第1話 祖父の工房とハネウサギ⑥
2日目3話目です。
翌朝。ポスポスポスポスと工房の戸が叩かれた。窓の外はもう明るいが時計は6時を指している。とうぜん朝である。
現状は無職と言える構は昨日からだらけた生活になっていた。昨晩も工房で就寝である。
「んーーーー早すぎない?」
寝ぼけ眼をこすりながら構はベッドから起き上がる。来客はわかっているが、もう少し時間には手加減願いたい。
ポスポス叩かれる戸を開けると、昨日と同じくウサギが転がってきた。今朝は1羽だ。同じように作業台にぶつかり、小さな手で額を押さえている。
構はすぐに行燈を手に取りウサギに渡す。ウサギは行燈をしっかり抱えたが、視線は構に固定されたままだ。
「……まさか、ニンジンもか?」
『ミュー!』
そうらしい。
構は家に戻り冷蔵庫からニンジンを持ってきた。昨日買い物に行って良かった。
今日もラピュタトーストで朝ご飯だ。片手で食えるのがいい。
一心不乱にニンジンをかじるウサギを眺める。最高のおかずだ。今日のパンはいつもの5割増しは旨い。
先に食べ終えた構は木の実を手にウサギに問いかける。
「昨日もらった木の実はどうすりゃいい?」
ウサギは問いかけを無視して食べ続ける。食べ終えてからようやく構をむいた。
『ウエルー』
「なるほど、植えるのか」
構は食わなくてよかったぜ、と胸をなでおろす。木の実もすべて可食ではない。当然毒もある。救急車を呼んでも20分は来そうもないこんな田舎で食中毒なぞ考えたくもない。
『アリガトー』
役目は終えたとばかりに、行燈を抱えたウサギは礼を述べて工房を出て行った。
「忙しねーな」
構は片付けをしつつ木の実を植える場所を考えた。どんな木なのかは知らないが、窓から見える場所がいいだろうと。
もし大木になってしまうなら工房の近くはダメだ。根が家の土台を破壊しかねない。
「植えるなら、あの柵の扉の脇でいいか」
構はさっと洗い物を済ませた後、マイナスドライバーと木の実を持って外に出た。シャベルの替わりだ。こんな使い方はダメなのだがあるあるだ。タガネ代わりにもしてしまうのも悪い癖だ。
扉との距離を適当に測り、マイナスドライバーで地面を掘る。
「木の実だから掘ったらダメかも? まあでも掘ったし」
園芸はさっぱりな構はそのまま土に埋めた。工房の隅にじょうろがあったので水をたっぷりかける。
「忘れたころに芽が出るでしょ」
工房に戻った構は、無職を返上すべく何でも屋の活動の準備に取り掛かった。
「何でも屋はいいけど、どうやって知ってもらうかだなー」
役場には何でも屋をやると伝えてはあるが、それで広まるとは思えない。かといってネットに広告を出しても、田舎のお年寄りの目に留まるとも思えなかった。新参者ゆえに伝手もない。
「ダメじゃん」
構はがっくり肩を落とす。
金はあるので贅沢をしなければ20年は生きていけるが、贅沢もしたい。人間はわがままな生き物なのだ。
「どうするかー」と3時の一服でコーヒーを決めていると、外から『ミュー』と鳴き声が工房に入ってきた。ウサギが来たのだ。『ミュー』『ミュー』と複数の声が聞こえる。
「また2羽か」
構がドアから顔を覗かせる。ちょうど木の実を植えたあたりに羽の生えたウサギが3羽いる。白、茶、黒。行燈は2個。
「増えた。しかも色違い」
構が顔を出したからか、ウサギがぽてぽて歩いて来る。かわいい。
『アリガトー』
『ナオチテー』
『ナオチテー』
差し出されたのは栗の実と行燈。さっと底面に視線をやり、祖父の物と確認する。直さねば。
行燈と木の実を受け取ると、ウサギ3羽は飛び跳ねて森に帰っていった。相変わらず忙しないウサギである。
「今度は栗かー。季節外れもいいとこだ」
今は初夏。栗の時期には早すぎる。
「植えるか」
木の実を植えた柵の扉の反対側に、少し距離を離して植えた。
「桃栗3年。食えるのはだいぶ先だ。それより修理修理♪」
スキップしながら、構は工房に戻った。
㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢
「壊れ方はみんな同じだな」
構は作業台に置かれている行燈を眺めてつぶやく。
行燈は2個とも断線だった。その前も断線。構には、過電流で配線の許容能力を超えての断線に見えた。
「漏斗みたいな部品からエネルギーが流れて水晶が光るんだろうけど。俺が持っても光らないんだよなー」
構が直した行燈を持っても何も起こらない。ウサギが持つと淡く光るのだ。その差は何だと考えてしまう。
「羽の生えたウサギなんて普通じゃないけど」
構は普通の成人男性だ。身長も成年男子には届いていない160センチ。高身長男子がうらやましいお年頃だ。おかげでここ数年彼女はいない。
「気になるのは、行燈の数が増えたことかな。全部じーちゃんが作ったものに違いないけど、何台あるんだろ」
ウサギの様子からすると、明日はさらに増えそうな気配があった。どうせ直すなら一気にやりたい気持ちもある。
はんだ付け程度だから1台当たり20分もあれば終わる。何でも屋はまだ開店もしていないので暇だ。暇ならば時間つぶしが欲しい。個人的な事情が強い。
「聞いてみるか」
構は腕を組んで唸った。
1更新の文字数を2000文字くらいにしていますが、もうちょっとほしいなどありましたら教えてください。
2話目から変更するかもです。




