第6話 領都に行こう⑤
「領都まではラスクと一緒にロードコッコに乗ってもらうつもりなのだが」
構がハイボールのお代わりを作っていると、スフレが話しかけてきた。あの大きなニワトリはふたり乗りできるらしい。
「うーん、軽トラで行けそうなんで軽トラで行こうかなって」
軽トラならばある程度荷物も載せられる。日帰りはないとすれば着替えがいる。お邪魔するなら手土産も持っていきたいし、何か魔導具でも購入できれば、という皮算用もあった。
「カマエ殿、ケイトラとは先ほどの白い荷車か?」
「えぇ、さっき俺が乗って帰ってきた乗り物です」
「ロードコッコ無しで動いていたが」
「引っ張る代わりの動力があるんですよ」
詳しい説明は避けた。説明したところで理解されないだろうと思ってだ。だが、いまの会話で車がないことは判明した。魔法があっても車は作れていないようだ。
「そろそろ出来上がります」
雑談をしているうちに調理も終わる。
「本日のメニューは『からあげ』なる鶏肉料理と畑で収穫した野菜たっぷりシチューです!」
からあげは冷凍ものだが、レンジで温めた後にフライパンで軽く焼いてカリッっとさせてある。構がクッキーにそのように指示をしたのだ。油で揚げるよりも簡単だし。
作業台に載せられていく料理だが、構はご飯だ。
からあげにはご飯でしょ!という日本人のDNAが叫んだ結果である。
「米か。ずいぶん白いのだな」
スフレが興味津々で見ている。米はあるようだが、白さに驚いているから米と言えば玄米なのだろう。クッキーとラスクは持ち込んだ丸いパンだ。
「まだあるんでスフレさんも食べます?」
「うむ、いただこう」
スフレは満面の笑みだ。いままで知らなかった食べものやお酒を堪能できるのだ、笑みもこぼれよう。
「お嬢様がやけに嬉しそうっすね」
「いつもならわたくしがお止めする場面でもスルーせざるを得ないから」
「あー納得っす」
配膳しているラスクとクッキーがこんな会話をしていることなどふたりの耳には入っていない。
スフレはナイフとフォークなので平皿にご飯だ。
「ほほぅ、カマエ殿、米が輝いているぞ!」
「高い炊飯器を買ったので」
炊飯器は高いものに限る。構のQOLを上げるためにも必須な家電だ。炊飯器に限れば、値段は性能を保証する。
「それも魔導具か」
「そうですね、まぁ、魔導具ですね」
さすがにこれは複雑すぎて作れないが。
料理が揃えば、乾杯だ。念のため希望を聞けばビールだったので、缶ビールをグラスに注いでいく。
「エールとは違いそうっすね。泡が細かいっすわ」
「エールよりうまいぞ」
「まじっすか。楽しみっすね」
ラスクに教えるスフレ。先輩風がビュービューだ。
「無事にここに来れたことと、カマエ殿の来訪を祝って乾杯!」
「「「かんぱーい」」」
乾杯が終われば後は自由だ。ラスクはまずからあげを選んだ。がぶっとかじりつき、はふはふする。口の冷却にビールも投入だ。
「うっま、なにこれ、うっま! びーるもうっま!」
男はやはり揚げ物だ。構もからあげを食べてはビールで冷却する。
「お嬢様、まねはしないでくださいね」
「む、一度くらいいいだろう。何ごとも経験だぞ?」
「しなくても良い経験もございます」
同じことをやろうとしたスフレはクッキーに阻止されていた。
「シチューもおいしいなぁ」
構もニッコリだ。独身男はシチューなんぞ作らない。同じ材料ならばカレーに走る。もしくは豚汁か。それが食べられるのなら笑顔も出る。
「さすがはクッキーだな」
「もっと褒めてくださいお嬢様。わたくしは褒めて伸びるタイプですので」
「もう伸びしろもなかろう」
「いえいえ、わたくしの成長に限界はございません」
スフレも酔っていてだいぶ失礼なことも言っているのだがクッキーはクッキーで応酬する。仲の良い主従だ。
楽しい夕食も終わり、まったりコーヒータイムだ。
構はモニターに新幹線や電車の動画を映した。外国からの旅行客が新幹線がトップスピードのまま駅を駆け抜ける様子に驚く動画がイチオシである。
「なんっすかアレ! あっという間に消えたっすよ!」
「なんだあの巨大な物体は。荷車の比ではないぞ」
「ずいぶん肌を露出するのですね。あら、このワンピースの形は見たことがないですね。このズボンもずいぶん仕立てがよさそうに見えます」
速度に驚くラスク、大きさに驚くスフレ、映っている人のファッションが気になるクッキー。構は単に電車が好きなだけである。
「明日は俺は仕事でいませんけど、どうします?」
「女性向けの服飾が見たいのですが」
構がなんとなしに聞いたところ、クッキーが食いついた。
「先ほどの女性は、興味深い服を着ていました」
クッキーがぐいぐい来る。彼女が言及する女性とは、動画に映っていた日本や外国の女性たちである。色々な季節の映像で、着ている服も様々だったのだ。
この世界に化繊はないのかも。構はそう予想した。化繊は化学の粋である。物質を知らなければ生み出せない、魔法の繊維だ。
「なるほどファッション雑誌か」
女性なのでファッションが気になるのだ、と構は理解した。酒も飲んでしまっているので運転はできない。コンビニまで徒歩で15分はかかる。
まぁ、風呂に入って寝るだけか。構は軽く考えた。
「ちょっと雑誌を買ってきますよ」
「いまから出るのか? もう暗いぞ?」
出かけようとする構はスフレに捕まった。確かに窓の外の森は真っ暗だが、日本はそうでもない。街灯は少ないが、無いわけではないし、懐中電灯もある。
「30分くらいで帰ってきます」
と言って構は出かけた。




