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第33話:ローワンの親友

「で、結婚して一ヶ月くらいなのか?」


 どっかりとソファに腰を下ろしたジャレッドが、興味津々でふたりを見る。


 運ばれてきたお茶に目をやるとジャレッドが立ち上がった。


「俺、酒がいいわ。いい酒も持って帰ってきたんだ。それを飲もう」


 ジャレッドが応接室に運ばせた荷物をいそいそと開ける。


「すみません、勝手なやつで……」


 ローワンがこそっとささやいてくる。


「いえ、楽しい方ですね」


 からっと明るい太陽のようなジャレッドのようなタイプが友達とは意外だったが、正反対だからこそうまくいくのかもしれない。


「ステラさん、どうですかこいつ。愛想ないでしょう?」


 ジャレッドの率直な言葉に、ステラは思わず吹き出した。


「そうですね。もっと笑顔を見たいです」

「ほら、言ってるだろ。おまえは固すぎるんだよ」

「うるさいっ」


 ジャレッドに小突かれるローワンを、ステラは新鮮な気持ちで見つめた。


 こんなに感情を素直に表すローワンは滅多に見られない。


「こいつは不器用で気が()かないから、なかなか打ち解けにくいでしょう? だから今日は面白いものを持ってきました」


 ジャレッドが鞄からバン、と分厚い本のようなものをテーブルに積み重ねた。


「アルバムです! まずは幼年期からいきましょうか。ほら、まだ子どもだってのに表情が既に固いでしょう?」


 広げられたアルバムを、ステラは興味津々でのぞき込んだ。


「わ、可愛い……!」


 写真のローワンはノエルと同じくらいの年頃だろう。幼いながら既に顔立ちが整っていた。


 夢中でアルバムをめくるステラを、ローワンが苦い表情で見ていたが止めることはしなかった。


「こいつとは腐れ縁でしてね。学校もずっと一緒でした」


 次のアルバムには、名門男子校の制服を着た二人の写真があった。


 十代のローワンはすらりとした華奢な美少年だった。

 今と変わらずにこりともせずにこちらを睨んでいる。


「わあ……かっこいいですね!」

「こいつ、黙っているのに女が寄ってくるから周囲から妬まれてて。上級生から嫌がらせされたよなあ?」


 ジャレッドがローワンの肩に手を回す。


「細っこいのに喧嘩が強くてびっくりされてたよな」

「えっ、ローワン様、そんな強いんですか?」


 驚くステラに、ジャレッドがローワンを指さす。


「こいつ繊細そうに見えますけど、わりと外で暴れる派なんですよ」

「暴れてない! くっつくな暑苦しい!」


 ローワンがうっとうしそうにジャレッドの手を外す。


(そういえば馬も好きだし、家でじっとしているより外に行くのがお好きなのかしら)


「ほら、これ。テニスをしてるでしょ」


 ジャレッドがテニスのラケットを手にしているローワンの写真を見せてくる。


「このあと、窓ガラス割ったんですよ。こいつ」

「ラケットで!?」

「打ったボールが飛んでいっただけだ! アルバムなんかもういいだろう!」


 アルバムを片付けようとしたローワンの手を、ステラはさっと押さえた。


「私、もっと見たいです!」


 目を輝かせるステラに、ローワンが絶句する。


「そうこなくっちゃ! これが避暑地に行った写真でー。こいつ、大魚を釣り上げようとして川に落ちて」

「やめろ!」


 慌てるローワンがおかしくて、ステラはずっとくすくす笑っていた。


(こんな砕けたローワン様を見るのは初めて……)


 なんとか阻止したいローワンが声を荒げ、長い腕を振り回しているが全然怖くない。


「あの、よく一緒に写っているこのご家族は?」

「あ、俺の家族。こいつ、ウチに入り浸っていたからもう家族のようなもんなんですよ」


 ステラは苦い表情で肘をついているローワンを見た。


(ご両親とはうまくいっていなかったけれど……別の居場所があったのね)


「じゃあ、次はこれ――」


 新たなアルバムを手にしたジャレッドが、ハッとしたようにアルバムを戻した。


「あ、これはまずい」

「……! おまえ、まさか」


 ローワンが顔色を変えて立ち上がる。


「いや、うっかり全部持ってきてしまって! じゃあ、これでおしまいです!」


 ジャレッドがアルバムを抱えて出ていってしまう。


 ローワンがむすっとした表情で、ステラの視線から逃れるように顔を(そむ)けた。


(私に見せたくない写真って……それってもしかして以前の恋人とか?)


 急に胸がドキドキしてきた。


(そりゃあ、二十五歳なんだもの。これまで恋人がいないわけないわよね)


「誤解しないでください」


 ローワンが顔を背けたまま、ぼそっとつぶやく。


「昔のことなので」

「えっ、あっ、はい」


 思いがけない言葉に驚いたステラの手が、突如ぎゅっと握られた。

 一瞬遅れて、ローワンに手を握られたのだとステラは気づいた。


 ローワンはずっと視線を合わせない。だが、その耳が(ほの)かに赤く染まっている。


「今はあなたの夫なので」

「はい……」


 握られた手が熱い。だが、ステラの手も同じくらい熱くなっていた。


(大きな力強い手……そういえば、手を握られるのは初めて)


「よし、出かけるぞ!」


 いきなりドアが開き、ジャレッドが戻ってきた。

 ローワンがぱっと手を離す。


「どこに?」

「ウチの領地! 結婚祝いを用意しているんだ!」


 ジャレッドが高らかに宣言した。

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