第41話:パーティーへ
パーティー当日になり、ステラはドレスに着替えた。
屋敷の慌ただしさや緊張感に気づいたのか、ノエルがステラの部屋にやってきた。
「お出かけするの?」
「ええ。お父様と一緒に王宮へ。パーティーなの。王様にご挨拶するのよ」
寂しさと心細さがにじみ出ていることに気づき、ステラはそっとノエルを抱きしめた。
(やっぱりこの子を置いていけないわ)
「準備はできましたか?」
部屋にやってきたローワンが、抱き合っているふたりに気づいた。
「ノエルも連れていっていいですか? 一人でお留守番は可哀想です」
「子どもはパーティーに出席できませんよ」
ローワンがにべもなく言い放つ。
ノエルがきゅっと唇を噛みしめた。
「一緒に王宮に行くだけでも……」
「結局一人にさせてしまうなら、屋敷にいた方が安心でしょう?」
ローワンが正論を言っているのは理解できる。
ステラはそっとノエルの前に屈んだ。
大きな青い目をのぞき込む。
「ノエルは家で留守番をするのと、一緒に行くの、どっちがいい?」
「……行きたい」
小さいがはっきりとした答えが返ってきた。
「じゃあ、一緒に行きましょう。パーティーの間、部屋をご用意してもらうわ」
ステラはローワンを見つめた。
「いいですよね、ノエルも連れていって」
「あなたがそう言うなら」
ローワンがあっさり折れてくれたのでステラはホッとした。
「ですが、侍女だけでは心配です。ケンドリックも連れていきましょう」
ローワンの提案にステラは顔を輝かせた。
「いいですね! ケンドリックがついていてくれるなら安心だわ」
ステラはさっそく頼りになる執事を呼んで供を頼んだ。
王宮に行くのはステラたち三人と、供のケンドリックとマリエルの五人になった。
王宮への扉の部屋へ行くと、初めて円陣を見たノエルが驚いたように目を見張った。
「これはなんですか、おかあさま」
「私たちを王宮へ転送する装置よ。魔宝石の力を使うの」
五人は円陣の中に立ち、一瞬にして王宮の部屋へと移動する。
手を繋いでいたせいかノエルは怯えることなく興味深そうに周囲を見回している。
「もう王宮なのですか? すごい!」
ノエルの頬が興奮で上気している。
(こうやって魔宝石に興味を持ってくれたらいいなあ。ノエルに教えてあげたいことがたくさんあるわ)
ローワンがてきぱきと兵士たちに指示し、控え室を用意させた。
「じゃあ、ここでいい子にしてるのよ。マリエル、よろしくね」
マリエルがさっそくトランクを開け、中から絵本やゲームを取り出す。
ステラはケンドリックを見た。
「何かあったら、すぐに私に知らせて」
「かしこまりました、奥様」
王宮に慣れているケンドリックがついていれば大丈夫だろう。
「どうぞ」
ローワンがすっと曲げた腕を差し出してくる。
ステラはそっとローワンの腕をとった。
ローワンがリードするように歩き出す。
(夫婦として当たり前のことなのに……なんでこんなにドキドキするんだろう)
ステラは腕を組みながら、なんとか平静を装った。
「……よく似合っていますよ」
「え?」
「今日の装いです」
「あ、ありがとうございます」
思わぬ言葉に顔が熱くなる。
王との対面ということもあり、とっておきのドレスや宝石を身につけているがローワンからそんな言葉をもらうとは思わなかった。
(やっぱり、あの日以来ローワン様は変わったわ……)
ふたりは城の兵士たちに案内され、パーティー会場へと向かった。
見上げるような大きな扉が開かれる。
「……っ!!」
目の前に豪奢な大広間が広がった。
集まった貴族たちの視線が一斉にステラたちに注がれる。
(すごいわ!!)
ステラは遙か高みにある天井を見上げた。こんなにも広い会場は初めてだった。
ステラは夢見心地でただローワンの歩みに合わせて進んでいった。
大広間の奥の一段高い場所にしつらえた玉座に目がいく。
(あれが――ザイオン王!!)
王冠と豪奢なふさのついた赤いマントをつけた王が立ち上がる。
白銀の髪をしたザイオン王は、四十五歳という年齢よりずっと若く見えた。
「よく来てくれた、アトキンス公爵夫妻」
「今日はお招きいただき光栄です」
ローワンの隣でステラも深々と頭を下げた。
「ふうむ……」
王のエメラルドのような目にまじまじと見つめられ、ステラはドキドキした。
王は弾けるようなエネルギーに満ちている。
(この方が宝石だとしたら、きっと魔宝石ね。凄まじいパワーを感じるわ。これが王……)
圧倒的な存在感にただ息を呑むばかりだ。
乗り気でないローワンが結婚を押し切られたのがわかる。
ザイオンが笑顔を浮かべた。
「これはこれは――驚くほどお似合いの夫婦だ。心より祝いを述べさせてもらう」
「恐縮です」
「後ほど祝いも贈らせてもらう。まずは魅力的な奥方を皆に紹介するといい」
「過分なお褒めの言葉痛み入ります」
ステラは胸に手を当てた。
ブレスレット揺れ、フリーズストーンの魔宝石が輝く。
ローワンに言われたとおり、いつでも身につけられるようブレスレットに加工したのだ。
(不思議……魔宝石があるだけで安心感があるわ)
ステラは改めてローワンの気遣いに感謝した。
うずうずとしている貴族たちに向き合うと、あっという間にステラたちは囲まれた。
「……!」
ステラは次々と挨拶をしながら、ハッとした。
少し離れた場所から見守るようにヨシュアがいた。
ステラに気づくと軽く手を上げてくる。
(知った顔がいるとホッとするわ)
周囲の貴族たちは思っていたよりずっと温かい対応をしてくれた。
だが、人が多くプレッシャーはお茶会の比ではない。
(でも、頑張らないと! これも公爵夫人の仕事なのだから)
ステラは笑顔を絶やさないよう頑張った。
そのとき、ざわめきが起こり、さっと人々が左右に分かれて道ができた。
悠然と歩いてきたのは、ストロベリーブロンドの美しい令嬢だった。




