第48話:捜索開始
「えっ、バーバラがノエルを連れていった!?」
「はい。奥様からの指示だと言われて私……申し訳ありません!」
マリエルから事情を聞いたステラは血の気が引くのを感じた。
(どうしてバーバラがノエルを連れ出すの?)
どう考えても悪い予感しかしない。
ステラは泣き崩れるマリエルの肩に手を置いた。
「いいの。仕方ないわ」
マリエルは侍女になりたての若い娘だ。
それでなくとも、女主人の妹で貴族の言いつけを破れないだろう。
(私がしっかり注意しておくべきだった! まさかバーバラがノエルに手を出すとは)
「義妹がノエルを連れていったのか? なぜそんな……」
ローワンが困惑したように言う。
廊下に出ると、ステラは辺りを見回した。
王宮は広いうえ、先ほどのパニックでたくさんの人々であふれかえっている。
ノエルのことなど、誰も注視していないだろう。
(どうしたら……)
「この騒ぎで兵士は皆出払っているな」
周囲の人たちは殺気立っていて、とても何か聞ける状態ではない。
「私が探します」
ステラは覚悟を決めた。
「王に王宮にある宝石すべてに触れていいという許可をもらいます」
「魔宝石の力を使う気か!」
「はい」
ステラははっきりと言い切った。
能力がバレるが仕方ない。他に手立てを思いつかなかった。
「でも、きみは能力を秘密にしたいのではないのか?」
ステラはまっすぐローワンを見つめた。
この選択がどんなリスクを呼び込もうと構わなかった。
「ノエルの方が大事なので」
毅然としたステラに、ローワンが絶句した。
「私は血が繋がっていなくても、ノエルの母です」
ステラは心配そうに見つめるローワンに微笑んで見せた。
「私はあの日誓ったの。あの子を守るって」
ステラは近くの兵士に進み出た。
「王に会わせてください。緊急事態だと言って!」
ステラの語気に、兵士が驚いたようにうなずいた。
*
兵士に案内されながら、ローワンはまだ動揺していた。
(これがステラ……?)
ステラはどの騎士よりも堂々と廊下を進んでいた。
腹をくくった女性はこれほど強いのかと舌を巻く。
(いや、もともとステラはこういう女性だった)
自分よりずっと小柄なステラに圧倒されながら、ローワンも足早に続いた。
幸い、ローワンの名前を出すと王との面会が叶った。
城の最奥の部屋に通されていると、疲れた様子のでザイオン王がこちらを向く。
「緊急の用だとか?」
ステラがてきぱきと王に事情を説明する。
「ノエルを探すために宝石に触れる許可をいただきたいのです」
「いや、待て。そなた宝石の記憶が読める、と……?」
ステラが能力を開示すると、ザイオン王は考え込むように顎を撫でる。
「彼女がテロにすぐ反応できたのは、この能力を持ってして祝いの品に危害を加える魔宝石があると知っていたからです」
ローワンが補足すると、ザイオン王が軽く目を見張った。
「そのことについては後で詳しくお話しします」
ステラがずいっと足を進めたので、ローワンはぎょっとした。
パーティーの時はあれほど緊張していたのに、ステラはまるで女王のように堂々と王と対峙している。
「今は一刻を争います。宝石に触れる許可をお願いします」
ザイオン王が興味深そうにステラを見つめる。
「これが私の特別魔宝石で、お話ししたとおり宝石の記憶を読むことができます」
ステラがすっと右手の指輪を見せると、ザイオン王がうなずいた。
「なるほど……」
王の目が鋭く光った。
ステラの能力に興味を持ったのは明らかだった。
「テロの首謀者はホーキンス公爵の仕業の可能性が高い、か。そして魔宝石を入れたのは、だまされ利用されたシャーロット、と」
「私が見た記憶ではそのようでした」
ステラが目を伏せる。王と姪の関係を気遣ったのだろう。
「すぐに裏を取らせる。辻褄は合うな。そして、ホーキンス公爵の仕業とすれば既に国外に逃亡しているだろうが……」
ザイオン王が小さくうなずいた。
「よし、宝石に触れる許可を与えよう。王の許可証を持ってこい!」
近衛兵に申しつけると、王が底冷えをする目をステラに向ける。
「この件がすべて片付いたのち、そなたの能力を含め、詳しく聞かせてもらうぞ」
「わかりました」
揺るぎない声だった。その凜としたステラの姿にローワンはただ見とれた。
(口だけではない。彼女は本当に覚悟を決めている)
初めて見るステラの新しい一面が、ローワンの脳を強烈に焼いた。もう彼女から目を離せない。
「では行きましょう!」
許可証を手にしたステラが見上げてくる。
ローワンは圧倒されてうなずくしかできなかった。




