたことがあった。
小さい頃、暇つぶしに見ていたテレビ番組でやっていたような気がする。
…あれ、たしか布がいるよな…、このトラップ…。
結構大きめのやつを使わないと成り立たないはずだ。
英春「おい、布はどうするんだよ。」
望美「ああ、用意してきたよ。これ。」
望美は、まるで勝ちほ誇ったかのように、そのトラップ用の布を取り出した。
英春「って、おい!!それ俺の布団カバーじゃねえか!!」
幸伶「え、そうなの?」
英春「そうなの?じゃねえよ!返せ望美!」
俺は、望美の手にあるカバーを強奪した。あまりにも身勝手すぎて、さすがに見過ごせなかった。
望美「仕方ないか…。幸伶、物置から適当に布持ってきて。」
幸伶「ええ?僕がやるのお?」
望美「言い出しっぺは幸伶じゃん。ほら。早く!日が暮れちゃうよ!」
時間は全然ある気がする。山に移動して、トラップの骨組みを作るのにかなり時間を要したが、それでもまだ午後2時だ。虫を捕るにはまだまだ待つ必要がある。
1時間経っても、まだ幸伶が帰ってこない。
森のなかで待つのも危険なので、南にある湖、"三質湖"の辺りに移動した。
疾照に連絡して、幸伶に三質湖に来るように伝えてもらったか、それでもまだ来ない。
望美「…遅いね…。幸伶。」
英春「…何か事件に巻き込まれたか…?」
望美「ええ?まさか。さすがの幸伶でもそんなことはならないでしょ。」
英春「いや、あいつのおちゃらけ具合なら、軽く事故くらい起こすだろうな。」
望美「…差し入れ何にしようかな…。」
英春「すでに捕まった扱いすんな…。」
…とはいえ、心配なのも事実。このまま待っていても埒が明かない。
英春「…探しに行くぞ。」
望美「そう来なくっちゃね。と言っても、どこを探すの?」
英春「幸伶は大きい布を探しに行ったんだ。それならゴミ捨て場なり工事現場なり、色々探す余地はあるだろ。」
望美「じゃあ、私は東の方に行ってくる。」
英春「ああ。わかった。」
俺のなかでも、幸伶が居そうな場所を何箇所か絞り込んだ。…が、まずは、最後に幸伶に接触したであろう疾照の話を聞くしかないようだ。
…本当に、迷惑ばかりかけやがって…。




