第45話:傷の男
「あんたなんかに見下される筋合いはないわ!」
ほとんど叫ぶようにしてシャーロットが言い放ち、ステラを思いきり突き飛ばしてきた。
「あっ」
よろけた瞬間、ステラはとっさにシャーロットの胸元を飾るネックレスをつかんでいた。
そのままステラは仰向けに倒れた。
ネックレスはちぎれ、周囲に宝石が飛び散る。
「う……」
床で思い切り背中を打ち、ステラはうめいた。
「あんたが悪いんだからね!」
そう言い捨てると、シャーロットが去っていく。
だが、ステラはそれどころではなかった。宝石に触れてしまったステラの脳内に映像が浮かんでいたのだ。
頬に切り傷がある壮年の男性が箱を手渡してくる。
整えられた品のいい口ひげ、あつらえたようなオーダーメイドのスーツ、高級な小物から身分の高さがうかがえる。
<いいですか、ここには特別な魔宝石が入っています>
傷の男はうっすら微笑みながら箱を指さした。
<これを王からの祝いの品に紛れ込ませ、アトキンス公爵に渡すのです>
ごくり、と唾を飲み込む音がし、シャーロットの声が聞こえた。
<そうすれば、ローワン様は私に振り向くの?>
<ええ。この魔宝石は媚薬よりもずっと強力なのですよ。必ずローワン・アトキンスの心を奪えます>
にやりと笑う傷の男からは、邪悪さしか感じなかった。
だが、シャーロットは信じ込んでいるようで大事そうに箱を受け取っている。
<本当に?>
<私が今まで嘘を言ったことがありましたか? これは特別な魔宝石でしてね――>
「つっ……!」
ズキッと頭が痛み、ステラの脳裏から突如映像が消えた。
もともと突発的な接触だったためか、ひどい頭痛が残る。
(今のは何……シャーロット様は傷の男から箱を……)
どうやら王が渡す祝いの品をすり替える、もしくは紛れ込ませるようだ。
そして、頬に傷のある洗練された振る舞いの口ひげの男性。
見たことはないが、心当たりはあった。
(あれは……爵位を剥奪されたというホーキンス公爵? 確か頬を斬られて王を恨んでいるという)
もしあれがホーキンス公爵だとすると、考えれば考えるほど嫌な予感がする。
(あの箱の中身は本当にローワン様の心を虜にするという魔宝石なの? そんなものをシャーロット様に渡すメリットがホーキンス公爵にはない)
ヨシュアの話からすると、ホーキンス公爵は王を恨み、ローワンをライバル視しているという。
ならば、彼らを貶めたい、いや危害を加えたいと考える可能性が高い。
(最悪、亡き者にしたいと思っているかも)
そうすると導き出される答えは一つ。
(シャーロット様を利用して、王とローワン様に復讐する。もしかして暗殺?)
どくん、と大きく心臓が跳ねる。
気のせいであってほしい、と願ったが、嫌な予感は募るばかりだ。
(警備をかいくぐるため、王が安心している存在のシャーロット様を使ったのだとしたら)
パーティー会場の和やかな雰囲気からも、誰も密かに進行している暗殺計画に気づいている様子はない。
ローワンもまったく心配していなかった。
(私の考えすぎ? でも……)
ステラはよろよろと立ち上がった。
打ちつけた背中や腰がズキズキするが構っていられなかった。
(とにかくローワン様に知らせなくては!)
足早にパーティー会場に戻ったステラは会場を見回した。
「ローワン様、どこ?」
その時、玉座の近くに立っているローワンを見つけた。
(あんなところに!)
人混みをかきわけ玉座へと向かったとき、ステラの耳に王の声が届いた。
「ただいまから、アトキンス公爵に結婚祝いを授ける!」
わっと歓声が上がり、拍手が起きる。
(まずい!)
祝いの品ということは、あの傷の男からの魔宝石が混ざっているかもしれない。
(特別な魔宝石と言っていたわ)
ステラは必死で足を進めた。
人が多すぎてなかなか近づけないのがもどかしい。
まだ玉座まで距離がある。
ローワンが王から箱を恭しく受け取った。
ザイオン王が誇らしげに口を開く。
「特別な魔宝石だ。開けてみるがいい」
ローワンが箱を開けるのが見えた。
「待って!」
最悪の事態を想像し、ステラは悲鳴のような声を上げた。




