第26話:ノエルの誕生日
「えっ……誕生日?」
「ええ、そうなんです」
ノエル付きの侍女、マリエルが大きくうなずく。
図書室に行った翌日、マリエルがそっとステラに告げたのだ。
「来週、七日がノエル様の誕生日みたいで」
マリエルが部屋を片付けていたときに思い出箱に気づいたようで、その中からバースデーカードが出てきたのだと言う。
「それで奥様にお知らせしなくちゃ、と思って」
「ありがとう、マリエル」
子どもにとって誕生日は大きなイベントだ。
決しておろそかにしてはいけない。
「パーティーをしなくちゃ。ああ、でも今からだと人を呼ぶには遅すぎるわよね? あっ、プレゼント……何がいいかしら?」
「今年はホームパーティーでいいんじゃないでしょうか。奥様もまだ体調が万全ではないですし、お客様を呼んでのパーティーは負担が大きすぎると思います」
マリエルの言葉に、ステラはようやく落ち着いた。
「そ、そうよね。そのぶん、来年はきっと豪勢に!」
「ええ、早めに計画を立てましょう。お食事とケーキをどうするか料理長と相談して……」
「そうね! 部屋を飾り付けてプレゼントを用意して!」
「ローワン様のご予定も押さえなくては!」
マリエルの言葉にステラはハッとした。
昨日見たローワンの昔の姿が浮かぶ。
(誕生日パーティーには、『父』であるローワンにも出席してほしい。でも、もし私の想像が当たっていたら……きっと断られるわ)
失恋したローワンが兄夫婦を厭っていた可能性を思い浮かべる。
だが、ステラはかぶりを振った。
(失恋したかもしれないけれど昔の話!)
(それよりも養父としての義務を果たしてもらわないと!)
ステラはぎゅっと拳を握りしめた。
*
夜になり、ステラはローワンの私室を尋ねた。
ゆったりしたローブを羽織ったローワンがステラを観察するように見つめる。
「なんでしょう? 仕事はまだダメですよ」
いきなり釘を刺されたが、ステラはなんとか微笑んだ。
「来週ノエルの誕生日なんです。ささやかなホームパーティーを開こうと思うのですが」
「ホームパーティーならいいでしょう。ですが、あまり根を詰めないようにしてください」
「は、はい! それでローワン様にも来ていただきたいのですが」
途端にローワンの顔が曇った。
「お断りします」
ステラは愕然とした。
「え? 誕生日パーティーですよ?」
「私は出ません。あなただけで充分でしょう」
にべもない口調に、交渉の余地はないことが明らかだった。
久々に胸に怒りがわく。
「あなた、ノエルの養父でしょう? ノエルには私たちしかいないんですよ!?」
「知っていますよ。だから、私はノエルを引き取った」
「なら、父親としての義務を果たしてください!!」
自然と大声が出た。
(ダメ……落ち着かなきゃ)
ステラは深呼吸をして心を落ち着かせた。
ローワンが冷ややかな目を向けてくる。
「義務で出席しても喜ばないでしょう?」
「そういう話をしているんじゃありません!!」
ステラは再び声を上げた。
ノエルのこととなると冷静でいられない。
「清潔な寝床や温かい食事を与えるだけが生活ではありません!! 父として最低限のコミュニケーションを取ってくださいと言っているんです!!」
「お話になりませんね」
ローワンが肩をすくめた。
ステラの必死の訴えも、ローワンにはまったく響いた様子はない。
「パーティーは許可しますが、私に強制するのはやめてください。話はそれだけですか?」
さっさと話題を切り上げようとするローワンに怒りが燃え上がる。
ステラは感情を抑えられなかった。
「あなたはノエルのご両親を憎んでいるから、ノエルに冷たくするの?」
「は?」
ローワンの青い目が鋭い光を放つ。
(しまった!)
慌てて口に手を当てたが、時既に遅し。
ローワンの顔が険しくなっていた。
「それはどういう意味でしょうか?」
鋭いローワンの声音に絶対に追求するという強い意志を感じ、ステラは観念した。
「あなたは……フィオナさんをお兄さんに奪われて恨んでいるのかと思って……」
「フィオナのことをなぜ知っている!!」
立ち上がったローワンが一気に距離を詰め、ステラの顎をつかんだ。
「……っ」
ステラは恐怖に体をすくませた。
ローワンが顔をのぞき込んでくる。
初めて見る苛烈な表情だった。
「いったいどこでそれを知った? 古参の使用人たちか!?」
「ち、違います!」
あまりの迫力に、ステラは息もできなかった。
「私の魔宝石の力で記憶を読んだんです!」




