第7話 領都への道中⑤
「こんな筒が魔力の代わりだと?」
「イコールではなさげですけど、似たようなものですかね」
構とてわかってはいないが、測定した結果、性質が似ていると思っただけだ。これが合っているのかもわからない。
「触っても良いだろうか?」
「どーぞどーぞ。でも危ないんで目に向けないでくださいね」
構は電池をセットしてスフレに渡す。ボタンを押すが反応がない。何度もカチカチするがうんともすんとも言わない。
「ふむ、動かん」
「貸してください。うん、ちゃんと光るなぁ」
構がボタンを押せば緑のレーザーが伸びていく。
「俺が魔道具を触っても何も起こらないのと同じで、スフレさんが電気式の道具を使っても動かない? でもクッキーさんはIHコンロを動かせてるしなぁ」
これか?という考えを思いつくが、即座に実例で否定された。
工房の中とこちらの草原という場の違いはあるけど、検証しないと分からないな。
それでもあきらめないのが構と言う男だ。
「ワイバーンの回収が終わりました」
「この付近に魔獣はいないっすね」
クッキーとラスクが報告しにきた。
「いますぐ答えは出まい。先を急ごう」
スフレはさっと荷台に乗ってしまった。荷台が気に入ったらしい。
「お嬢様、ここらだとサブレ村っす」
「確認せねばならんな」
寄り道となった。
サブレ村は、より領都に近い村で、広大な平地に耕作地が広がる農村だ。麦や野菜、果実も見える。人口も1000人を超え、村ではなくもはや街に近い規模だ。
サブレ村に入り、村長と会う。村長は赤髪を短く刈り込み、程よく筋肉が付いた壮年の男性だ。清潔感があり、着ている服もしっかりしていることから、スフレの父の領地経営はうまくいっていると思われた。
「そうか、ワイバーンは数日前からいたのか」
「えぇ、村の付近にはいないはずなので、銀峰山脈の向こうから来たのかもしれません」
「被害がなくてよかった。しかしだ」
ふむとスフレはあごに指をあてる。あのワイバーンは特殊個体だった。通常のワイバーンであれば大筒の一撃でふらつくくらいのダメージは与えられていたはずだった。
銀峰山脈は、境界の森のさらに奥にある、万年雪をたたえる山脈だ。その向こうに別な国がある。
「村長、ワイバーンは1体置いていく。魔核は領都の騎士団に送ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
村長はスフレに深々と頭を下げた。退治したワイバーン1体を村に寄付するようだ。獣と考えれば、ジビエだろうか、と構は考える。
イノシシやシカは獣臭さがあるが肉は食用可能だ。逆に、食べられない動物はほとんどない。人間は楽に食べられておいしい獣だけを選んで食しているだけだ。
「ワイバーンも食べられるわけね」
少し離れた村の中心地にある広場ではクッキーがマジックバッグからワイバーンを出している。村人がナイフ片手に雄たけびを上げていた。ちょっと怖い。
構は知らないが、ワイバーンは肉のほかに皮、牙や骨も素材として使われる。皮は丈夫な衣服や防具となり、牙や骨は鉄の合金にすると粘りが出て強度が増すのだ。主に剣や槍などの武器に使われる。この村で製鉄はされていないが、訪れる商隊に売れば金になる。ワイバーンは余すところなく使われるのだ。
いつもの風景なのか、ラスクもクッキーも普段と変わりない顔だ。
ただし。
「魔核?」
何それ?という顔の構以外は。
「ほかに鹿型の魔獣が出ております」
「被害はあるか?」
「村の住人に被害はありませんが、畑に被害が出ております」
「それはいかんな」
村長の言葉にスフレの眉間にしわが寄る。近くの森にいた鹿が魔獣化したようだ。
領都でも農業は盛んだが、それだけでは領都、そして王国の食を満たせない。この村を含めた領内の農地で生産された野菜などが領都や王国各地に運ばれる。
この仕組みは、現代の人口が集中する国や地域でも同じことが起きている。東京の食を満たすために、日本各地の農作物が運ばれているのだ。
それゆえに耕作地に被害が出ているとなれば対処せねばならない。害獣滅ぶべし。
「騎士団に報告は」
「昨日いたしました」
「ならば動いているな」
スフレと村長が話をしていると、村の入り口が騒がしくなる。ロードコッコに乗った騎士らしき鎧姿の男たち5人が村に入ってきた。
「お嬢様!」
「団長と呼べと言ったろう」
「我らにとってお嬢様はお嬢様です」
5人はロードコッコから降り、右こぶしを握り左胸に当てた。隊長と思われる赤髪の男が前に出た。
「第4小隊、魔獣発見の報で駆け付けました!」
「ご苦労。村長に聞いたが、魔獣が出ているようだな」
「はい。これより森に入り魔獣を退治する予定です」
「ではこれを持っていけ。我らは領都に戻らねばならん。頼んだぞ」
スフレはクッキーに大筒を出させ、隊長に渡す。
「お嬢様よろしいので?」
「団長と呼べ。大筒はもうひとつある。それに、ワイバーンを叩き落としたもっと凶悪なものもある」
スフレが構を見てニヤリとした。騎士の男5人はそこで初めて構に気が付いたようで、怪訝な顔をしている。初めて見る顔で、しかもスフレと一緒にいる上に近くにあるのは白い軽トラだ。彼らの心中やいかにと思ってしまう。
「すまぬが我々は出る。倒した魔獣のうち1体は村に置いていってくれ」
「お任せください!」
構ら一行は村を出て領都を目指した。




