第51話:家族の姿
「よく来てくれた、ステラ」
城奥の応接室に通されたステラは緊張しつつ頭を下げた。
ザイオン王の機嫌はいいようで、鷹揚に笑みを浮かべている。
「調査の結果、そなたの言ったとおり、ホーキンス公爵の仕業だとわかった」
いきなり本題に入られ、ステラは驚いた。
「現在、他国へ逃亡している。足取りを追っているが、まだ捕まえられていない。だが、決して追跡はやめない。親族や協力者は財産を没収の上、投獄もしくは国外追放する」
王国への反逆罪で、下手をしたら大量の死者が出たかもしれない事件の首謀者だ。
王の采配は妥当だった。
(親族を全員処刑と言い出すのではないかと思ったけれど、よかった……)
おそらく主犯のホーキンス元公爵は極刑を免れないだろう。
「そして、シャーロットだが」
ステラはドキッとした。
結果的にテロの片棒をかついでしまったシャーロットの処遇は気になるところだった。
「他国への嫁入りを検討している。そろそろ、姫としての自覚を持ってもらわねばな」
宝石の記憶どおりであれば、シャーロットは完全に共犯者だ。
本来なら、処刑されてしかるべきだが、やはり可愛い姪を処刑するのは躊躇われたのだろう。
動機もローワンへの恋慕のためで、あからさまに利用された形だ。
王や国に対する反逆の意図がないのであれば、じゅうぶん情状酌量の余地はある。
「愚かな姪の行動について謝罪する」
ザイオン王が頭を下げたのでステラは慌てた。
「い、いいえ。私は特に怪我もなかったので……」
「そなたの力がなければ、大惨事だった。褒美を取らせる」
「あ、ありがとうございます」
恐縮しているステラにザイオン王が微笑みかける。
「ヨシュアからも話を聞いているが……そなたはかなり優秀な魔宝石師らしいな?」
「とんでもございません。まだまだ未熟者で……」
これは謙遜ではなく本音だ。今回、いろんな課題が浮き彫りになった。
かたわらのローワンを纏う空気がぴりっと緊張をはらんだ。
(やっぱり……私の能力を見逃すわけはない)
ザイオン王がステラを見つめる。
「そなた、国家魔宝石師になる気はないか? 宝石の記憶が読める……これは素晴らしい力だ。何しろ、宝石は嘘をつかない。真実を知ることができる」
ステラはドキドキしてきた。嫌な予感が膨れ上がっていく。
「余は他国へも行く。その時に同行してもらえれば心強い」
やはり予感は的中した。
(スパイにされるのね。女だから疑われにくいし)
ステラもわかっていた。自分の能力が潜入捜査向きだということを。
(ああ、どうしよう。王からの依頼を断ることなんて――)
そのとき、黙って隣で聞いていたローワンが進み出た。
「せっかくの申し出ですが、お断りいたします」
即答するローワンに、ステラは驚いた。
ローワンはまったく臆することなく堂々としている。
まるで当然のことと言わんばかりだ。
「ほう? 断ると?」
ザイオン王の目が光る。
「彼女は私の妻です。公爵夫人として、そして母としての仕事があります」
ローワンがちらりとステラを見やる。
「私たちは結婚したばかりです。これから家族の絆を培っていく大事な時期に、離ればなれになるなど考えられません」
ローワンの言葉にステラは目を見張った。
彼の言葉からは紛れもない本心が込められていた。
(私と――いえ、私たちと本当の家族になろうとしてくれているの?)
――あなたには何も期待していません。
――あなたに何の関係が?
そんな冷ややかな言葉を吐いたローワンはもういなかった。
ステラは胸が熱くなった。
(彼は今、私を守ろうとしてくれている。王と対立することになったとしても)
ローワンが一歩も引く気がないのは誰の目にも明らかだった。
ザイオン王が値踏みをするようにローワンを見つめる。
ここで王としての権限を振るい、ステラを利用することもできただろう。
だが、王はそうしなかった。
謀反を起こす有力貴族が起こした事件の後始末がまだ終わっていない今、新たな火種を作るのは得策でないと判断したのだろう。
「そうか、その通りだな。余が結婚を勧めたというのに、これは失礼した」
あっさり王が引いたので、ステラはホッと胸をなで下ろした。
(王は第二、第三のホーキンス公爵を出したくないのね……賢明な判断だわ)
戴冠をしてまだ間もない王は、足固めの重要さを感じているはずだ。
ここは大貴族であるローワンを、しっかりと味方につけておくという計算が働いたのだろう。
「ご理解いただけて感謝致します」
ローワンが静かに頭を垂れる。
「ステラもわざわざ呼びつけてすまなかった」
「いえ、とんでもございません。ご報告いただきありがとうございます」
部屋から出ると、ステラは小さく息を吐いた。
「緊張したか?」
「ええ、もちろん! どうなることかと思いました」
ステラの感情のこもった声に、ローワンが微笑む。
「ザイオン王は貪欲だが、愚かな方ではない。私を敵に回すようなことはしないさ」
ふたりは足早に控え室へと戻った。
そこにはケンドリックとマリエルとともに、ノエルが待っていた。
「おかあさま!」
「ノエル!」
駆け寄るノエルをステラは抱きしめた。
王宮で恐ろしい目に遭ったのは確かだが、それでも片時も離れたくなくて連れてきたのだ。
前回のようなことがないよう、ケンドリックとマリエルには絶対に離れないよう言いつけてあった。
「さあ、帰りましょう。それとも、王都でお買い物をする?」
ノエルがもじもじと指を絡めた。
「お菓子屋さんと本屋さんに行きたい……」
「いいわね!」
ステラは顔を上げるとローワンを見やった。
「少し買い物に寄ってもいいですか?」
「ああ、もちろん」
そう言うと、ローワンがすっとノエルの隣に立った。
そして、とても自然にノエルの手を取った。
ノエルの目が驚いたように見開かれる。
「……またいなくなったら大変だからな」
手を繋いだ二人の姿はまるで本物の親子のようで、ステラは目が潤むのを感じた。
「行きましょう」
ステラもノエルの手を取った。
手を繋いだ三人を日の光が明るく照らしていた。
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