第20話 紫陽花にはご注意を…
あの事件から、はや数日。事件のほとぼりが冷めると、今までの日常が戻ってきた。しかし、まだ6月。まだまだ雨の季節は続くようだ。
望美「ああ!アジサイが咲いてきたね!」
望美が指さす方向には、青や紫に塗られたアジサイの花々が咲き乱れていた。
追風小学校は、とにかくいろんな植物が植わってる。
子供たちに四季の実感を持たせるためだと言う。それをして何のメリットがあるのかはよくわかっていない。
幸伶「アジサイといえば、カタツムリだよね。よく葉っぱの上にいるし。」
英春「…それ、フィクションだぞ。」
幸伶「いええええええええあえ!?!?」
望美「そうなの!?」
幸伶の驚き方が変だが、そんな事はどうでもいい。
アジサイの葉には毒がある。フィクションのアジサイの葉の上にいるカタツムリを人間に例えるなら、
溶岩の上を歩いているようなものなのだ。
軽く解説をして、教室に入るとこれまた騒ぎが起きていた。
和城「…どういう状況?」
凌貴「ああ、剣蔵と鍛郎が、喧嘩を始めやがった。」
素朗「面倒くさいよ、ほんとに…。」
疾照「…なかなか、派手にやってますね…。」
2人は殴る蹴るなどの凄惨な喧嘩をしてやがる。
周りの机やら椅子やらを蹴飛ばす勢いで…。
そのなかには、俺の机も含まれている。勘弁してくれ…。
とんでもない勢いの喧嘩に、誰も手出しができず、ただ見守ることしかできなかった。
虎彦「うわー、これは…。」
瑞穂「…誰か、先生呼びに行くか?」
優来「そのほうがいいよね。」
幾斗「何かあるとMAZUI。行くのは2人KURAIでいいんじゃないか?」
普段ふざけてばかりいる面々すらまともに解決しようとしている。これは、なかなかのものだな…。
英春「俺が行ってくる。望美。念のためお前も来い。」
望美「仕方ないなあ。」
英春「幸伶。もし周りに危険を及ぼすことまでに発展したら、迷わず止めろ。それができるのはお前くらいだからな。」
幸伶「わかった。」
それだけ言い残して、俺と望美は教室から出た。外に出ても、剣蔵と鍛郎による罵声は聞こえてきた。
望美「ほんと、めちゃくちゃだよ!なんで喧嘩なんかしてるんだろ…。」
英春「…鍛郎はともかく、剣蔵は喧嘩っ早いからな…。小さいことでキレたのかもしれん。」
望美「ええ、ちょっと怖い…。っていうかさ、ヒデって剣蔵と昔会ったことあるんでしょ?対応策とか知らないの?」
英春「知ってたらやってる。あいつは一度怒り出したら大人にしか止められん。そういうやつだ。」
すぐに職員室についた。俺は戸をノックして、どうぞと言われたら入った。
英春「失礼します。4年い組の英春です。矢張先生はいますか?」
「矢張先生は、今どっかに行っちゃっててね。わからないんだ。」
ほかの先生がすぐに対応してくれた。
英春「そうですか。わかりました。」
俺は職員室の戸を閉めた。
望美「…どうする?職員室にいないんじゃあ、あの人どこにいてもおかしくないよ?」
英春「…仕方ない。教室に戻ろう。」
このままここで待っているわけにもいかないので、俺たちは踵を返して教室に戻ることにした。
相変わらず雨は降り続けており、この前の事件のこともあり、学校内にはどうもピリついた空気がたまり、よどんでいる。
教室に戻ると、先ほどまでのうるささとは一転、鍛郎と剣蔵はどこかへ行っており 、みんなはいつものように談笑していた。
望美「…どういうこと…?」
英春「さ、さあ…。」
たった数分しか席を離れていなかったにもかかわらず、ここまで空気が変わったことに、俺も望美も困惑を隠せなかった。
英春「…さ、幸伶…。これは、どういうことだ…?」
幸伶「ああ、剣蔵と鍛郎は矢張先生に連れられてどっか行ったよ。あと、1時間目は自習だって。」
…先生の耳に入ったんだな…。望美も納得しているようだ。
数分するとチャイムが鳴り、1時間目が開始される。
俺は苦手な算数のドリルを開いて、問題を解いていく…。つもりだったのだが…。
幸伶「げ〜〜〜ぶげぶげぶげぶ…。」
…これは…、いびきか…?幸伶の席は少し離れているが、ここまで聞こえるいびきをかくほど爆睡していた。日頃から夜更かしするからだ…。というか、いびきの音があまりにも汚い。もう少しマシな擬音はないものか…。
…で、嫌な予感がして前を見ていると、幾斗は一定のリズムで首を振ってる…。よくクラブなんかで見るような、チャラい感じだ…。別に、幾斗が音楽を聴いているわけではない。ただ、首を振ってるだけなのだ。
後ろの虎彦に目を向けると、筆箱から無限に出てくるのではないかと思うくらいにはたくさんある鉛筆で、タワーを作っていた。しかも耐震性。知ってたとして、なんでそれを作れるんだよ。
素朗はマジメに自習している。凌貴もだ。
しかし、この"うるさいわけではないのに集中できない環境"に、やはり迷惑さを感じているようだ…。
そんな状態が十数分続いたが、突如として扉が開いた。
そこから、お互いに申し訳なさそうにしている鍛郎と剣蔵が出てきた。
直我「悪かったな。こっちの問題を解決したぞ。」
優来「よかったー…。」
和城「とりあえずは、一件落着か…。」
みんなそれぞれ安堵の声を漏らしている。
直我「ちなみにー、今から授業はー…。」
幾斗「はああああああああああ!?」
凌貴「いやー、それは…。」
優来「許しませんよ?」
素朗「やっていいことと悪いことぐらいわかりますよね!?」
疾照「せっかく苦手を克服しようとしていたのに…。」
瑞穂「コレは!自習権侵害だ!」
幸伶「自習は権利!」
望美「お腹すいたなー。」
先生への抗議とは思えないような言葉が飛んできたり、1人だけ抗議じゃない言葉を投げかけていたが、おおよそ意見は同じらしい。
既に1時間目が始まってから20分たった。
今さらできる授業など、ほぼないのだ。
直我「スマンな…。この時間は全部自習だ。」
マジメに取り組んでなかった者たちが1番喜んでいたが、先生の監視の目もあり、遊ぶことはできなかったそうである。
アジサイは、その時も美しく咲き乱れていた。




