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第42話:敵意

 美しい令嬢の登場に、かたわらのローワンが少しぴりっとするのが伝わった。


(みんな緊張している? どなたかしら)


「お久しぶりです。シャーロット様」


 ローワンが静かに頭を下げる。

 だが挨拶には答えず、シャーロットがステラに目を向けた。


(わ……)


 見れば見るほど華やかな美貌だった。

 見事なストリベリーブロンドの髪に包まれた顔から、勝ち気さがにじみ出ている。


 ステラより少し年下に見えた。

 バーバラと同い年くらいだろうか。


 ステラは素早く頭の中で貴族の情報を掘り起こした。

 公爵であるローワンが『様』付けで呼ぶ令嬢は王族くらいだ。


(確か、ザイオン王の姪御でソーントン公爵の第二子……二十歳だったはず)


 王位継承権はないが、王族なのは間違いない。

 同じ公爵といえど格が違う。

 ローワンの一歩引いた態度も当然と言えた。


(それにしても輝くような美しいご令嬢だわ)


 シャーロットは父である公爵やザイオン王からも可愛がられていると聞く。


 甘やかされて育てられたのか尊大な態度で、年齢よりも幼く見えた。

 だが、王族の一員だ。


(失礼のないようにしなくちゃ)


 ステラはスカートをつまんで腰を折った。


「初めまして、ステラ・アトキンスです」


 シャーロットがツンと横を向き、扇子で口元をわざとらしく隠す。

 明らかに挨拶を拒否する態度に、ステラは戸惑った。


 シャーロットがぱちんと音を立てて扇子を閉じ、冷ややかな目をローワンに向ける。


「ローワン様。まさか本当にご結婚されるなんて思いませんでしたわ」


 シャーロットが扇子をステラにさっと向けた。


「つまり、私はこの方に劣るということ?」


 シャーロットの率直な言葉に、周囲が凍りつく。


 まったく敵意を隠さないシャーロットに、ステラはさすがに唖然とした。

 ローワンは慣れているのか顔色一つ変えない。


「とんでもございません。シャーロット様と私ではとても釣り合わないと」

「同じ公爵家同士なのに?」

「シャーロット様にはもっとふさわしい方がおられるかと」

「よく言うわ」


 シャーロットが不機嫌そうに口をゆがめる。


「気分が悪いので失礼するわ」


 すたすたと歩き去っていくシャーロットに、ホッとした空気が流れる。

 いつ爆発するかわからない爆弾のような令嬢だった。


(まだ胸がドキドキしているわ)


 結婚してからこんなにも敵意を向けられたのは初めてだ。

 緊張続きだったところにストレスがかかり、ステラは限界を感じた。


「あの……」


 ローワンを見上げると、軽くうなずいてくれた。


「皆様、失礼。飲み物を取ってきます」


 ローワンが周囲に挨拶をすると、すっとステラの手を取った。

 そのまま会場の隅にあるテーブル席へと誘う。


「どうぞ。疲れたでしょう」


 ローワンが飲み物が入ったグラスを持ってきてくれる。


「ありがとうございます」


 ようやく喧噪から離れ、ステラはホッと息を吐いた。


 緊張が解けたのか、一気に疲労感が押し寄せる。


「顔色が悪いですね。お酒ではなくソーダにしておきました」


 ステラはソーダに口をつけた。すっきりした飲み口が心地いい。


「不快な思いをさせて申し訳ありません」


 ローワンの言葉にステラは驚いて顔を上げた。

 ローワンも喉が渇いていたようで、グラスを一気に空けた。


「誤解しないでください。シャーロット様とは何でもありません」

「そうそう。シャーロット様の一方的な恋慕だからね」

「ヨシュア様!」


 背後から近づいてきたヨシュアが自然な流れでテーブルにつく。

 ヨシュアが華やかな笑みを浮かべてローワンを見た。


「お邪魔かな」

「いいえ、構いません」


 ローワンの口調が素っ気なく聞こえたが気のせいだろう。


「見ていてハラハラしたよ。シャーロット様は何をするかわからないからね」


 ヨシュアの言葉に、ステラはドキッとした。


「あの、シャーロット様って……」

「見たとおりの我がままお嬢様だよ。周囲の大人たちに甘やかされまくって、すべてが自分の思い通りになると思っている」


 ヨシュアが肩をすくめる。あまりシャーロットにいい印象がないらしい。


「で、なぜかローワン殿を気に入ってアプローチしたが相手にされず、プライドを傷つけられて八つ当たり、ということ」


 ようやくステラは事態を飲み込めた。元恋人のような深い仲ではないようだ。


(それにしても、本当に女性に人気があるのね)


 ステラはじっとローワンを見つめた。

 確かに端正な顔立ちや優美な佇まいをしているが、態度は冷ややかで素っ気ない。


 シャーロットはローワンのどこにそんなに惹かれたのだろうか。


「……なんですか。シャーロット様は男の趣味が悪い、とでも言いたげですね」


 (いぶか)しげな視線に気づいたのか、ローワンが眉をひそめる。

 どうやら思っていたよりもずっと態度に出てしまっていたらしい。


「す、すいません……」


 否定しないステラに、ヨシュアが吹き出す。


「あはは。いや、気持ちはわかるよ。ローワン殿に話しかけるのは男の僕でも勇気がいるからね。ご婦人方の方が強い。いや、蛮勇がすぎる」


 くすくす笑うヨシュアをローワンが軽く睨む。


「で、何かご用ですか、ヨシュア殿」

「ああ、一応警告しておこうと思って」

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