第1話 祖父の工房とハネウサギ⑤
2日目2話目です。
朝食はパン派な構は目玉焼きをトーストに乗せるラピュタスタイルがデフォルトだ。
メリットは片手で食えること、使う皿が減ること。洗いものの時間が減れば自分の時間が増える。QOLを上げるためのこだわりだ。
ウサギがいるから工房で朝食にするのだが、トーストに目玉焼きを載せた段階で「このウサギの前で食うのか?」と気が付いた。自分だけ食べているのは心苦しいし、見られながら食べるのもナンだ。ウサギとはいえ。
「ウサギねぇ……冷蔵庫にあったかな」
家の冷蔵庫をあさったらば、中途半端なニンジンを見つけた。包丁でスティック状に切って工房に持っていく。
『ミュー!』
構の手にあるニンジンに気が付いたウサギがつま先立ちして手を伸ばす。とてもかわいらしい。
「床に直置きはできないし」とウサギを作業台に乗せた。行燈は壁の棚に置いてある。
ウサギにニンジンを渡し、構も朝食だ。
ぺたりと座り込んだウサギが両腕で器用にニンジンを持ち、もっもっもっもっと食べていくさまを眺めながら構はトーストをかじる。パンと塩と黄身が合わさって絶妙な味わいだ。
「食べ終えたらちょっと聞かないとな」
行燈が直ったわけではない。どのような動作をするのか構は知らない。昨日は何の動作もしていなかったが、それは構がわからなかっただけかもしれない。
そんな期待を持ちつつ、パンをかじる。
『ミュー!』
「はいはいお代わりね」
ウサギにニンジンを強請られつつ、朝食を終えた。非常に健啖家なウサギだった。
皿を流しに置いた構は行燈を作業台に載せた。すぐにウサギが抱え込み『ミュー』と鳴く。
すると行灯がオレンジに灯った。うすぼんやりの、やさしい光だ。
「直ってはいたのか。俺が持っても光らなかったけど」
構はフンスと腕を組む。うれしさよりも不満を強く感じていた。
なんで自分が持っても光らないんだ。修理できたかわからないじゃないか。
そんな構の心情など知らないとばかりに、羽の生えた白いウサギは行燈を抱えたまま小躍りしている。小さな羽もパタパタさせて、よほどうれしいようだ。
ウサギが踊りをピタと止め、構を見上げる。
『アリガトー』
ウサギはぴょんと作業台から飛び降り、そのまま外に出て行った。構が追いかけて外に出たときにはウサギの姿はなく、静かな森があるだけだった。
構は工房に戻り、インスタントコーヒーを用意した。丸椅子に座り一服だ。コーヒーを一口すする。
「あのウサギ、しゃべってたよな」
今更である。
「聞き間違いじゃなきゃ、ありがとうって言ったな」
感謝を表せるのは、ある程度の知能がないとできない。そもそも感情を持たないと感謝という気持ちすら持たないのだ。
「知能と、あと社会性だな」
感謝ということは、その対象たる他者が存在する。ならば群れがあるはずだ。
あのモフモフがいっぱいいる様子を想像し構の顔が緩む。見てみたい、という欲望がむくむく立ち上がるのがわかった。
「まぁ森だからな」
構は簡単に考えていた。それが甘いと、3時間後に思いしるのだ。
3時間後に再びウサギが現れたのだが、今度は2羽だった。1羽は手に木の実を持ち、もう1羽は行燈を抱えている。色はともに白。そして羽もある。
2羽揃って木の扉の前にいた。
「行燈を持ってるのが新顔か? 行燈がないと区別がつかないな」
そもそも普通のウサギを見ても色が同じなら区別はつかないが。
『オレイー』
『ナオチテー』
2羽同時に手に持ったものを掲げて、しゃべった。片方がお礼と片方が修理のお願いだ。
構は両方を受け取る。ちらと底面を確認したが、やはり源三の文字があった。祖父の作ったものだ。ならば直さねばなるまい。
「これから直すから、明日来てくれる?」
『『アシター』』
2羽は同時に大ジャンプし、柵を飛び越え森に消えた。忙しないウサギだ。
「木の実、ねぇ」
構は木の実を掌に載せて矯めつ眇めつする。
典型的な木の実色で、クルミほどの大きさだがつるんとしている。指で挟んでみたが、かなり硬い。
構の記憶にはない木の実だ。
「食えってことか、植えろってことか。解釈に迷うな」
木の実を見ながら考えたが結局「どうせ明日来るから聞いてみるか」で終わった。
「さて修理だ修理だ」
構はふふーんと鼻歌交じりで工具を用意した。
1更新の文字数を2000文字くらいにしていますが、もうちょっとほしいなどありましたら教えてください。
2話目から変更するかもです。




