第38話:バーバラの怒り
バーバラは期待を胸に部屋を出て玄関へと向かった。
ヨシュアの登場により、世界が色づいた気がした。
(そうよ、オーガストなんかカス。浮気者だし男爵だし!)
(ローワン様もいいけれど、やっぱり独身の男の方が落としやすいわよね!)
(これは運命の出会いよ!)
玄関に出ると、ちょうどヨシュアが入ってきた。
遠目にも容姿の美麗さが際立つ。
バーバラがヨシュアに向かって駆け出そうとした時だった。
ヨシュアの顔がぱっと輝き、片手を上げるのが見えた。
「ステラ!」
ヨシュアが親しげに呼んだのはステラだった。
バーバラは呆然として足を止めた。
迎えに出た人たちの中からステラが進み出る。
「ヨシュア様、今日はわざわざありがとうございます」
「いえ、頼っていただけて嬉しいです」
ヨシュアがステラの手を取り、手の甲にキスをする。
それだけでバーバラの胸はざわめいた。
そうされるべきなのは自分なのに。そんな思いが胸にこみ上げる。
ステラはにこやかにヨシュアと話していた。
何やら親密な様子に苛立ちが募る。
「ノエルへの誕生日プレゼントもありがとうございました。おかげで素晴らしいパーティーになりました」
「パーティークラッカー、面白かったでしょう?」
「ええ、びっくりしました。あんなに派手にテープや紙ふぶきが飛び出すなんて!」
「男の子には特に人気なんですよ」
ステラがぴったりとくっついているノエルの頭に手を載せた。
「ノエル。ヨシュア様にお礼を言って」
「やあ、ノエル」
ヨシュアが膝をついて、ノエルに目線を合わせる。
そんなさりげない仕草も優雅で美しい。
ノエルがステラのスカートをきゅっと握りながらもじもじした。
「ゲーム、ありがとうございました」
「どういたいまして。楽しんでいるかい?」
「うん!」
力強くうなずくノエルの髪をヨシュアが撫でる。
「毎日やろうってせがむんですよ」
「あれは人数が多い方が面白いんだよな。仕事が終わったら、三人でやってみる?」
「やりたい!」
「いい返事だ」
仲睦まじい三人の姿を使用人たちがうっとりと見つめる。
三人の親しげな様子に、バーバラは舌打ちを堪えられなかった。
(何よ……何よあれ)
バーバラは爪をぎりっと噛んだ。
そうしないと叫びだしてしまいそうだった。
微笑むステラを見つめるヨシュアの眼差しが慈愛に満ちており、まるで夫婦のように見える。
バーバラは不快な想像を打ち消した。
決して認めるわけにはいかない。ステラとヨシュアがお似合いなどと。
(ほんと、むかつくわ!)
バーバラはずかずかと大股でヨシュアに近づいていった。
バーバラの接近に気づいたステラの表情が曇る。
(ふん! 私に取られそうだから焦っているのね)
バーバラは自慢の髪をかきあげた。
「ヨシュア様! 初めまして。バーバラ・サムソンと言います」
にこっと笑うと、ヨシュアが戸惑った表情になった。
「どうも……初めましてバーバラ」
「義妹なんです。今、屋敷に遊びに来ていて」
ステラが控えめに紹介する。
「お会いできて嬉しいわ、ヨシュア様! 客間でお話ししませんこと?」
バーバラはとっておきの笑みを浮かべた。
だが、いつもなら効果のある笑顔にも、ヨシュアの反応は芳しくなかった。
特に高揚するような表情も見せず、作ったような笑顔を浮かべている。
「申し訳ないですが、これから魔宝石師の仕事なので」
「バーバラ、ヨシュア様は鑑定の手伝いに来てくださったの。お忙しいのだから、無理を言わないで」
ステラのけん制するような言葉に、バーバラはむっとした。
(何よ……独り占めする気!?)
ステラに連れられて庭へと向かうヨシュアの後ろ姿をバーバラはじっと見つめた。




