第43話:不穏
「何か厄介ごとでも?」
ローワンの目が鋭い光を帯びる。ヨシュアが肩をすくめた。
「ホーキンス公爵ですよ。いや、元公爵か」
「ああ……。汚職がバレて、爵位を剥奪されましたね」
「財産もすべて没収。しかも顔を切られて、かなり王を恨んでいるようです」
「顔を?」
ローワンが眉を上げた。
「やはりご存知ないですか。ここだけの内密の話にしてください」
ヨシュアが声を潜める。
「なんとか王を翻意させようとして断られ、つかみかかったところを近衛兵に斬られたんです」
さすがに驚いたのか、ローワンが目を見開く。
「ホーキンス公爵はまさか……」
「いえ。頬をすっぱり斬られたが命に別状はないらしいです。だが、王宮で血が流れてしまった。秘密裏に処理されたが、噂になって僕の耳に届いたというわけです」
「そんなことが……」
さすがに驚いたようで、ローワンが珍しく動揺している。
ステラは名前しか知らないが、ホーキンス公爵は商才があったのか、かなりの財産家だったようだ。
(爵位を剥奪されただけでなく、財産没収……確かに血が流れてもおかしくない)
「ホーキンス公爵はきみをずっとライバル視していただろう? こんなことになって、自棄になっているかもしれない。プライドの高い男だ。王への復讐も充分考えられる」
「そんな危険な人物なのですか?」
ステラが尋ねると、ヨシュアがうなずいた。
「したたかな男でね。財産を没収されたといえど、おそらく隠し財産があるはずだ。何らかの行動に出る可能性がある」
ステラは顔色が変わるのがわかった。
「……ノエル!」
「えっ、ノエルも連れてきているのかい?」
ヨシュアが驚いたようにステラを見た。
「はい! 侍女と執事がついていますが……」
「王宮にいるなら大丈夫だよ。王はいろいろ恨みを買っているからね。警備は厳重だ」
「そ、そうですよね」
ステラはきゅっと両手を握り合わせた。
「申し訳ないね。怖がらせてしまって」
「いいえ。警告ありがたいです」
アトキンス公爵家のことは結婚してからしか知らない。
(もっとローワン様に聞いておくべきだったのかも。しがらみや関係性を)
ちらっとローワンに目をやると、軽く首を振った。
「何か期待しているようだが、ホーキンス公爵にライバル視されていたなども初耳だ」
「えっ」
ヨシュアが信じられないというように声を上げた。
「あんなに絡まれていたのに?」
「何かいろいろ話しかけてきたが、あまり聞いていなかった」
どうやらローワンは興味のない人間をあまり覚えていないらしい。
「とにかく、教えていただけて助かりました」
ステラはヨシュアに礼を言うと、無意識にブレスレットに触れていた。
(やっぱり魔宝石を持ってきて正解だったわ)
めざとく気づいたヨシュアがブレスレットを見つめる。
「それは例のフリーズストーン?」
「ええ。護身用にとローワン様にいただいて」
「なるほど。いいかもしれないね。宝石なら持ち運びもしやすいし、効果は絶大だ」
ヨシュアがグラスを空けた。
「さて、そろそろパーティーに戻ったらどうだい? 皆待ちかねているよ」
ヨシュアの言葉が合図かのように、貴族の婦人たちがさっと寄ってきた。
「ステラ様、こちらでお話ししません?」
「みんな、興味津々ですのよ!」
「は、はい!」
ステラは慌てて立ち上がった。




