第18話 雑に扱われた特技
体育館にいた男は、まさしくあのポスターに写っていた殺人犯である。手にはどこで手に入れたかもわからない拳銃…。
やつの後ろには子供…、そのなかには、幸伶や望美をはじめとした4年い組の面々もいた。
対して、こちら側は、俺と虎彦、剣蔵、新澤さん、杉浦さん、上田さんのみ。
警官と犯人という目で見れば3対1だが、相手は指名手配を受けるほどの凶悪犯だ。何をしでかすかわからない。
樹春「犯人め…!その銃を降ろせ!」
「…降ろせって言われて降ろすやつがどこにいるんだよ。おい、逃走用のクルマを用意しな。そうすれば、ガキの命は助けてやるよ。」
"は"を強調した。ほかの人間は殺すつもりなのだろう…。現に村民が1人殺されている。
愉快犯がたった1人だけ殺して去るとは考えられない。恐ろしい話だが。
周りにいる人質の子供たちを見てみると、やはりと言うべきか、みんな恐れを抱いている。
英春「…あいつ…、望美を…!」
望美の腕には切傷があった。ここに来るまではそんなものあったわけがないので、十中八九やつがつけたものだろう。仲間を傷つけられたのは許せることではないが、突発的に動いて死ぬのは俺の方だ。
いや、ヤツのことだ、下手したらこの場の全員を殺してもおかしくない。
殺人犯と警察官。互いに拮抗した状態で、戦況は硬直した。こうなると、子供どころか一般の大人でさえ手出しはできない。互いに、詰み。
虎彦「おい、英春。」
英春「なんだよ…。こっちは殺人犯から見えてるんだ。今は勘弁してくれ…。」
虎彦「そう。それだ。オレと剣蔵は今、殺人犯の位置からは見えない。」
英春「…お前、まさか…。」
なんとなく、虎彦がやろうとしている作戦を理解した。すごく単純だが、頭に血が上って視野が狭くなった犯人からしたら、予期せぬ事態になりうる作戦だ。
虎彦「オレと剣蔵が、グルっと回って犯人の死角になってる扉から入って、やつをぶん殴る。」
名郷「…なら、コレを持っていけ…。」
新澤さんは、虎彦にスタンガンを渡した。もちろん、このやりとりは犯人に見られていない。
名郷「…命が最優先だ。失敗したら、全力で逃げなさい…。私たちは、ここを動くわけには行かないからな…。」
虎彦「…任せろ、母ちゃん。」
剣蔵「行ってきます。」
そう言って、2人は体育館の裏に回った。
あとは、犯人に俺たちの計画を悟られたくはない。
俺は必死に真顔を作った。コレに徹するしかないのだ。
「警察官よお〜、いつになったら車よこしてくれんだよお。早くしねえとこいつらぶっ殺すぞぉ!?」
そう言って犯人は上に向かって発砲した。
うわッ撃ちやがったよこいつ…!
弾丸が当たった影響で、天井からはほこりがポロポロ落ちてきた。
その時、犯人の後ろにある扉が、ほんの少しだけ音を立てずに開いた。
虎彦と剣蔵は、何とか向こうに回れたらしい。
犯人は相変わらず警察官に向かって怒号を浴びせている。扉が半分ほど開いたとき、鋭い金属音が鳴り響いた。扉が音を立てたのだ。
まずいぞ…。犯人もさすがに音に気が付き、振り向いた。
虎彦「!!!」
「何してんだガキ。…そうか…。まずはお前から殺してやらあ!!」
犯人が虎彦に向かって走り出した。虎彦と剣蔵は逃げようとする。同時に新澤さんをはじめとした警察官が、犯人の方向へ走り出した。そして、これら3つの動きのなかで、隠れて動きはじめた者がいた。
伊佐幸伶だ…!
英春「さ、幸伶…?何をする気だ…?」
邪魔になると考えて、俺はその場に留まったことで幸伶が動き出す様子を確認することができた。
幸伶は犯人に向かって走り、後ろから蹴りを入れた。
そのあと、思いっきり首を絞めた。
英春「えええええええ!?!?!?幸伶!?」
和城「うわあああああ!!幸伶何してんだ!!」
鍛郎「す、すげえ…!!」
「ぐ…!ガッ!!な、何してん…だ…!ガキィ゙!!」
幸伶「離すもんか!お前は、僕の大切な人を傷つけたんだぞ!?」
幸伶は、攻撃の手をやめない。杉浦さんに止められてようやく手を離した。犯人は、気絶している。
あれから、警察官の増援が来て、連続殺人指名手配犯、内藤誠二は逮捕された。大人たちが対応に追われる中、4年い組のメンバーは、幸伶に質問攻めをしていた。
望美「すごいよ幸伶!!あんな的確に犯人倒しちゃうなんてさ!」
疾照「ボクシングやってたなら言ってくれればよかったのに…。」
そう、幸伶は幼少期からボクシングを習っていたのだ。
幸伶「いや…、好きでやってるわけじゃないし、これを話すと、毎回変な勘違いをされるからさ…。」
英春「…でも、お前は人を守った。」
凌貴「そうだよ。嫌々だったのはつらかったかもだけど、君は人を助けることができたんだよ。誇っていいことだ。」
素朗「そうだよ。それに、私はカッコいいと思うよ。戦える人って。」
幸伶「…そうかな…?」
幸伶は、照れながらも、どこかうれしそうに振る舞った。俺も、はじめて見たときは驚いた。でも、怖いなどの負の感情は沸かなかった。それに、勘違いから来る摩擦のつらさは、俺や七夜がよくわかってる。その場は、幸伶を褒め称える温かい空間になった。
虎彦「…剣蔵。親に言ってこないでいいのか?今回の功績。」
剣蔵「…いや、もういいんだ。俺にはまだ早かったよ…。警察ごっこなんてバカみたいなことをせずに、しっかり警察学校行けるように勉強しようかな…。」
虎彦「次は諦らめんなよ?」
剣蔵「…当たり前だろ。」




