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第28話:悔恨

「残された甥の存在を知って……俺はすぐさま会いに行った。二人はもう埋葬されていた」


 ローワンが両手で顔を覆った。

 大きな手や肩が小さく震えている。


 ローワンがゆっくり顔を上げた。

 その端正な顔には絶望が広がっていた。


「俺の気持ちがわかるか? 残されたノエルはふたりにそっくりだったんだ! 兄譲りのまっすぐな黒い髪、フィオナそっくりの丸い大きな目――」


 ステラは隠されていた写真立てを思い浮かべた。


 あの写真を手に取ったときステラも思ったのだ。

 なんとそっくりな親子だろう、と。


「とても見ていられなかった……! ふたりのことを思い出すだけで胸が張り裂けそうになる! なぜ俺はもっと早くふたりに会いに行かなかったんだ! 俺はもう成人していて、親の目など何とでもなっただろうに!」


振り絞るようなローワンの声から、凄まじい悔恨が伝わってきた。

 胸が痛くなり、ステラはぎゅっと胸の辺りを握った。


「やっぱり俺は心のどこかでふたりを恨んでいたのかもしれない。ふたりだけで出ていってしまった。俺だけ置いてけぼりで仲間はずれにされたような……そんな子どもじみた感情で、俺は……ふたりを探さなかったんだ……」


 ローワンの手が震えている。

 いつも冷徹な光を帯びている目が、頼りなげに揺れていた。


「時間を戻せるなら……戻したい。もう一度、ふたりに会いたい。大好きだったんだ、ふたりとも。心の底から愛していた!」


 それは慟哭だった。

 ステラは声もなく、すべてを吐き出すローワンを見つめた。


(思い違いをしていた)


 ローワンはあまりに兄夫婦を愛しすぎていて、そっくりなノエルを見られなかったのだ。


(防御反応ね。自分の心を守るために避けていたの?)


 だが、そのために親を失ったばかりのノエルはひとりぼっちで過ごすことになった。


 ステラはぐっと手を握った。


「そんなの……ノエルを放置する理由にはならないわ!」


 だが、ステラはそれ以上続けられなかった。

 肩を震わせて泣いているローワンが、あまりにも無防備でいたたまれなかった。


 ステラの目からも涙がこぼれ落ちた。


(立派な公爵である彼が、まるで子どものように泣いている。ノエルだけじゃない。この人も……ずっとつらかったんだ。兄夫婦の死を受け入れられなくて、何もできなかった自分を責めてばかりで)


 ステラはそっとローワンの隣に座った。

 なぜだろう。自分よりずっと大きくたくましい彼が、まるで幼子のように見える。


 ステラは震える手でローワンの髪に触れた。

 ローワンは動かない。


 ステラ勇気を振り絞り、そっとローワンの頭を撫でた。


「……っ!」


 次の瞬間、ステラはローワンに抱きすくめられた。


 あまりに強い力で、一瞬恐怖を感じたステラだったがすぐに力を抜いた。


 すがりついてきたローワンは体こそ大きかったけれども、まるで子どものように感じられたのだ。


 ステラはそっとローワンを抱きしめた。

 彼の体温とともに、苦しみや悲しみが伝わってくるようだ。


 心の傷は簡単には癒えない。

 けれど、少しでも自分が力になれるならとステラはただひたすらローワンを抱きしめた。


 それからどれくらい時間がたっただろう。

 我に返ったように、突然ローワンが体を離した。


 見たことがないほど狼狽し、頬が赤らんでいる。


「いきなり悪かった……」

「いえ」


 ステラは安心させるように微笑みかけた。


「いつか、ノエルを抱きしめてあげてください」


 ローワンは答えなかった。

 だが、いつも彼から感じていた冷ややかな壁は取り払われていた。


(気持ちが伝わったのなら、今はそれで充分)


「お話できてよかったです。おやすみなさい」


 ステラはそっと部屋を出た。胸に温かいものが(とも)った気がした。

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