第1話 祖父の工房とハネウサギ④
2日目も3話更新します。
「深呼吸深呼吸」
意識は手元に出てくる。不安を抱えていれば、それが手元を狂わす原因となる。
心を落ち着ける様に漏斗の部分にフラックスを塗る。無駄に広く塗布してもダメなのでピンポイントだ。
「よし」
構は温めたはんだごてとはんだを持つ。それだけでやる気が漲ってくるのを感じた。
「熱に強いかわからないから短い時間から試そう」
漏斗にはんだごてを2秒当てて温めてからはんだを送る。はんだがにゅるんととろけた場所に電線を差し入れはんだごてを離す。はんだが山の形で固まった。
「よし、いい感じだ」
構はフフッと笑う。久しぶりのはんだ付けだが、うまくいった。
うまくいったが、構はふと考えた。
「そういえばスイッチっぽいのがないな」
構は行燈を持ち上げ、改めて全周を確認する。物理的に押すタイプも、接触を感知するタイプもなかった。
「うーん、はんだ付けはうまくいってるはず。ってことはほかに壊れてる箇所があるのか?」
構はテスターを持って来た。導通を測る計測器で手のひらサイズのものだ。
「導通は問題なし。ちゃんとはんだ付けもできてる、か」
構はまた行燈をひっくり返して内部を観察する。仕組みが単純すぎて、配線以外は部品でしかない。
「部品が壊れてたらお手上げだ」
構はため息をつく。さすがに部品はない。でも直したい気持ちが強い。どうすればいいかと考えていたら、家の玄関の方で物音がした。
「物部さーん、おりますかー」
「あれ、誰か来たな。集落の人かも。いま行きまーす」
構は工房を出て玄関に向かった。
玄関にはスラックスに白いシャツの中年男性が立っていた。暑いのか汗だくでハンドタオルで顔を拭いている。
「役場の武藤というもんですが」
「あ、転居の届け出ですね。すっかり忘れてました」
引っ越し初日に摩訶不思議なことがあって頭の中からすっぽり抜けてしまっていた。今日から住むことは事前に伝えてあったので役場からわざわざ来たのだ。過疎に近づきつつある田舎なので転入してくる若者は貴重だ。なお、30歳は若者である。
「いまから行きますよ」
「あいや書類は持ってきたんで書いてもらえればこっちで処理しますよ」
武藤はすっと書類を差し出す。逃がすつもりはないのだ。
「ガスとか水は大丈夫だったですか?」
「えぇ、問題なく使えてます」
構は書きながら答えていく。途中で「ここの住所ってなんだっけ?」と詰まりながらだが。
「物部さんは修理もできると聞いていますが」
「基盤の修理はできないですけど、簡単な機械ならできると思います。あとちょっとした工事もやりますよ」
「それはひじょうぉぉぉぉぉに助かります。なんせ年寄りしかおらんもんで」
丁寧な口調が砕けてなまってきた。
「買い物は、集落の商店か、町のスーパーかホームセンターしかねーっすな」
「商店があるんですね。スーパーはここに来るときに確認しました」
「都会と違って、通販も時間がかかるんすわ」
「まーそれは仕方ないかなーと。はい書き終わりました」
構がハンコを押した書類を渡す。武藤は目で追いつつチェックし、ニカっと笑った。
「問題なしです。持ち帰って処理しますわ」
「よろしくです」
これにて、構はこの集落の一員になった。
そのあとは持ち込んだ荷物の整理で時間を費やし、腹が減ったと気がついたときにはすでに夜の8時だった。いまから作るのも手間だし、とカップ麺で済ませてしまう。
「なんか疲れたし、風呂に入って寝ちゃうか」
構は工房の仮眠スペースに布団を持ち込んで寝た。
㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢
「良く寝た……すっきりだ」
構が目を覚ました時、工房はすでに明るかった。窓はカーテンもない。大きい分差し込む日射も大きく、照明をつけなくとも普通に歩けた。
「朝食はなににするかなー」
とお腹をかいていると工房のドアがポスポスポスポスと叩かれた。音がするのは扉の下の方だ。人間にしては低すぎる。
「んー、そこにノックするのは何だ?」
構はそっと窓に近寄り、隠れる様に外を見る。窓から扉の外が見えるのだ。
扉の外では、昨日見かけた羽の生えた白いウサギが小さな手でドアを叩いていた。
「明日とは言ったけど、早すぎじゃない?」
工房にある時計を見ればまだ7時を回ったばかりだった。TPOは守ってほしいと構は思った。
構は寝間着のまま木の扉を開ける。
『ミュー』
叩いていた戸が突然開いたからか、ウサギがコロンと工房に転がってきた。コロコロ転がって作業台の足にぶつかって止まった。頭に当たったのか両前足で額を押さえている。かわいい。
「おはよう、ウサギさん」
構が声をかければ『ミュー!』と抗議の甲高い鳴き声が返ってくる。
「俺まだ朝ごはん食べてないんだ。ちょっと待てる?」
『ゴハンー?』
「そ、ごはん」
構が念押しするとウサギは首を傾げて『マツー』と答えた。
1更新の文字数を2000文字くらいにしていますが、もうちょっとほしいなどありましたら教えてください。
2話目から変更するかもです。




