第7話 領都への道中④
亜竜ワイバーン。首の長さを含めた5メートル、幅3メートルの翼と前足が一体化している竜の亜種だ。竜種の中では小型だが、人間からすれば十分大きい。
ブレスは吐かないが高速ですれ違う際の翼としっぽが武器。地上では長い首のリーチによる噛みつきと大きな翼での攻撃を繰り出す、割と厄介な魔獣だ。
「野菜を運んでいた者たちが襲われてしまう。堕とすぞ! クッキー、大筒だ!」
「はい!」
クッキーが大筒をスフレに投げる。構も空に飛行する3体の何かを見つけた。黒い靄を引き連れた、事件があった際に見かける報道ヘリと同じくらいの大きさの飛行物体だ。上空で旋回しているのが、だんだん大きくなっている。様子をうかがいながら降下してきていた。
「かなりデカイ?」
「カマエ殿はケイトラに避難してくれ!」
「ハ、ハイィ!」
スフレの怒号に押され、構は軽トラの運転席に飛び込んだ。
「うぇぇぇ、あのシルエットはドラゴンじゃん。見るだけならカッコいいけど」
構はハンドルにもたれかかりフロントガラス越しに空を見ている。ガラス越しのために魔獣に襲われているという実感がないのだ。どこか他人事としてとらえていた。
「行くぞラスク!」
「やるっす!」
スフレとラスクがコッコに乗り駆けていく。軽トラから注意をそらす作戦だ。荷台には、クッキーが大筒を抱えているのがバックミラーで見えた。
「もしかしなくてもお荷物だな俺」
構はため息と一緒に申し訳なさを吐き出した。
「クッキー撃て!」
スフレの指示でクッキーが大筒に魔力を流す。極太の光線がワイバーンに突き刺さった。黒い霧が削られ怯んで『ギュァァ』と吠えたワイバーンだが、飛び続けている。
「チッ、ワイバーンの特殊個体だな」
大筒の光線を当てるもワイバーンは落ちない。スフレが叫んだように特殊個体らしく、高速機動で避けてさえいる。大型の魔道具たる大筒の方向転換が間に合わないほどだ。
もう少し小型の大筒があれば取り回しも楽になるんじゃないかな。
構は技術者の視点で見始めていた。彼らもわかってはいるのだろうが作れる人がいないのだ。
『ギュァァ!』
ワイバーンの怒りの咆哮が空に響く。
「クッ! ラチが明かんな」
クッコロのようにスフレが吐き捨てる。
「特殊個体は動きが速いっすからね。小隊だったら囮作戦も使えたんすけど」
「ここで放置はできん。やるぞ!」
スフレは高速で飛び回るワイバーンに手こずっていた。構でも焦りの様子がわかってしまう。
何かできないか。構は考える。
大筒が効いてないわけではなさそうだ。その証拠にワイバーンは避けている。効かないなら無視すればよいのだ。
「目潰しできればワンチャン?」
飛行の邪魔をできれば大筒の光線も避けられないと構は判断した。
構はレーザーポインターを取り出した。個人輸入品であり、国内では製造許可が下りない出力のブツで、最大到達距離は10キロという化け物でもある。
「目くらましになってくれくれば!」
構はワイバーンに向け照射する。
緑のレーザーが青い空を切り裂く。レーザーを動かしてワイバーンの頭に合わせた。ワイバーンが引き連れていた黒い霧が一瞬で消えた。
『ギュアアアアア』
レーザーが当たったワイバーンがきりもみしながら墜落していく。
「あれ、目潰しに弱かったりする?」
墜落したワイバーンに剣を構えたラスクが突撃する。
「うらっす!」
すれ違いざまに長い首を斬り落とせば、暴れていたワイバーンが沈黙する。
「あと2匹。いけるかな?」
よくわからないが有効だと判断した構は残った2匹にもレーザーを当て、撃墜した。墜落すればこっちのものとばかりにスフレはとラスクによって退治された。
㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢
「カマエ殿、アレはなんだ?」
倒したワイバーンをクッキーがマジックバッグに回収、ラスクが周囲を警戒している中、構はスフレに捕まっていた。
それはそうだろう、謎の緑色の光を浴びたワイバーンが墜落したのだから。
「えっと、モノとしてはレーザーポインターなんだけど、なんでアレに効いたのかはわからないです」
わからないものはわからない。だが結果オーライで済まない成果だ。
聞き出したいスフレと結果しかわからない構の間でなんともいえない空気になっていた。スフレとて恩人を脅したいわけではない。
「原理はまあ、大筒と同じです。電源があって光に変換されるって仕組みです」
「大筒よりも細い光だったが」
「光を収束させてますからね。光も太いからエネルギーが大きいとは限らないんです。このレーザーはタバコに火をつけられるくらいのエネルギーを持っているので」
「えねるぎー?」
「えっとそうですね、魔力と置き換えるとわかるもです」
「魔力か……しかしカマエ殿に魔力は無いはずでは?」
「その、魔導具を直している時に、魔力と電気が似てるなってことに気がつきました。これには魔力になりうる電池が入ってるので」
構はレーザーポインターの持ち手の後ろを外し乾電池を取り出してみせた。




