第13話 警告
まだ6月になったばかりだが、このクラスに転校生の噂が立ち込め始めた。突然現れたこの出所不明な噂は、息がかかるように周りに広まった。
そして、毎日雨が降る中、今日も話題といえば転校生のことで持ちきりである。
鍛郎「どんな奴なんだろうな。」
凌貴「そもそも、本当に来るのか?」
素朗「間違いないよ。矢張先生に聞いたからね。」
望美「ええー、気になる。そもそも、性別からすでに気になるもんね。ヒデは?男の子と女の子、どっちが来ると思う?」
英春「えーーーー、うーーーん…。」
この際だから公言する。興味がない。ほんとうに。
前の学校でも、たびたび転校生は現れた。新しい仲間だーとか、先生は言うものの、けっきょく俺や、転校していった山本に真の意味で味方したやつなんて、いなかった。本当に、ただ、傍観するだけ。
今、俺の周りにいるクラスメイトは、そんな奴らではないとわかるものの、今後来ることになる転校生が、彼らと同じかどうかはわからないのだ。その危険もあり、俺は興味を持たないことにしたわけだ。
とはいえ、そんな事をいうと後々面倒くさくなりそうなので、適当なことを言うことにした。
英春「…別にどちらでも。」
望美「うわー、そう来たかぁ!じゃあ七夜ちゃんに聞こー。」
鍛郎「七夜が、会話するのか…?」
望美「変に詰め寄らなければしてくれるよ。まだたまに逃げちゃうけど。」
凌貴「ふ〜ん…。」
望美が七夜の元へ行こうとした瞬間、教室の戸が開いた。
直我「おはよう。久しぶりの矢張先生だぞ!」
和城「いや、先生は学校の日にいつも会ってるじゃないですか…。」
直我「いや読者さんは第8話以来だからな。俺を見るのは。」
…なんの話をしてるんだこの人は…。
直我「そんなことは置いておいてだ。みんなも知っているだろうが、転校生を紹介する。」
その言葉を聞いた瞬間、俺以外の全員が多少の驚きと高揚に包まれた。しかし、次に先生から発せられた言葉には、俺も耳を疑った。
直我「なんと、2人いるぞ。」
「…えええええええええ!?!?!?!?」
クラスの中はずっとこんな調子で、俺も心底驚いた。
直我「静かに!とりあえず、その2人の転校生を呼ぶ。ほら、入ってきなさい。」
戸を開け、入ってきたのは、2人の男子。
先に入ってきた方は、鍛郎のような青い髪をしており、眼鏡、なのかゴーグルなのかよくわからないものをかけている。2人目は、望美のような、いや、望美よりは赤みがかった桃色の髪をしている。
直我「はい、では、自己紹介を。」
青髪のほうが話し出した。
虎彦「オレは、新澤虎彦だぁ!!親は警官!よろしく!」
桃髪も続く。
剣蔵「俺は、塩谷剣蔵。よろしく頼んだぜ。」
その2人は軽くあいさつを済ませると、朝の会は終わった。…俺は、桃色髪の、塩谷剣蔵とか言うやつに、既視感を覚えた。…どこか出会ったことある気がする。
休み時間になると、やはり2人は質問攻めにあっていた。俺は面倒事に巻き込まれたくないので、1人で絵を描いていたのだが、いかんせん席が近いので、俺の方にも話題が飛び火してきた。
幸伶「英春くんも質問しなよ。」
英春「えー、面倒くさい…。」
素朗「そんな事言わずにさ。近くにいるだけでいいから。ほら。」
素朗のせいで、強制的に立たされた。そして、例の2人のところへ連行される。
剣蔵「…お前…。」
英春「…え、俺?」
突如、剣蔵が俺を指差した。
幾斗「…へ?」
鍛郎「何かあったか…?」
剣蔵「お前、英春だろ!!」
なんと、名乗ってもいないのに剣蔵が俺の名前を当ててきた。
虎彦「剣蔵、こいつと知り合いか?」
剣蔵「いやいや、保育園時代に会ったことあるだろ!!ほら!」
英春「………ああああああ!!剣蔵!お前だったのか!!」
はっきり思い出した。俺が祖父に預けられていた保育園に、この塩谷剣蔵もいたのだ。仲が悪かったわけでもないので、少しうれしい。
幸伶「えええ!?知り合いだったのお!?!?」
瑞穂「意外すぎる…。」
望美「ま、マジかぁ…。」
突然の再会に、俺たちは心底驚いた。だが、少なくとも新たな仲間として見ることはできそうなやつだ。
…虎彦とかいうやつはわからんが…。
その後もクラスメイトによる質問攻めは続き、俺は居所をなくしたため七夜の机のところに避難した。
七夜「…大変そうだね…。」
英春「まあな…。席が前の方だとよくあることだ…。」
七夜「…英春くんは、嫌なことを嫌だって言わないの?」
英春「…言うぞ。普通に。抑えるのは自分を殺している感じがして、自分に申し訳なく感じてる。」
七夜「じゃあ、あの時、なんでついて行ったの?嫌がってたのに…。」
英春「…そこまで嫌ではなかったからかな…。…いや、本当は、無意識に自分を殺してるのかもな…。
何も考えてなくても、"嫌われないように"って思ってるのかもしれない…。」
教室の窓から見える紫陽花と、今だに降りしきる雨、少し暗い電気のせいか、俺と七夜の間には少々しんみりとした空気が立ち込め始めた。
七夜「…私もあるかもね…。例えば、…今真っ只中、とか…。」
英春「…俺に嫌われたくないってことか…?」
七夜「そうだね…。だって、君は、私の意思を尊重してくれたから…。」
…俺だって立派じゃないし、半人前の土俵にも立てない未熟者だ。だが、この空間では、そんなこと関係なしに、お互いをお互いのまま知れる。
変に着飾らなくていい。
幸伶「2人で何話してるのさ〜。」
優来「私たちも混ぜてよ〜。」
英春「うわッ生物兵器!また俺たちに危害を加える気か!?」
優来「またそれ?やめてよ〜。ま、気にしてないけど!」
幾斗「安心しろ。HIDEHARU。こいつになら何言ってもいいぞ。TATOEVAAAAAA、…悪口が思いUKABAN!」
今は、暗く考えなくてもいいようだ。新たな仲間もできたこの教室のまま、しばらくは安寧の時を過ごしたい。




