第21話 意義を考える
授業も終わり、清掃の時間になった。俺と幸伶、七夜は体育館前の廊下担当である。
七夜「さ、寒い…。」
英春「た、確かに…。」
雨が降っているのもそうだが、風が強い。太平洋側のムシムシした夏の空気ではなく、冬の空気に感じられる。おまけに、3人とも半袖なので、余計に寒いのだ。
幸伶「そう?全然寒くないと思うけどね。」
英春「それはお前の肌の感覚がおかしいだけだ…。」
俺と七夜が寒さに苦しんでいる中、幸伶だけが平気な顔をしていた。…平気ならしっかり手を動かしてほしいものだ…。
幸伶がまともに掃除をした日は、数えられる程度しかない。サボり癖がひどすぎて、何度も先生に注意されている。
英春「し、仕方ない…。何とか動いて、温まろう…。」
七夜「そ、そうだね。」
体育館前の廊下はほぼ外だ。えげつないほどに風が音を立てるので、雨が中まで入ってくる。勘弁してほしいのだが…。
俺と七夜が気を紛らわせるためにほうきで掃いている中、幸伶は体育館の入り口に置かれたロッカーに積もってるホコリに絵を描き出した。
まあ、いいか…。別に連帯責任が課せられるわけでも、俺たちが損するわけでもない。…いや、労力が増えるという損はあるかもしれないが…。
少なくとも、目立った害は降り注いで来ないわけだ。
七夜「…ねえ、最近なんか本読んだ?」
英春「ああ。瀬戸こがわ先生の推理小説シリーズの新作だな。やっぱりおもしろいぞあれは。」
七夜「え!あれ新作出たんだね!今度買おうかな〜。」
英春「あの作品、結構ためになる描写も多いのになぜか図書室に入れないんだよな…。」
七夜「ははは…。なんか、変な理由でもあるんじゃない?」
ここ数ヶ月で、七夜もだいぶ人と話すのに慣れてきたようだ。最近は頑張って会話のなかに入っているのだそう。
雑談をしながらも、手を動かしてはいたが、やはり幸伶は絵を描いている。すると、見回りの先生がやってきた。
「…この子は…、ここの担当かね?」
七夜「ええ…、まあ…。」
英春「何回注意してもまだサボるんです。どうにかしてもらえませんか?」
「はあ…。この子のことはほかの先生からも聞いている…。おい、そこの君。」
幸伶「え?はい。僕ですか?」
「君以外に誰がいるのだね?聞くところによると、君は毎回、毎回掃除をサボっているそうじゃないか。
君は、掃除の目的を理解していないようだね。帰りに職員室に来なさい。」
あー、とうとう先生たちの堪忍袋の緒が切れたようだ。
その後の幸伶による言葉として言い表せない謎の残念ポーズを見て、俺と七夜はクスクス笑ってしまった。
その時、掃除の時間の終了を知らせるチャイムが鳴った。
教室に戻り、先生からの連絡を受けて下校の時間になった。
とはいえ、みんなしばらくは教室に留まるのが恒例みたいになっており、1人で帰ろうとする者は今のところ現れない。
かく言う俺も、今日は何の当番もないので、この後はいくらでもゆっくりしていていいのだ。まあ、やることと言えばもっぱら読書なのだが…。
…パソコンをいじってみるか…。
ほとんど忘れていたのだが、5月の時に祖父からノートパソコンが送られてきた。特に使い道がなかったので机の中にしまっていたのだが、さすがに使わないのももったいないので、今日はパソコンの初期設定をすることにした。
そうと決まれば、さっさと帰ろう。
しかし、現実とは無情なものだった。
直我「おいみんな…、大雨警報が発令された。」
英春「……え?」
幸伶「…大雨警報…?」
望美「え、今…?」
ふと外を見てみると、いつの間にかかなりの雨量になっていた。まさに、横殴りの雨である。
凌貴「ちょ、ちょっと待ってください!?帰れるんですか!?」
直我「今は、学校で待機だ。このまま解除されなければ、みんなの保護者へ迎えをお願いする。短期移住の子は警備員さんが来るはずだ。」
…ああ、もう、本当に面倒くさい…。やっぱり、俺に梅雨は合わないらしい…。
虎彦「なあヒデ、大富豪やろうぜ。」
仕方なく読書を始めようとすると、虎彦が遊びに誘ってきた。まだまだこいつのことは何もわからない。
参加してみてもいいかもしれない。
英春「わかった。参加する。」
虎彦「よおし!ちなみに、メンバーは剣蔵と瑞穂、優来だ。」
英春「なるほどな。」
俺は、虎彦に連れられて集まりの中に混じった。
瑞穂「ヒデは大富豪やったことあるか?」
英春「ああ。それなりには得意なつもりだ。」
優来「なら期待できるね!」
瑞穂「こいつめっちゃ強いからな。」
剣蔵「トラー、早く始めようぜ。」
虎彦「おーし、じゃあ札を配ってくぞ。」
戦いが始まった。俺の手持ちで強いのは、2が1枚、Aが2枚、Kが1枚、といったところだ。
ーールール説明ーー
大富豪は、順番に手持ちの札を出していく。出せる札は前の人より数字が大きいもののみで、最弱は3で、そこから4、5と続き、10、J、Q、K、A、2、そして最強はジョーカーとなる。最初の人はどんな札でも出せるので、なかなか強い。同じ数字を同時に出すことも可能で、4枚同時に出すと"革命"となり、ジョーカーをのぞく全てのカードの強さが逆転する。
特殊ルールも多く、8を出すと自分を第1手として再スタートできる"8切り"、ジョーカーに唯一対抗できる技、"スペード3返し"、11、つまりJを出すと革命と同じくジョーカー以外の全ての強さが逆転する"イレブンバック"などがある。
さて、第1手は瑞穂で、次は虎彦。俺はその次だ。
瑞穂は3を2枚出した。一方はスペードの3だ。瑞穂よ、ルールを知らないのか?もったいないぞそれ。既にジョーカーに対抗できる技はなくなったが、虎彦、どう来るか…。
…5を2枚…。2枚出されたらその後も2枚出さないといけないんだよな…。
…これだ。俺は8を2枚出した。
剣蔵「ゲッ」
優来「や、8切り…。」
結論、俺が圧勝した。
優来「く、くそおおお!!私が…!このクラスで大富豪最強の私が…!負けたああああああ!」
瑞穂「すげえな、ヒデ。圧勝だぜ?」
英春「大富豪は戦略だ。戦略が良ければ大貧民からでも大富豪に成り上がれる。」
虎彦「参考になんねえアドバイスだな!」
その後、下校も解禁され、俺たちは解散した。
時刻は4時46分。…飯、間に合うか…?




