第6話 領都に行こう④
「おお、飛んだっす!」
「虫のようにうるさいな」
「こちらの板も変わりましたね」
ラスクはドローンを追いかけ、スフレは耳をふさぎ、いつの間にか構の横にいるクッキーはコントローラのモニターを見ている。反応は三者三様だ。
構はドローンを上空へ飛ばす。
「わ、あんなに高く飛ぶっすか。しかも速い! もう見えなくなったっす」
「高度3000メートルはいけますよ」
「3000メートル!? 山の上じゃないっすか! ンなバカなっす!」
このドローンのスペック上は倍の6000メートルまでいけるが正直に話すこともない。
構はドローンを動かしカメラを下に向ける。
「あ、お嬢様とカマエ様が見えます。ラスクはおとなしくしていなさい」
「なんすかクッキー、俺に厳しーっす」
「あなたはやらかし過ぎです」
「がーん」
夫に冷たいクッキーだ。主で独身のスフレの手前、イチャイチャもできまいが。
「で、高度を上げていくと」
「道が見えて、街も見えて、あれは……領都の壁です!」
モニターを見ているクッキーが感嘆の叫び声をあげる。
「高度から計算すると、領都まではだいたい100キロかなって」
「うむ、おおよそ合っているな。領都からダーに乗って、休憩含めて6時間ほどで森に着いた」
「結構かかりますね」
構の感覚だと、100キロは高速だと1時間、下道でも渋滞がなければ3時間ほどで到着する距離だ。6時間あればもっと走れてしまう。
「俺が行くにしても、どうやって行くかなぁ。やっぱり軽トラかな。走れるかなぁ」
構はドローンを道の上に降下させ、カメラをズームする。地面の様子が鮮明に映った。舗装こそされていないが表面の土は固められ、小石も見えない。草原の中に道があるのに雑草が生えていないのは、土の密度が濃すぎ、種が潜るすきもないのだ。
「すごいな、土なのにほとんどフラットだ。ロードローラーが通った跡みたいじゃん」
構は感嘆する。
ロードローラーとは道路工事で使われる、巨大なロールで路面を平らにする重機だ。人が乗るタイプや、小型の手押しタイプもある。この機械で路盤を整えるのだ。
「魔法で整地するからだな。街道整備は領の運営にもかかわってくる、大事な仕事だ」
「整備されていれば物を運ぶのが楽になるし、魔獣が出た時の対応も早くなるっすよ」
スフレが胸を張れば、ラスクが補足する。スフレの視点はやはり伯爵家の視点だった。
「へー、魔法かぁ」
構が見た魔法は、ママウサギが魔獣を吹き飛ばしたものだけだ。
地面を変化させる魔法とかあれば道路工事とかやりやすそうだな。などとのんきに考えていた。
「バッテリーも切れちゃうからドローンはこれでおしまい」
ドローンを戻して地面に降ろした。そろそろ空も赤くなり始めている。夕食の準備もしなければ。
「俺は明後日でないと出かけられないですけど、もう夕方なので今日は泊まってもらうとして、部屋とかどうしましょう」
ドローンを片付けながら構は聞く。先日はスフレとクッキーの女性ふたりだったので工房に泊めたが今回は男が加わった3人だ。さすがに工房では狭いし一緒はまずいだろう。
「俺は外でテントを張って見張りするっすよ」
「ここは不可侵の地だ。見張りは不要だが、まぁ、ラスクは外で仕方あるまい」
「了解っす」
簡単に決まった。
夕食はまたもクッキーが担当でラスクは補助に入る。構はスフレの相手である。
前回はビールだったので今回はウィスキーのハイボールにする。
「む、それは蒸留酒か?」
構がウィスキーのボトルを手にしていると、スフレが目ざとく見つける。
「ウィスキーです。小麦の酒の蒸留酒ですね。炭酸水で割るとさっぱりしてておいしいんです」
構はグラスにウィスキーを入れ、炭酸水を注ぐ。じゅわーっと泡が立ち、ウィスキーの香りがふわっと漂う。
「芳醇な香りだ。カマエ殿、相当高価な蒸留酒なのではないか?」
「いつも飲んでる安物です。高いウィスキーはハイボールにしたらもったいないです」
ハイボールにしたのは飲みやすいのとアルコール度数を押さえるためである。ウィスキーをロックで飲んでへべれけになられても困る。
「きれいなものだな」
琥珀色に染まったグラスの底から泡が上がっていく様を、スフレは楽しそうに眺めている。スフレの屋敷でも、これだけ透明度の高いグラスは客用で普段は使用しない。透明度の高いガラスを作れるのは一握りの職人だけだ。魔法でも作ることができるが、その魔法を使えるものも少ない。
貴族のお嬢様相手に安物のグラスなんて出してすみませんと、構は声にこそ出さないが心で謝罪していた。
「うむ、先日飲んだ『びーる』とはまだ違った爽快感だな」
ハイボールを一気飲みしたスフレがいい笑顔を構に向ける。アルコール度数はビールよりもあるのだが、スフレは平気な顔だ。
スフレはいい笑顔ですっとグラスを出してきた。お代わりだろう。ちらっとクッキーを見れば、小さくため息をついていた。「仕方がないですね一1杯だけですよ?」という言葉が空耳された。




