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第39話:工房のふたり

 バーバラは客間でじっと気配を伺ったが、ヨシュアが戻ってくる様子はなかった。


(ったく。何をしているのかしら。鑑別ってそんなに時間がかかるもの!?)


 手近なメイドをつかまえ、ヨシュアの居場所を問いただす。

 どうやら庭にある工房で仕事をしているらしい。


(工房で二人きり? あり得ないわ。ステラったら!)


 危機感を覚えたバーバラは、工房へと向かった。

 扉をそっと開けると、隙間から中を覗く。


 奥の大きな作業机に並んで座るふたりが見えた。


「……っ!!」


 遠目にもヨシュアとステラが興奮しているのがわかる。

 情熱的に見つめ合っているふたりに苛立ちがこみ上げた。


(あのふたりまさか……!)


「ああ、これは氷の魔宝石なんですね! まさかフリーズストーンなんて!」


 ステラが石を手に何やら声を上げている。


「すごい魔力ですよ。そのぶん、コントロールが必要になりますが」

「私、全然鑑別できなくて……お恥ずかしいです」

「視覚の方がわかりやすい時もありますしね」


 ヨシュアが慰めるようにステラの顔をのぞき込む。

 ステラがふう、とため息をついた。


「もっと鑑別の精度を上げたいんですけど、なかなか……」

「こればかりは数をこなすしかないですよ。まだ始めたばかりじゃないですか」


 会話の内容から、色っぽい話ではないとわかった。

 意外にも、ふたりは真面目に鑑別の仕事をしていたらしい。


 逢い引きではなかったことにホッとしながらも、バーバラはむしゃくしゃした。


(何よ、鑑別って。無能のくせに。才能がないからって媚びを売って鑑別させているのね)


 そのとき、ヨシュアがそっとステラに顔を近づけるのが見えた。


「今度、王都に来たときに一緒に食事に行きませんか? とっておきのレストランを見つけたんですよ」


 他の女性ならうっとりとうなずいてしまいそうなヨシュアの言葉だったが、ステラはあっさりと首を横に振った。


「ありがとうございます。ただ、今は仕事で手一杯で、王都に行く機会がなくて」

「そうですよね」


 ヨシュアが露骨にがっかりしている。

 バーバラはぐっと服を握った。そうしないと喚いてしまいそうだった。


 ヨシュアは諦めきれないのか、なおもステラに声をかけている。


「今度の勉強会も難しいですか?」

「申し訳ありません。まだ来月の予定がわからなくて」

「そうですか。僕はいつでも合わせられるので、ぜひ声をかけてください」


 意気込むヨシュアに、ステラがくすっと笑った。


「ええ、その時はご連絡します」

「絶対ですよ!」


 ヨシュアの勢いに、ステラが苦笑している。


「おかげで特別魔宝石を見つけることができました。ありがとうございます。お茶でもいかがですか?」

「ぜひ!」


 ふたりが立ち上がったので、バーバラは慌てて戸口から離れた。


「戸締まりしていきますので、ヨシュア様は先に戻っていてください」


 ステラの言葉にバーバラは目を輝かせた。


(チャンス!)


 ようやくヨシュアが一人になった。

 工房から歩き出したヨシュアに、バーバラはさりげなく近づいた。


「ヨシュア様!」


 バーバラが駆け寄ると、ヨシュアがにこりと微笑んだ。

 だが、その笑顔は形だけのものだとわかるほど熱がない。


「私、王都で遊びたくって! ヨシュア様にぜひ案内していただきたいわ」


 バーバラはさっとヨシュアの隣に並んだ。


「私は現在花嫁修業中で、いつでも王都に行けますわ」


 バーバラはするっとヨシュアの腕に手を回したが、優しく外されてしまった。


「申し訳ないが、仕事で忙しくて」


 バーバラは愕然とした。


(ステラにはいつでも声をかけてと言ったくせに!)


 信じられなかった。

 自分の方がステラよりも美しく、圧倒的に魅力的なのに。


 ステラと自分の違い――それは公爵夫人という肩書きだ。


(そうか……やっぱり公爵夫人になるべきね)


 自分があの縁談を受けるべきだったのだ。なぜかステラが選ばれたが。

 豪奢な屋敷を見回しながら、バーバラはイライラした。


(誰でもいいなら、私でもよかったはずよ。本当ならこれが私のものになっていたのに)


 ステラが身につけているものが全部高級品なのも苛立ちを加速させた。


(何よ……贅沢な暮らしをして、素敵な男たちに囲まれて)


 バーバラはお茶会には参加せず、ローワンの執務室に向かった。


「失礼します」


 バーバラが入室すると、ローワンが怪訝そうな表情を浮かべた。


「何か私にご用ですか?」

「ええ。お話がありますの。結婚の件ですが、私のほうがふさわしいと思いまして」


 ローワンの眉が寄せられるが、バーバラは気づかず続けた。


「王命による契約結婚ですわよね、形だけの。でしたら、同じ家出身の私でもいいはず。姉との契約を解消して、私と結婚してください」


 バーバラは言い切ると、ドレスの胸元をさりげなく開いた。

 ローワンが呆然とした表情になる。


(ふふ。男性にはこれが手っ取り早いはず。この美しい女を手に入れたいでしょう?)


 バーバラは魅力的に見えるよう、金色の髪をかきあげた。

 だが、ローワンの表情は変わらない。


 思っていた反応が返ってこず、バーバラは戸惑った。

 ローワンが静かに口を開く。


「確かにステラとは契約結婚です。ですが私は妻としてのステラに満足しています」

「えっ」

「このとおり、仕事がありますのでお引き取りを」


 ローワンが書類に目を落とす。

 その姿から、バーバラにまったく興味がないのが伝わってきた。


「……っ!」


 バーバラは胸元を隠し、部屋を出た。たたきつけるようにしてドアを閉める。


「何よっ。人を馬鹿にして!」


 こんな屈辱を感じたのは初めてだ。

 どう考えてもふさわしいのは自分のはずなのに、ローワンはまるでわかっていない。


(なんとか、ステラを追い出して私が妻になれないものかしら……)


 バーバラは必死で策を練り始めた。

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