第5話 工房での一夜⑧
『魔導具の修理はできたのかい?』
森を歩いているスフレの上から声が落ちてきた。スフレが見上げると、ママウサギが大木の枝に座っているのが目に入る。
ママウサギは音もなく降り立ち、ロードコッコに並んだ。
『森の出口まで案内するよ』
「昨晩は見張ってくれていたようだな。感謝する」
『なに、カマエになにかあっちゃ妾たちも困るのさ』
構はぐっすり寝ていて知らないが、昨晩は工房の庭の近くにママウサギがいたのだ。早朝にチビウサギをけしかけたのもママウサギだ。
「おかげでこの子たちも安心して寝たようだ」
スフレはロードコッコの首筋を撫でる。ロードコッコはあくまで乗騎だ。戦う種はバトルコッコだ。ロードコッコも戦闘はできるが、ママウサギの方が圧倒的に強い。ママウサギが敵意を見せていないので、ロードコッコ2羽は安心して寝られたのだ。
『それは何よりだねぇ』
ママウサギの監視対象には、スフレたちも含んでいる。構に何かしようとしたらすぐにでも踏み込んでいたろう。それはスフレもわかっていた。
あそこで森の住人と敵対するのは愚策だ。
スフレはそれを思い知った。
『もう森が終わるよ』
「感謝する。まだ預けている魔導具があるのでまたお邪魔する予定だ」
『カマエに危害を加えないのなら勝手にするがいいさ』
「世話になった」
ママウサギに見送られ、スフレとクッキーは森を出た。
㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢
森を出たふたりの旅程は順調だった。森に一番近い村に寄り、村長に様子を聞いた。
「ここ数日、魔獣の出現は減っております」
「いい傾向だ」
村を出て草原を走る。街道もあるが道行く領民や商隊もおり、驚かせてはなるまいと道から少し離れていた。
「お嬢様、魔獣を感知! 左前方!」
「大筒を出せ。クッキーも構えろ。ふたりでやるぞ!」
スフレがロードコッコの手綱を引き、進路を左に変える。前方に林が見えた。その入り口に巨大なイノシシがいる。構の工房にも体当たりした、魔獣化したイノシシだ。普通のイノシシの大きさの3倍ほどにもなっている。目を赤く染め、狂ったように咆哮していた。
「お嬢様!」
クッキーが大筒を放り投げた。スフレが受け取り、右わきに抱える。クッキーも大筒を脇に抱えた。
「照射!」
スフレが魔力を流すと、大筒の先端から太い光線が走る。光線が魔獣の胴体に当たり『ブモゥゥゥ』と激しく吠えた。魔獣の体から黒い霧が漏れ出し霧散する。
「よしいける! 突撃する、援護頼む!」
「了解です!」
大筒を右わきに抱えたスフレは、空いている左手で逆手に剣を抜いた。くるりと剣を回して順手で握る。
クッキーの大筒から光線が飛び、イノシシの魔獣に当たる。魔獣は『ブモゥゥ!』と悲鳴を上げて天を仰いだ。
「ダー、行くぞ!」
『コケーッ!』
苦しげな悲鳴を上げる魔獣に対し、ロードコッコごとスフレが突っ込んだ。すれ違いざまに、魔獣の首に剣を落とす。
確かな手応えで魔獣の首が落ちた。イノシシの魔獣がドドンと倒れる。
「大筒二発も食らえば首を落とすのも容易いな」
普段は唯一残っていた大筒か、魔導具なしで戦っていたので騎士の負傷も多かった。これなら怪我を減らせると、スフレは頼もしく思えた。
スフレは倒れた魔獣に近寄り、ロードコッコから飛び降りる。念のため剣を突き刺し、動かないことを確認した。
「お嬢様、持ち帰りますか?」
「魔核は帰ってから取ろう。マジックバッグに入れてくれ」
「わかりました」
クッキーもロードコッコから飛び降りた。魔獣の死骸をマジックバッグに入れたクッキーはまたロードコッコに乗った。
「途中村に寄りつつ魔獣に遭遇すれば退治して帰るぞ」
スフレはそう宣言する。魔獣を放置することはできない。修理された大筒のチェックも兼ねている。
修理はされていると思ってはいるが念のためだ。
「もういなさそうだな」
スフレは周囲を見渡す。クッキーも魔法で探知しているが反応はない。
「夕刻には戻りたい。急ぐぞ」
スフレはロードコッコに飛び乗った。
ふたりはその後いくつかの村に寄り道しつつ遭遇した魔獣を倒し、夕方前には領都の門をくぐったのだった。
お世話になります、作者の海水です。
現在、2000文字程度の毎日更新をしています。次の6話で第1章が終わって一区切りとなります。
で、2章ですが、同じように2000文字区切りで行くか、それとももう少し、3000文字程度まで増やして、1話分が終わるまで毎日投稿にしてインターバルを取って次の話に行くか、どうしようか考えています。
ストックの都合もあるはあるのですが(2章の最後を書いてます)本業も忙しくて毎日投稿はキツイなーと思い始めておりまして。『墓地ダン』の書籍化作業もありますし。
1話をまとめて書いている都合上、投稿のために区切る作業が結構手間でして。いい感じに区切れないことも多くてですね。毎回ぶった切りで終わってしまって申し訳ないです。
いっそ毎週1話丸まる15000文字程度でやっちゃうか?とも思いましたが、隙間時間にこの文字数を読むのも大変だよなぁーと。
どうしたものかと悩んでおります。ご意見あれば教えていただきたく。




