第7話 領都への道中③
スコーン村は、境界の森に一番近い、周囲を木の柵で囲っただけの開拓村だ。普通の森も近くにあり、農業のほかにそこの維持管理と林業が目的の村だ。
世帯数も50ほどと少ないが、境界の森に近いため頻繁に領都から商隊と騎士団が訪れており、フォローはされている。また定期的に林業を営む人の入れ替えもある。会社でいうところの長期出張扱いだ。
「そうか、魔獣は見かけていないか」
「はい、巡回の騎士様もそうおっしゃっておりました」
スフレが村長に話を聞いている。魔獣の目撃はないようだ。構は軽トラの中でおとなしく見ているが、あまりにも珍しい形なので村人たちの視線を集めてしまっている。子供たちはおっかなびっくり荷台に触っては「きゃぁぁ」と走って逃げていく。子供あるあるだ。
「村の人の服は使い込んでる感じはあるけど清潔だ。色も結構な種類があるみたいで、染色技術も高いな。洗濯もちゃんとする余裕があるし、未開じゃないね」
構はそっちの方が気になっている。普通の人の恰好や行動でおおよその文化度を推し量れるのだ。構が見た限り、少なくとも途上国並みだなと判断した。森に近い、つまり領都から一番遠い村でこのレベルなので、領都はかなり文化度が高いのでは、と構は推測している。
「何かあれば魔導具で領都の騎士団に連絡してくれ」
スフレは村長にそう伝えた。
「魔導具で連絡できるのか。衛星電話の代わりと思えば、魔法で代わりとなるものも存在するよな」
構は独り言ちた。そういえば工房に紙が届いてたなと思い出した。
村を出て、またコッコと一緒に走る。コッコも軽トラになれたのか、時折くちばしで屋根をつついてくる。「凹むからやめてー」と構が叫ぶもののコッコには通じずだ。
「前に何かいる」
「スコーン村からの荷でしょう。領都まで野菜を運んでいくんです」
フロントガラスに幌荷車の後ろ姿が見えた。その前にも見えるので、複数台まとまって移動しているようだ。
幌荷車の横幅は普通乗用車程度はありそうだ。それでも道幅の3割程度でしかない。センターラインがない道路よりも幅が広い。
幌荷車の車輪は車体の外側にあり、まさに幌荷車だ。車輪は木製で、タイヤ部分は金属になっていた。
ゴムか代わりになるものはないのかな。それとも道が滑らかだからあまり必要になってないからか。
構はそう考察した。
幌荷車はのんびり走っているのか、ぐんぐんその姿が大きくなる。
「驚かさないように脇を抜けるっす」
窓の外からラスクの声がかかる。そのラスクは先に走っていった。
「おっちゃーん、後ろから抜いていくからびっくりしないっすよー」
「ん、騎士さんかい。ちょいと脇に逃げるかねぇ。おぉぃ、左によれぇ!」
ラスクが幌荷車の御者に声をかけると、その御者は前を走る幌荷車に叫んだ。こんなことも多いのだろう。慣れたやり取りが、騎士と領民の関係を表している。
幌荷車たちは左に寄っていく。
「騎士って、だいぶ慕われてる感じですね」
「領民を守るために体を張って魔獣と戦ってますから」
「そうですよねー」
構の感想にクッキーが答える。
警察も消防も自衛隊も騎士と同じだろうか。不正をする悪党はいるが。
構は追い抜きざまに幌荷車に会釈した。幌荷車を操っているのは麦わら帽子をかぶった顎髭豊かなおっちゃんだ。日に焼けたブッとい腕がたくましい。軽トラを見て目を大きく開いてるのが少しおかしかった。
「ご苦労様です」
助手席のクッキーがぺこりと挨拶した。美人の会釈でおっちゃんも笑顔になる。
幌荷車は首長恐竜のような茶色いナニカにひかれていた。大きさは象よりも小さくサイよりも大きい。軽トラと並ぶと同じくらいの大きさだ。
その恐竜はトットコトットコと意外と俊敏な足さばきで走っているが幌荷車は揺れていない。それよりも長い首が揺れててそっちが心配になる構だ。
「ゲッコーです。幌荷車を引くために、孵化したばかりから飼いならされたトカゲです」
「トカゲ?」
あれをトカゲというのかと構はちょっと唖然とした。恐竜だろと。
「みなご苦労。領都までの道中の無事を祈る」
「姫様でねーすけ!」
「姫様ー! うめぇ野菜をもってくだでー!」
「自慢の野菜だで食ってくだせぇー!」
スフレが追い越しざまに労えば彼らから大きな声が。スフレの人気がうかがい知れる。
「スフレさんは人気ですねぇ」
「お嬢様は常に第一線で戦っておられますから当然です」
クッキーもスフレが褒められて「むふー」と鼻高々な様子だ。
「そろそろ休憩っすかねー」
幌荷車隊を追い越して40分ほど走り、休憩タイムだ。道端にある広場的な空間に軽トラを止める。ここの草は踏み固められて土も見えるので、皆が休憩するのだろう。
やれやれと腰を叩きながら構は軽トラを降りた。
「お嬢様、上空にワイバーン3体っす!」
ラスクが空に魔獣を見つけた。




