第5話 工房での一夜⑦
「いやすみません、すっかり忘れてまして」
ニンジンを食べて満足したチビウサに行燈を渡し、森に帰した構は工房に入った。工房には青い騎士服のスフレが紅茶を嗜み、メイド服のクッキーが朝食の準備をしていた。
「いや、なかなかかわいいものだな」
スフレがふっと笑う。美人の笑みに見とれそうになった構だが、なんとか抗った。
「そろそろ朝食ができますが」
クッキーがきれいになった作業台に料理の皿を運んでいる。豪勢ではないが、炒めた肉に生野菜のサラダに昨晩の残りのスープと、バランスが取れている食事だ。
「あぁ用意もできずにすみません。俺はトーストに目玉焼きでいいので自分で用意しますよ」
「カマエ様のもありますよ」
クッキーがフフッと笑う。朝から美人の笑みがあふれていて、感覚が狂いそうな構だ。
美味な朝食後、帰りの準備をするクッキーを見つつ、構は大筒の修理だ。ぱぱっと直せれば彼女たちもすぐに戻れる。頑張らねば。
大筒の分解は済んでいるので作業のみだ。断線した電線は引き直し、電源から外れている電線は、端子に接点復活剤を塗った。ゆるみがないか確認し、てきぱきと復元する。最後にテスターで導通をチェックし、組み立てれば修理完了だ。
「できました!」
作業開始から30分かかっていない。
「はやいな」
「もうですか?」
スフレもクッキーも驚きを隠せなかった。昨日直しているとはいえ、領では誰も直すことができない魔導具をあっさり短時間で直したのだ。無理もない。
「で、ではさっそくチェックしよう」
スフレは大筒を抱え外に出た。魔力を通せば強烈な光線が迸る。大きくゆすり、多少手荒に扱っても大丈夫かのチェックも怠らない。
「両方とも問題ない」
笑顔のスフレが工房に戻ってくる。コーヒーを飲んでいた構もホッとして笑みがこぼれる。
「直せてよかった。もうひとつは水晶が届いたら直しますね」
魔水晶とは、結局普通の水晶玉だった。祖父の帳簿を調べていたら大量の水晶玉を買っていた形跡があったのだ。物がわかれば買うのは簡単だ。予備も含めて多数の水晶玉を注文済みだった。
「手間をかけてすまない」
「いえいえ、じーちゃんの作ったものを直せるのはうれしいですよ」
構は営業用でない笑みで返す。
「そうだ、これを持っていってもらえませんか?」
構は立ち上がり家に行き、すぐに帰ってきた。手には空の一升瓶。日本酒のラベルが張ってあった。
蜂蜜酒を入れたタンクから瓶に注ぎ、ぎゅっと蓋をする。
「調子に乗って作りすぎちゃって」
構はアハハと笑う。その蜂蜜酒の効用を体験したスフレの顔は引きつっているが構は気が付かない。
「そ、そのような高価なものは」
「俺ひとりじゃ飲み切れないんですよー」
「いやいやいやいや」
構とスフレで蜂蜜酒が入った一升瓶を押し付けあう。
「なんなら蜂蜜も持っていきます? あと90キロ以上あるんですよー」
「ぐ……」
更なる難題を持ち出され、スフレは観念した。ここで妥協しないともっとやばいことになるぞと。
「ありがたくいただくとしよう」
「助かります!」
スフレは受け取ったが困惑を隠せないでいる。頭の中は「どうしようこれ」である。
「あ、クッキーさん、果物と野菜も持っていきません? デカいニワトリの餌にもなりますし」
「は、あの……」
「なりっぱなしももったいなくってー」
「ア、ハイ」
クッキーも撃沈した。善意の押し付けはツヨイ。
「2日後には修理も終わってるはずなのでー」
マジックバッグに大量の野菜、果物、蜂蜜酒を持たされたスフレとクッキーは構に見送られ、工房を後にした。
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ロードコッコに乗ったふたりは森を進んでいく。
「結局、我々は食事くらいしか礼をせず、逆にとんでもないものをもらってしまったな」
スフレがぼやく。突然押し掛けるという失礼をしながらも大筒の修理は成せた。ここまでは大成功と言えよう。
「旦那様にはどう報告しましょうか」
「それなんだがなぁ」
スフレはうなだれて頭を抱えた。スフレの父であるシフォン伯爵に事実を報告しても信じてもらえないようなことばかりだ。
魔力に満ちた野菜や果物は実物がある。だが、工房にあった先進的な魔導具を説明しても信じてはもらえないだろう。
「蜂蜜酒もどうしたものか。王家に献上せねばならんのではないか?」
「いっそお嬢様が全部飲んでしまえば証拠も無くなりますが」
「恐ろしいことを言うな。バレたら縛り首だろうが」
傷跡が癒える蜂蜜酒など、まさに神の御業だ。鑑定でも神の蜂蜜酒と出ているのだ。それを独り占めしたなどと不敬に当たる。
「カマエ様に悪気がないので断れないのですよね」
「それなんだがなぁ」
スフレはまたもぼやく。
構は善意から押し付けたのだ。もちろん余っているのもある。いくら考えてもいい案は出ず、ため息ばかりが出て行く。
「もういい、すべて父上に丸投げしよう」
スフレは思考を放り投げた。
お世話になります、作者の海水です。
現在、2000文字程度の毎日更新をしています。次の6話で第1章が終わって一区切りとなります。
で、2章ですが、同じように2000文字区切りで行くか、それとももう少し、3000文字程度まで増やして、1話分が終わるまで毎日投稿にしてインターバルを取って次の話に行くか、どうしようか考えています。
ストックの都合もあるはあるのですが(2章の最後を書いてます)本業も忙しくて毎日投稿はキツイなーと思い始めておりまして。『墓地ダン』の書籍化作業もありますし。
1話をまとめて書いている都合上、投稿のために区切る作業が結構手間でして。いい感じに区切れないことも多くてですね。毎回ぶった切りで終わってしまって申し訳ないです。
いっそ毎週1話丸まる15000文字程度でやっちゃうか?とも思いましたが、隙間時間にこの文字数を読むのも大変だよなぁーと。
どうしたものかと悩んでおります。ご意見あれば教えていただきたく。




