第7話 領都への道中⑥
その後は順調だった。順調と言っても魔獣ではないイノシシに襲われたりはしたが。ラスクがサクっと倒してお肉の仲間入りだ。軽いのは口だけで剣の腕前は大したものだった。伊達に伯爵令嬢付きの騎士ではない。
道ですれ違う人や荷車が増えてきた。同じく領都に向かうだろう人も追い越した。
「見えてきたっすね」
軽トラと並走するラスクから声がする。運転している構の目にも、それは映った。
「いや、デカすぎでしょ」
構が見たのは、農作地が広がる視界の横幅いっぱいに鎮座する領都パウンドの城壁だった。
「デッ…………」
近寄るほどに視界からあぶれる城壁を見たのは、構にとって生まれて初めてだった。構が見たことがある日本で一番広い城は江戸城たる皇居だが、直線距離で約1.5キロの歪な円だ。
「領都パウンドはおおよそ丸い形をしていて、直径が3キロある」
ロードコッコに乗って並走するスフレが自慢げに語る。
半径が倍になれば面積は4倍だ。皇居に加え外苑、東御苑合わせた面積が2.3平方キロメートルだ。対して領都パウンドが約7.5平方キロメートルと、円形ではないので単純比較はできないが、ひとつの都市としての巨大さがわかる。
3キロと言うと、東京駅と御徒町駅間がおおよそ3キロで、その間がすっぽりひとつの都市になっているのだ。
領都の人口は約5万人。あらゆる職種のニンゲンが住む大都市である。領の面積はさらに広大で総人口は15万人だ。
「スフレさんはここの領主のお嬢様なわけか」
構の想像の域を超えていた。日本の大企業の社長令嬢でもこの規模の都市は所持していないだろう。 構も社長ではあったが、しょせんは零細企業でしかない。
なんかすげー人と話しちゃってるけど、いいのか俺。
そんな気分になっていた。
「カマエ殿、このままあの門に向かうぞ」
スフレが指し示す場所に、多数の兵らしきものたちが守る門がある。道を行く人や荷車は別な門にかっていた。向かう先の門は、大型トラックも通過できそうな幅と高さだ。
「まじかよぉぉ」
半泣きになりつつ、構は慎重に運転する。門に近づくにつれ速度を落とし、歩く程度の速さになる。
「でっか……」
門の目の前に来れば、フロントガラスから城壁の上が見えなくなった。もちろん横もである。門の前には30を超える鎧を着た兵士が槍を携えて整列していた。兵士らの視線は珍妙な軽トラに集中している。
伯爵令嬢であり騎士団長でもあるスフレが連れて来たのだ。見ずにはいられないだろう。
「ふぇぇぇ」
ハンドルを握る手も震える。あまりの場違い感に回れ右して帰りたくなっていた。
「シフォン伯爵が長女スフレである」
ロードコッコに乗ったままのスフレが声を上げれば兵士らがザっと動き、道を作る。
映画じゃんコレ。怖いんだけど!
カッコいい、すごいなどの感想など思い浮かばず、ヤクザ令嬢と一緒にヤクザ事務所来てしまったかのように「やっちまったぁ!」と顔を青くするばかりだ。
「うむ、行くぞカマエ殿」
「ひゃ、ひゃい!」
さっさと進んでしまうスフレに、ガクブルしながらついていく構だ。
門をくぐれば3階建ての建物に囲まれた広場にでた。そこには多数の騎士服を着た男女が並んでいた。
スフレがコッコから降りる。ラスクとクッキーも続いた。
「カマエ殿、ここからは徒歩だ」
「うぇぇ」
わざわざスフレが軽トラのドアを開けてお出迎えだ。出ざるを得ない。しかも並ぶ騎士から値踏みの視線が飛んでくる。この時点で構の正体は告知されていないので、怪しい謎の男なのだ。背が低く、だが令嬢自ら連れてくるという超絶待遇。値踏みは当然だ。
「軽トラに土産とかあるんだけど」
「わたくしが持っていきます」
クッキーが軽トラにあるものをすべてマジックバッグにしまってしまった。ついでに軽トラもだ。退路は断たれたのだ。
「わたくしは先に行っております」
「あ、その荷物に俺の着替えがあるんですよ。どこかで着替えたいんですけど」
構の恰好は、汚れても良い様に作業服だ。領主に会ってよい服ではない。なので一張羅のスーツを持って来ていた。
「でしたら、客間にお持ちします」
ニッコリ笑顔を残してクッキーは行ってしまった。
「私も体を洗わねば行かんので時間がかかる。その間に着替えを手伝わせよう」
「いやいやいや、自分で着替えられるから!」
「それではうちのメンツが立たん」
「ヤクザじゃないんだからメンツとか言わないでー」
構はスフレに手を取られ、引きずられていくのだった。




