第7話 領都への道中②
「そろそろ休憩するっす」
先導するラスクが右腕を上げた。1時間ほど走り最初の休憩だ。ちょうど焚火跡がある土がむき出しの広場がある。おそらくここが共有の休憩場所だ。
ラスクはロードコッコにえさと水をやり、クッキーは休憩時の紅茶を用意していた。なお、これらはクッキーのマジックバッグに入っていた。
構はキャンプ用の折りたたみ椅子を荷台から降ろす。水筒に入れてきたコーヒーで一服だ。
「そのケイトラはどれくらい速いのだ?」
足を組んで優雅に紅茶を嗜むスフレが聞く。おやつは構が用意した小分けの小さなドーナッツだ。スフレが甘い物好きっぽいのでスーパーで買っておいたものだ。
酒好きは甘いものも好き。構がそうなのだから。
「路面の状況がいいから、60キロで走っても問題ないかな」
「それほど速く走れるのか?」
本当か?とスフレは疑問がありありな顔になる。
「ロードコッコの全速力が時速80キロっす。でも5分しか走れないっす」
「急がせれば時速30キロ出せるがその分休憩が増える。トータルで見ると変わらんか遅くなるという結果があるぞ」
ラスクとスフレから補足が入った。そんなもんかと思う構だが、実際に馬でも全速力は数分が限度だ。速歩(時速15キロ程度)だと1時間走ると休憩が必要だ。なので、ロードコッコは馬よりも走れるのだ。
「じゃあ試しに走ってみせますよ」
構は軽トラに乗り込み、道を時速60キロ程度で走り、草原でUターンして戻った。
「音がうるさくなったが、本当に走れるのだな」
「走れるって言ったじゃないですか」
「空威張りと思っていた」
スフレにあきれられた。解せぬ。
見たこともない車が速く走れるという想像ができなかったのだが、疑われた構は寂しい。だが逆に、日本で「魔法が使えるんだぜ」と言われても信じることはできないな、と構は思い直した。
「カマエ様、この後ろって荷置きに見えるっすけど、乗れるんすか?」
ラスクが荷台を手でペシペシしている。青い髪のイケメンは、軽トラに寄りかかっていてもモデルのようにカッコいい。まるでメーカーのカタログのようだ。悔しい。
「この車はそもそも物を運ぶ車だから載せられますよ。積載限度はありますけど」
軽トラの最大積載量は350キロだ。人を載せるくらいは問題ない。道路交通法がある日本なら人を荷台に載せて走ると捕まるが、ここではそんな法律はない。
素晴らしきかな自己責任。
失敗も自己責任だが。
「てことは、こいつらも載せられるってことっすかね」
ラスクは自分の相棒である茶色いロードコッコ『シキ』を撫でた。
「走る鳥を載せる?」
「休憩時間に載せられれば時間短縮になるかなと思ったっす」
構は考えた。時間を稼げるけど、それをするほど急いでいるのかと。
「いやぁ、団長のお嬢さまと副団長の俺が揃っていないと結構まずいんすよ」
「それを早く言って」
構はツッコんだ。
㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢
「むぅ、残念だ」
荷台に立ち、運転席の屋根に頬杖をついているスフレが口をとがらせてむくれている。
助手席に乗りたかったのだが背丈がありすぎて天井につかえたのだ。構の軽トラはスタンダードなので屋根も普通だ。ハイルーフタイプならワンチャンあったかもしれないが、ないものはない。
「座り心地がいい椅子ですね」
助手席のクッキーがシートを手でぐいぐい押している。軽トラだから最低限のシートなんだけど、と思うが構は黙っている。じゃあ高級なシートが欲しいと言われても困ってしまう。
「ほらほら乗るっす」
ラスクがロードコッコ3羽を持ち上げて荷台に載せていた。ロードコッコは鳥なので見かけの大きさよりも軽い。1羽がおおよそ50キロだそうだ。3羽で150キロ。スフレとラスク合わせて140キロとして合計で300キロに行かないくらいだ。
軽トラの最大積載量は350キロなのでセーフである。オーバーしても走行に支障はないし捕まえる警官もいないが。
「じゃあ行きますよ」
助手席にクッキー、荷台にスフレとラスク、お座りしたロードコッコ3羽を載せた軽トラが静かに動き出す。
「ほとんど揺れないっすね」
魔法で路盤を整えている恩恵だ。ゆっくり加速していって、もう時速30キロを超えた。荷台のラスクが感じる揺れは微細だった。
「見晴らしもいいぞ」
スフレが運転席の屋根をコンコン叩いて構に聞かせている。私を忘れるなよ?というアピールだろうか。
ロードコッコは前方に首と頭があるので正面を見るためには体を横にずらす必要があった。荷台は前方が開けているので眺望は抜群だ。
「不思議と速度感がありませんね」
助手席のクッキーが呟く。コッコに乗っていれば360度の視界だが、フロントガラスで区切られていて景色の流れる速度が遅いためだ。
高速道路でもフロントガラス越しとサイドの窓越しでの速度感は異なる。夜間になればそれがもっとひどくなる。スピード違反で捕まりやすくなるのだ。
走り始めて10分ほどで軽トラの屋根がコンコンされた。
「そろそろスコーン村が見えてくるはずだ」
スフレの声が降りてくる。フロントガラスにも畑が見えてきた。畑があるのなら人が住んでいるのだ。
「このまま行くぞ!」
スフレのご機嫌な声に、助手席のクッキーはため息をついていた。




