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第50話:決着

 ノエルを呼ぶ声に、バーバラは驚いて振り返った。


 どうやって後をたどったのか、ステラとローワンがバルコニーに上がってきていた。


(なんで追いつかれたの? 全部台無しだわ!)


 こうなったら、ノエルは邪魔なだけだった。


(逃げる時間を稼がないと!)


 バーバラはノエルを突き飛ばした。


「あっ……」


 たたらを踏んだノエルがバランスを崩し、城壁の向こうへと倒れた。



「ノエル!!」


 バーバラに突き飛ばされたノエルがゆっくり階段の外側へと落ちていく。


 信じられないスピードでステラは駆けていた。


(間に合って!)


 地面を蹴り、ほとんど倒れ込むようにしてステラはノエルに飛びついた。


 思い切り手を伸ばし、城壁から落ちたノエルの手をつかむ。


「……っ!」


 ステラはかろうじて小さい手をつかんだ。

 と、同時にずっしりとノエルの全体重がかかる。


「助けて!」


 ノエルがこちらを見上げ、悲痛な声で叫んだ。

 その体は城壁の外でぶら下がっている。


「おかあさま!!」


 引きちぎられるような痛みをこらえ、ステラは必死で笑みを浮かべた。


「大丈夫よ、ノエル……絶対に離さないから!!」


 だが、とても片手では支えきれない。

 引き上げることもできず、ずるりと手の力が抜けていく。


 最悪の事態が頭をよぎったとき、背後からローワンが覆い被さってきた。


「大丈夫です! もう腕をつかんだ!」


 ローワンが片手でステラを支え、もう一方の手で力強くノエルの腕をつかんでいた。


「もう大丈夫だ!」


 そう言うと、ローワンが思いきりノエルの腕を引く。


 鍛え上げているという言葉は伊達ではなかった。

 一瞬にして、ノエルはバルコニーの上に引き上げられた。


「おかあさま!」


 泣きながら飛びついてくるノエルをステラは思いきり抱きしめた。


 もう無事だとわかっていても震えが止まらない。ノエルも同じくらい強い力で抱きしめてくる。


「ノエル! よかった……!」


 腕の中の温かいノエルの体に涙がこぼれ落ちてくる。

 もう少しでノエルは城壁から落ちるところだった。絶対に助からない高さだ。


 ステラはひとしきりノエルを抱きしめると顔を上げた。


「ローワン様、本当にありがとうございます」

「当たり前のことをしただけだ」


 ローワンが膝を立て、じっとノエルを見た。

 その大きな手は一瞬躊躇ったのち、ノエルの頭に載せられた。


「俺は……父親だからな」


 それは気負いもなく、自然な言葉だった。

 ステラは胸が熱くなり、またもや涙がこぼれ落ちた。



 ノエル誘拐の顛末はただちに王へと報告され、バーバラは誘拐罪などで追われる身となった。


 後日、王都に潜伏したところを捕縛され裁きを受けることになる。


 情状酌量の余地もなく、ステラは厳罰を望んだ。

 もう義家族だったという温情も消え失せていた。


 二度と同じことを繰り返させるつもりはない。

 バーバラは投獄が決定した。


 王宮から戻って数日がたち、ようやくノエルも笑顔を見せるようになった。


 ステラはホッとしつつも仕事をセーブし、なるべくノエルと過ごすようにしていた。


 そして驚くべきことに、ローワンが食事の場だけでなくお茶会まで顔を見せるようになった。


 ローワンがいるだけで、ノエルが落ち着くのがわかった。

 自分を助けてくれた頼りがいのある保護者がいるという安心感があるのだろう。


 そして、ありがたいことに事情を知ったヨシュアがアリーシャを連れて見舞いにきてくれた。


 久しぶりにアリーシャと思う存分遊べたノエルは、悪夢にうなされることもなくその夜はぐっすりと眠ることができた。


 ようやくこれまでの平穏な生活が戻りつつあったとき、ステラたちにまたもや王から手紙が届いた。


 ステラと非公式に話したいとのことだった。


「何かしら……」

「おそらくはテロ事件についてだろう」


 手紙を渡すとローワンが思案するように顎に手を当てた。


 王宮のテロについては、逃げる際に転倒したりして軽傷者が出たくらいで被害はほぼなかった。


 だが、もちろん王は事態を重く捉え、綿密な調査を行っていた。


「やっぱり、ホーキンス公爵の仕業だったのかしら」

「行ってみればわかる」


 不安が胸に渦巻く。


 もともとは、シャーロットがローワンを籠絡するために手を貸したのだ。

 ローワンも無関係ではない。


(何事もなければいいのだけれど……)


「召喚されたのはきみだけだが、もちろん私も行く」


 ローワンがきっぱりと言った。

 ノエルの事件以来、ローワンの顔つきや態度が明らかに変わっていた。


 ステラは頼もしい思いでうなずいた。


「ええ。一緒に来てください」


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