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第29話:プレゼント採掘

「い、いいのですか、奥様。旦那様にお伝えしなくても」

「絶対に反対されるから言わないわ。お叱りは後でちゃんと受けます」


 ステラは鉱山へと向かう馬車に乗っていた。

 同乗しているケンドリックが心配そうな表情で見てくる。


「私、どうしてもノエルに自分で見つけた宝石をプレゼントしたいの!」


 きっぱり言い切るステラに、ケンドリックが苦笑する。


「いいアイディアだと思います。それに奥様は言い出したらきかないですからね」

「そうよ。諦めてちょうだい」


 もちろん、ノエルに喜んでほしいという気持ちが一番だ。

 だが、何かに集中していないと、ついローワンを思い出してしまうせいもあった。


(ローワン様……)


 あの夜、子どものように肩を震わせていたローワンの大きな背中が浮かぶ。


 あのときはいてもたってもいられず、何も考えずに彼を抱きしめてしまった。


 その時のことを考えると、ドキドキしてしまう。


(ローワン様は嫌じゃなかったかしら)


 立派な成人男性で公爵という地位にいる人に、まるで子どもに対するように触れてしまったのだ。


(気まずいわ)


 それはローワンも同じと見えて、朝食の席でもお互いぎこちなく挨拶をするだけになってしまった。


 ローワンが心をさらけ出してくれたのは嬉しかった。

 だが、思い切り抱き合ってしまったことを思い出すだけで顔が火照(ほて)ってしまう。


(私たちは夫婦! 何よ、これくらいで情けない。別にいいじゃないのハグくらい)


 何度もそう自分に言い聞かせてみたが、心は平穏からはほど遠かった。


(このままじゃダメなのはわかっているけど)


 鉱山に着いたステラを、前回と同じく監督官のクインと抗夫のリーダーのヒンギスが迎えてくれた。


「あの奥様……今日はまさか」


 長い髪をまとめ、つなぎを着用し、顔にはゴーグルとマスクを着けたステラにふたりが絶句した。


「申し訳ないけれど採掘道具を貸してもらえるかしら。今日は自分で宝石を採掘したいの。なるべく邪魔にならないようにするから」


 クインとヒンギスが顔を見合わせてため息をついたが、ステラは見ない振りをした。


(抗夫に混じって採掘する公爵夫人なんて私だけだろうけど。何と言われても構わないわ)


 ステラがヘルメットを着けると、諦めたのかヒンギスが口を開いた。


「どういった宝石が希望ですか?」

「サファイアがいいの」

「わかりました。サファイアは地下の井戸にある砂利層から採れます」


 案内されたのは、縦長の深い井戸だった。


「だいたい三十メートルくらいあります。壁沿いのはしごで下りますが、ご希望でしたらロープで下ろします」


 ヒンギスが不安そうにステラを見る。


「大丈夫よ。はしごで下りるわ」


 底が見えない深い井戸を見るとドキドキしてきた。


「奥様、せめて命綱をつけてください!」


 ケンドリックに言われ、しっかり体にロープを結わえる。

 ステラはゆっくりとはしごを下りていった。


 一定間隔で吊るされているライトストーンが(ほの)かに手元を照らしてくれる。


(こういうとき、魔宝石は便利よね。私も持ってくればよかった)


 見上げると、遙か上に心配そうにのぞき込んでいる人たちの顔が見える。

 自分のいる場所の不安定さに思わずぞっとした。落ちたら助からない高さだ。


(大丈夫。命綱もあるし皆もいる。ノエルに絶対に宝石をあげるんだ)


 必死で自分を鼓舞し、ステラは着実に降りていった。


「ふう……」


 ようやく井戸の底に着く。

 井戸と言っても、足元に浅い水の流れがあるだけだ。


「奥様、こっちです」


 ヒギンズに誘われ、ステラはゆっくりと井戸の奥を進んでいった。


 横穴はかろうじて人がすれ違える程度の幅で、少し身を屈めないとぶつけるほどの高さしかない。


「では、お好きな鉱床を掘ってください」

「ありがとう」


 ステラはじっと砂利層を見つめた。


(ノエルのお守りになるようなサファイアを……)


 そっと右手を鉱床に這わせていく。


(私の魔宝石は宝石の記憶が読める。だとしたら、宝石があれば何らかの反応があってもおかしくない)


 丁寧に触れていると、ふっと水底の映像が頭に浮かんだ。


(これ……宝石の記憶!?)


 ステラは砂利層にスコップを入れた。

 思ったより層は脆く、簡単に削れていく。


 ステラはザルいっぱいの砂利を掘った。

 落ちないよう布で包み、つるべで上げてもらう。


「ふう。今度は登らなきゃいけないのね」


 ステラは井戸の底から上を見上げた。


(でも、ロープで上げてもらうなんて面倒をかけたくないわ)


 ステラはしっかとはしごに手をかけた。

 なんとか登り切ると、ケンドリックがほっとしたように声をかけてくる。


「お疲れ様でした、奥様!」

「いいえ、まだこれからよ」


 砂利の入ったザルを抱え、ステラはせき止められた川に入った。

 ザルに水を入れながら、くるくる回す。


「軽い石は上がってくるから、これで選別するの」

「そんな重労働を! 私がやります!」


 靴を脱ごうとするケンドリックを、ステラは笑顔で止めた。


「私にやらせて。ノエルへのプレゼントなの」


 一心にザルを回すステラを、抗夫たちが感心したように見つめる。


「すごい奥様だな……」

「子どもへのプレゼントなんだって」


 一通り選別したあと、ステラはザルに残った砂利を探った。


「あ、これ……!」


 砂利の中から美しい青い石が出てきた。太陽に()かしてみる。


「サファイアだわ!」


 わっと周囲から歓声が上がる。たくさんの抗夫たちが見守ってくれていた。


「奥様、おめでとうございます!」

「あ、ありがとう」


 思ったより注目の(まと)になっていたようだ。


「よかったですね。きっと喜んでくれると思いますよ。手ずから見つけた宝石なんて、きっといいお守りになります」


 ヒギンズの言葉に、ステラは力強くうなずいた。

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