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第30話:誕生日パーティー

「そうね、壁の飾り付けはこれでいいと思うわ」


 慌ただしく時は過ぎ、ノエルの誕生日になった。

 ステラは朝からずっと誕生日パーティーの準備に邁進(まいしん)していた。


 そしてローワンとろくに会話をしないまま、ノエルの誕生日を迎えた。


「ノエル、誕生日おめでとう!」


 用意していたパーティークラッカーを斜め上に向け、思い切り紐を引く。

 パン、という小気味のいい音と共に、金色の紙テープと紙ふぶきが飛び出した。


 部屋にキラキラと舞う紙テープと紙ふぶきを、ノエルが目を丸くして見つめる。

 どうやらパーティークラッカーを見るのは初めてのようだった。


 かくいうステラも使用するのは初めてなので、思ったよりも派手な演出に驚いた。


 だが、ノエルが笑顔ではしゃぎながら紙ふぶきとテープをつかむのを見てホッとした。


(ヨシュア様にアドバイスしてもらっておいてよかった……)


 実家での誕生日はケーキを食べるくらいだったステラは、子どもが喜ぶものがわからずヨシュアにアドバイスをもらえないかと手紙を出してみたのだ。


 すると美しいカードと大きな箱が届いた。

 カードには『昨年のアリーシャの誕生日で喜ばれたものです。よかったら』というメッセージがあった。


 箱にはパーティークラッカー、壁を飾り付ける折り紙の輪っか、風船などが入っていた。

 おかげで華やかなパーティーを演出できた。


(あとは美味しいご飯、ケーキ、プレゼント! これでバッチリのはず!)


「ノエル、ご馳走とケーキがあるわよ!」


 テーブルの上にずらりと並ぶ華やかな料理にノエルが目を見開く。

 特大のケーキの上にはいちごがふんだんに飾られている。


「これ……食べていいの?」

「ええ! 全部ノエルのものよ!」


 ノエルの顔がぱっと輝いた。

 一心不乱にご馳走を食べているノエルをステラは見守った。


(二人きりのパーティー……やっぱりちょっと寂しいわ。来年はお友達を呼べるといいけど)


 ノエルが手を止めてにっこり笑ってくる。


「美味しい?」

「うん! すごく楽しい」


 口元にクリームをつけながら、ノエルが屈託なく笑う。

 もやもやとしていたステラは、ノエルの笑顔にハッとした。


(私ったら、また焦りすぎ……。こうしてパーティーができているんだからそれでいいじゃない)


 自分に言い聞かせ、ステラはリボンがついた大きな箱を差し出した。


「はい、これはヨシュア様からのプレゼントよ」


 なんとヨシュアはパーティーの準備だけでなくプレゼントまで贈ってきてくれたのだ。

 ノエルが目を輝かせ、包装をビリビリと勢いよく破く。


「ゲームだ!」


 箱の中からは大きなボードゲームが出てきた。


「勇者のドラゴン退治ですって! 後で一緒にやりましょうね」


 次に渡したのは使用人一同からのプレゼントだ。

 中からは絵本のセットが出てきた。


(きっとマリエルが考えてくれたのね)


 ステラは感謝の気持ちでいっぱいになった。


 ノエルには周囲から愛されていると実感してほしい。

 そのためには自分以外の人たちからの協力が必須だ。


(あとで皆に感謝を伝えなくちゃ!)


「はい、これは私から!」


 ステラが特大の箱を出すと、ノエルの目が輝いた。


「さ、開けてみて!」


 箱を開けると、ノエルが中身を取り出した。


「あ、セーター!」

「寒くなってきたから。ノエルの好きな青色よ」


「お菓子の詰め合わせだ!」

「好きなもの全部入っているわよ。キャンディー、クッキー、チョコレート」


「カードゲームだ!」

「今一番人気なんですって。一緒にやりましょう」


 次から次へと出てくるプレゼントにノエルは夢中だ。


(ふふ……一つに絞れなくて全部入れてみたけどよかったわ。いろんなもの入っている方が楽しいわよね)


 箱の底に手を突っ込んだノエルが黒いビロード張りの小箱を取り出してきた。


「これは何?」

「あ、それはね……」


 ステラはドキドキしながら箱を開けた。


「サファイアのブローチよ」


 鉱山から手ずから掘り出したサファイアを工房でブローチに加工したのだ。


「サファイアは魔除けにもなるの。お守りとして持っていてね」


 そっとブローチをノエルの胸元につける。


「すごく似合っているわ」

「おかあさま、ありがとう……」


 ノエルがもじもじしながら言う。


「改めて六歳の誕生日おめでとう、ノエル」


 ステラがそっとノエルを抱きしめた時だった。

 コンコン、とドアがノックされた。


「私だ」


 ローワンの声に、ステラは驚いてドアを開けた。

 そこにはどこか気まずそうな表情のローワンが立っていた。


「ローワン様……」


 ローワンが無言でリボンのかかった箱をノエルに差し出した。


「誕生日プレゼントだ」

「あ、ありがとうございます……」


 ノエルが驚いたようにプレゼントを受け取る。


「では」


 もう用は済んだとばかりに、呆然としている二人を残してローワンが部屋を出ていった。


 ローワンは相変わらずノエルと目を合わせなかった。


(でも、パーティーに来てくれて、プレゼントも……)


 それがおそらく今のローワンの精一杯なのだろう。

 ステラは胸がいっぱいになった。


「何かしら? 開けてみてノエル」


 ステラはドキドキしながら箱の中身を見つめた。


「ペンだ……」


 ノエルが箱から取り出したのは、高級そうな羽ペンだった。

 羽は綺麗な青色に染められている。


「かっこいい……」


 ノエルがうっとりとペンを見つめる。


「よかったわね。これで勉強したり、お手紙を書いたりしましょう」


 ノエルの嬉しそうな様子に、ステラは思わず涙ぐみそうになった。


 子どもなりに叔父であり養父であるローワンの冷淡な態度は気になっていただろう。

 こうして誕生日祝ってもらえたことによって少しでも愛情を感じてくれるといい。


(本当に来てくれてよかった)


 ローワンにもお礼を言わねばならない。


(そうね、あとで切り分けたケーキを持っていこう)


 ステラは胸がわくわくしていることに気づいた。

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