第27話:能力開示
「魔宝石の能力だと?」
燃えるような青い目に、ステラはすべてを話す覚悟をした。
震える右手をローワンに見せる。
「この右手の指輪で触れると、宝石の記憶が読めるんです!」
ローワンが信じられないというように指輪に目をやる。
「本当です! 図書室のエメラルドの記憶を読んで……」
「図書室の宝石か」
ローワンがようやくステラから手を離した。
ステラは思わず床にへたり込んだ。
(殺されるかと思った)
ローワンがステラをじっと観察するように見下ろしてくる。
「なるほど、宝石の記憶を読む力……」
腕を組んだローワンがハッとした表情になった。
「そうか、お茶会の時のぬいぐるみ……目がルビーだったな。子どものトゲのことに気づいたのは記憶を読んだからか」
さすがに頭の回転が速い。
過去の出来事を思い出し、ステラの能力を確認したようだ。
「そんな力があるのに今まで隠していたのか」
ステラはよろよろと顔を上げた。
「利用されたくなくて……亡くなった母以外、誰にも話していません」
「なのに俺に話していいのか」
ローワンが自分のことを『俺』と言ったことにステラは気づいた。
もしかしたら、今のローワンは『公爵』ではなく素顔の彼なのかもしれない。
「信じてもらいたいので……」
ステラはゆっくり立ち上がり、静かに頭を下げた。
「わざとではないですが、過去の記憶を勝手に見てしまって申し訳ありません」
ローワンがじっとステラを見つめる。
そして、棚に向かうとグラスとワインの瓶を手に取った。
「ソファに座れ」
ステラがおとなしくソファに腰掛けると、ローワンがワインを注いだグラスを差し出してきた。
「おまえも飲め。酒が必要だろう」
ステラはグラスを受け取った。まだ胸がドキドキしている。
相手の心の柔らかい場所に触れてしまったのと、自分の心もさらけ出したからだ。
(確かにお酒が欲しいわ)
ステラがグラスに口をつけると、ローワンもグラスのワインを一気に飲み干した。
「憎んでいない」
「えっ……」
「兄もフィオナも、二人とも大事な人だった」
ふう、とローワンが小さく息を吐いた。彼がまとっていた鎧が外れた気がした。
ステラは思いきって口を開いた。
「ずっと気になっていました。ノエルのご両親について教えていただけないでしょうか?」
「そうだな。きみは仮にも俺の妻だ。公爵家について知っておいてもいいかもな」
お酒の力を借りて舌を滑らかにしたというより、ローワンは吐き出したがっているように見えた。
「兄は俺よりも四歳上で、頭がよく優しい自慢の兄だった」
どこか懐かしそうにローワンが話す。
「穏やかでいつも微笑んでいて……俺はいつも兄の後をついていったものだ」
ローワンが空になったグラスにワインを注ぐ。
「十二歳のとき、フィオナがメイドとしてこの屋敷にやってきて。兄と同じ十六歳だった。明るくて元気いっぱいでお節介で……俺はすぐに彼女のことが好きになった」
ローワンがグラスを揺らす。
あまりにも素直で率直な言葉に、ステラはただ息を呑んで聞き入っていた。
「だけど二年たつうちにわかった。フィオナと兄が両思いだということを」
「身分違いの恋ですね」
「そのとおり。両親は結婚したいと言い出した兄をあっさり放逐した。結婚をするなら出て行け、すべての権利を放棄しろ、と」
「結婚を反対されなかったんですか?」
ステラは驚いた。
公爵家の長男とメイドの恋。普通は一時の感情だから諦めろと、大抵の親は二人を引き離すだろう。
そんな悲恋など物語にも腐るほどある。
「いや、両親は喜んでいた」
「え?」
ステラはローワンを見てびくりとした。
ローワンはぞっとするような歪んだ笑みを浮かべていた。
「両親は子どもの頃から俺ばかり可愛がっていてな。家も俺に継がせたがっていた。兄は病弱だったが、別に家督を継げないほどじゃない。頭もよく宝石に関する才能もあった」
ローワンががっくりとうなだれた。
「俺なんかより、ずっと公爵にふさわしかったのに」
かすれた声がする。表情は見えない。
「両親は渡りに舟とばかりに兄とフィオナを追い出した」
「そ、それでどうなったんですか?」
「ふたりは領地から遠く離れた町で暮らしていたらしい。俺は接触を禁じられていて、使用人から伝え聞くしかなかった」
「会いにいかなかったんですか?」
ローワンがそこまで親を恐れるのが不思議だったステラは尋ねてみた。
「俺が会ったのがバレたら、親がふたりに何をするかわからない。うちの親は気に入らない者に対して容赦がない」
そういえば、魔宝石師を先代が追い出したと言っていた。
ローワンの両親は苛烈な気性だったのかもしれない。
兄夫婦の安全を思ってのことだとしたら、ローワンが距離を置いたのも納得がいく。
「去年、俺が家督を継いでしばらくして両親は馬車の事故で亡くなった。自由になった俺は密かに兄夫婦に会いにいこうとしたが、ふたりはもう引っ越していて追えなかった」
「そうだったんですね」
兄夫婦も家督を継ぐであろう弟に迷惑をかけたくなかったのだろう。
何も言付けず姿を消したらしい。
「そして一年前、便りが届いた。兄夫婦の訃報を知らせる手紙だった。ふたりが親しくしていた近所の人が、俺の連絡先を残していたことに気づいて手紙を出してくれたんだ」
十年近くも会えないまま兄夫婦を失ったローワンの悲しみは計りきれなかった。
お互いに愛情があったのに交流は叶わなかった。
ステラはつらくなり、ぎゅっと胸のあたりをつかんだ。
「で、でもそんなに愛情があったなら、なぜ二人の子どものノエルを放置したんです!?」
ローワンがノエルを避ける理由がわからない。
詰め寄るステラに、ローワンがそっと目を落とした。




