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第35話:惑いのローワン

 ジャレッドの屋敷で歓待を受け、夕食までご馳走になり、自分の屋敷に戻った頃には夜になっていた。


 ノエルの部屋に行くと言うステラと別れ、ローワンは私室に入った。


「あーーーーーーーー!!」


 一人になった瞬間、ローワンはようやく平静の仮面を外すことができた。


「俺は……っ! 何をしてるんだ!」


 両手で顔を覆い、本心を吐露する。


「酒だ! 酒がいる!」


 ローワンは戸棚からウィスキーを出すとグラスに乱暴に注いだ。


 あのあと、ステラの態度に変化はなかった。


(彼女はどう思っているんだろう……)


 思わず抱き寄せてしまい、自然に口づけてしまった。


 そのあとステラの顔が見られず、さっさとコテージを出たので彼女の反応がわからない。


 思い浮かぶのは、異国のドレスを着たステラの姿だった。


(ハッとするほど美しかったな……)


 気づくと、グラスの中身がこぼれていた。


「ああっ、もう! 何をやってるんだ俺は」


 慌ててテーブルの上を拭き、ローワンは両手で顔を覆った。


 形だけの妻を迎えたつもりだった。

 なのに彼女はノエルを大事にし、領地経営にも意欲的だ。

 社交も見事にこなしている。


 お飾りではない、公爵夫人になろうとするステラにいつも驚かされていた。


 だからだろうか。ずっと誰にも言えなかった胸の内まで語ってしまった。


 泣き崩れる自分を、ステラは優しく抱きしめてくれ――。


「あーーーーーーーーー!!」


 あまりの羞恥に、またもやローワンは叫んでしまった。


 想像もしていなかった。

 ただ適当に選んだだけの女性が、こんなにも心を大きく占めるなどと。


「まだ出会って一ヶ月くらいだぞ……」


 ローワンは髪をぐしゃりとかき上げた。

 落ち着かないので、部屋をうろうろと歩き回る。


(適度な距離感の割り切った関係だったはずなのに、こんな……)


 今日のステラはとても楽しそうだった。

 アルバムを食い入るように見て、ジャレッドの結婚祝いを心から喜んでいるように見えた。


(なんで俺は彼女に何もしてあげなかったんだろう)


 結婚したというのに、指輪すら贈っていない。パーティーも面倒だと開かなかった。


「う……ああ……」


 自分のいたらなさに胸が苦しい。ジャレッドの言葉が突き刺さる。


 ――おまえは王命での結婚だからとか、くちゃくちゃ余計なことを考えているんだろうけど、結婚は結婚だ。ちゃんと向き合え。


(あいつは馬鹿だけど、いつも正しい。だからといって、今更どんな顔をして――)


 ウィスキーのお代わりをしようと立ち上がったとき、ドアが控えめにノックされた。


「ステラです。まだ起きていますか?」

「はっ、はう! はい!」


 焦ってとんでもない声が出てしまった。


 ステラがおずおずとドアを開けて入ってくる。


 もう寝るところだったのだろう。寝間着の上にガウンを羽織っている。


 髪を下ろしたステラはやけに色っぽく見え、ローワンはそっと視線を外した。


「な、何の用でしょう?」


 素っ気ない口調になってしまい、内心焦ったが平静を装う。


「今日はとても楽しかったです」

「そ、そうですね!」

「実は聞きたいことがあって……」


 ローワンはドキドキしてきた。


(もしや……あのキスは何だったのか尋ねにきたのだろうか)


 だが、自分は答えを持ち合わせていない。気持ちのまま行動しただけなのだ。


(ああ、これではまるでジャレッドのようじゃないか!)


「ジャレッドさんの好きなものってなんですか?」

「え?」


 思いがけない問いに、ローワンはぽかんと口を開けた。


「いろいろ結婚祝いをいただいたので、お返しをしたいと思いまして」


 じっとステラが自分を見つめてくる。


(なんて綺麗なすみれ色の目なんだ……)


 これまで気づかなかったのが不思議だった。


(俺は何を見ていたんだろう。まるで宝石のような瞳だ)


「あの、ローワン様。何を贈ったらいいでしょうか?」


 著しく集中力を欠いていたローワンは咳払いをしてごまかした。


「あいつは何でも喜ぶと思いますが、宝石を贈りましょうか」


 そう言いながらも、ステラから目を離せない。


「俺が見繕(みつくろ)います。ジャレッドにはネクタイピン、家族にもそれぞれ何かアクセサリーを」


 ローワンはにこやかな表情で本心を取り繕うので精一杯だった。

 油断したら、またステラを抱き寄せてしまいそうだったのだ。


「では、お任せします。おやすみなさい」


 ドアを閉まりステラの姿が消えると、ローワンは大きく息を吐いた。


「しっかりしないと……」


 そうつぶやいてみたものの、何をどうすれば自分を立て直せるのか皆目見当もつかなかった。

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