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第40話:王からの呼び出し

「ふう」


 三日後、ようやくバーバラを帰りの馬車に乗せたステラは思わずため息をついた。


「姉妹と聞いたが、ずいぶんきみとはタイプが違うな」


 一緒に馬車を見送っていたローワンがぽつりと言った。


「すいません。いきなり押しかけた挙げ句、居座ってしまって」

「許可をしたのは俺だ」


 にこりともしないが、その声はいたわりの響きがあった。


「煩わしい身内というのはどこにでもいるさ」


 そう言うと、ローワンが屋敷に戻っていった。

 なんとなく亡くなった両親のことを言っているように聞こえた。


(身内と縁切りするのは大変だわ。もう来なければいいけど)


 バーバラは移り気で、衝動的で行動して他者の都合を考えない。頭が痛かった。

 ステラはかぶりを振った。


(人のことを心配している場合じゃないわ。自分の仕事を頑張らないと)


 魔宝石の鑑別はだいぶ慣れてきたが、壁にぶち当たってしまっていた。


(ヨシュア様に手伝っていただいたけれど、自分でできるようにならないと)


 一般的な魔宝石の鑑別はスムーズにやれるようになったが、問題は稀少な固有の力を持つ特別魔宝石の存在だ。


 魔力量が多くポテンシャルが高いが、いったいどんな力を秘めているのかわからないのでうまくフラワリングできない。


 困った挙げ句、ヨシュアにまで来てもらった。


 だが、ヨシュアの鑑別方法は『視覚』だ。

 『触覚』のフラワリングしかできないステラには応用できなかった。


 しょんぼりするステラをヨシュアは慰めてくれた。

 僕だってすべての魔宝石の力を解明できるわけではありませんから、と。


「これ、どうしよう」


 ステラは産出された魔宝石の中から見つけた特別魔宝石を手に取った。


 淡い水色の美しい魔宝石は、鑑別の仕事について初めて出会った特別魔宝石だ。


 いわゆるフリーズストーンで物質を凍らせる力を持つ。


 この魔宝石の特徴は広範囲を凍らせることができるところだ。

 力の発動には少しコツが必要だったが、ヨシュアもステラも使いこなせたので汎用性が高いと言えよう。


(貴重な魔宝石……どの商会と取引するかローワン様と相談しないと)


 立ち上がったステラの元に、ケンドリックが足早に近づいてきた。


「奥様、ちょっとよろしいでしょうか」


 珍しくケンドリックの顔に緊張の色があった。


「え、ええ。どうしたの?」

「こちらを……」


 ケンドリックが厚みのある紺色の封書を手渡してきた。


 裏返したステラは息を呑んだ。

 金色の封蝋――そこには王家の紋章が押されていたのだ。


「王からの手紙……宛名は私とローワン様宛てね。私が開封してもいいのかしら」

「ご一緒に見られた方がよろしいかと」

「そ、そうよね」


 その日はローワンが帰るまで落ち着かなかった。



 ローワンが封書を開けるのをステラは固唾を呑んで見守った。


「招待状だな」


 王からの書簡は思ったより普通の中身で、ステラはホッとした。

 ローワンが帰宅して早々、時間を取ってもらったのだ。


「私たちのお披露目パーティーを開くから王宮に来てほしい、とのことだ」

「王宮で……パーティーですか?」


 ローワンがふう、とため息をつく。


「王命による結婚だからな。王としては自分の采配の結果を披露したいのだろう」


 自分たちの結婚には王が関わっている。

 それは知っていたが、まさか王宮でパーティーを開かれるとは思っていなかった。


 動揺するステラを、ローワンがちらりと見やる。


「これも公爵夫人としての仕事の一つだ。王を喜ばせて悪いことはない。仕事と割り切ってこなせばいい」


(ローワン様も乗り気じゃないわね……)


 短い付き合いだったが、ローワンが派手な社交を好むタイプではないとわかってきた。


「それであの、ローワン様」


 ステラにはもう一つ相談したいことがあった。


「特別魔宝石を見つけたのです」


 ステラは淡い水色の宝石を取り出した。


「これはフリーズストーンなのですが、広範囲を一気に凍らせる力があります」


 ローワンがじっと魔宝石を見つめる。


「食物などの冷蔵向きではありませんが、戦闘に使えるかと」


 ローワンがステラに目を向ける。


「これはきみも使えるのか?」

「はい! ヨシュア様も使えたので汎用性が高い特別魔宝石です。高値で取引できるかと」


 ローワンがじっと魔宝石を見つめる。


「これは売らずにきみが持っているといい」


 思わぬ言葉にステラは驚いてローワンを見つめた。


「能力的に護身に使えそうだ」

「ご、護身って……」

「念のためだが、警戒した方がいいと思う」


 ローワンが静かに、だがきっぱりと言った。


「ザイオン王は昨年戴冠したばかりだが、あちこちで大鉈を振るっていてな。やる気に満ちているのは結構なんだが、もめ事の原因になっている」


 確かにザイオンが王についてから、様々な施策が増えたと聞く。

 王宮も人事が大幅に変更されたりと騒ぎになっていた。


「私たちの結婚もそうだ。前王は貴族の結婚にまで口を出さなかったが……」


 家に引きこもっていたステラはあまり影響を受けてないはずだったが、よくよく考えてみれば結婚がそうだった。


(ザイオン王に代替わりしていなければ、私はローワン様と結婚をしていなかった)


 そう思うと、不思議な縁を感じる。


(ザイオン王……会ってみたいわ)


 ステラは俄然お披露目パーティーに興味がわいた。


「私たちの結婚など可愛いもので、汚職などで爵位を剥奪された貴族や王宮を追われた官僚もいる。大きな影響を受けた者の中には王に対して敵意を持つ者も少なくない。要は政情不安定だということだ」

「私たちにも何か……」


「どこから火の粉が飛んでくるかわからない。私たちは傍目にはとても成功しているように見える。つまり、妬まれることもある」


 ローワンがじっと見つめてくる。


「あなたがその魔宝石を持っていてくれると安心です」

「はい……」


 ステラは素直にうなずいた。


(そうね、ノエルを守るためにも持っていた方がいいかも。アクセサリーに加工しよう。ペンダントかブレスレットがいいわ)


「それに美しい魔宝石は、あなたにきっと似合うと思うので……」

「なんですか?」


 ローワンが何かぼそぼそとつぶやいたが、ステラは聞き取れなかった。


「な、何でもありません!」


 ローワンが顔を赤らめてそっぽを向くのをステラは不思議そうに見つめた。

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