第5話 工房での一夜①
「カマエ様。泊めていただくお礼に夕食はわたくしが用意いたします」
大筒が直った後。
いつまでも興奮が収まらないスフレをどうどうとあやし、いつのまにかキッチンに陣取ったクッキーが胸を張る。スフレと違って女性の象徴の主張が激しい。
「あ、作ってもらえるとすっごく助かります。料理は作れるんですけど面倒で、レトルトで済ますことも多くって」
構はあははと後頭部をかく。工作は得意なので、食材を工作する調理は得意なのだが食べることよりも工作に時間を割きたいのだ。残念な男である。
「お任せください。ですが、急なこともあってパンと保存食程度しか持ってきておりません」
クッキーはスフレの暴走についてきたのだ。思いつくものをマジックバッグに放り込んできただけだった。急遽それができただけでもヨシである。
「なるほど。じゃあ家から肉類を持ってきますよ」
構はいったん家に戻った。冷蔵庫を開け「やっべ、最近買い物に行ってないや」とつぶやいた。それでもソーセージ、豚バラ肉や鳥のもも肉、むね肉はあった。工房にグリルはないので魚は除外だ。もっともししゃもくらいしかなかったが。
構はスーパーのビニール袋に肉を詰めた。卵もパックごと入れた。
「それと調味料もだな」
工房には塩胡椒醤油にマヨネーズと基本的なものはあるが、砂糖、味噌、だしの素、コンソメブロック、鶏がらスープなどはない。
構はお盆に各種調味料を載せ、肉と一緒に工房へ持って行った。
「クッキーさん、これでいいですか?」
構はクッキーに肉と調味料を渡す。ざっと説明もした。だしの素、コンソメ、鶏がらは知らないようだったが構が説明すると「わかりました」と返答がある。
「肉を拝見します」
クッキーは見たことのないビニール袋に興味をひかれつつ肉を取り出していく。いまどきの肉なのでトレイにラップではなくビニールパックされているものが多い。
「カマエ様……この透明な硬いものは何でしょうか」
「強化ビニールだね。この切れ目を捻ると切れるから」
「キョウカビニール、ですか。硬いですが、本当にあっさり切れました。魔導具ではなさそうですが、これも賢者の英知なのですね」
クッキーは勝手に解釈していく。
「カマエ様、肉に臭みがありませんが、どう処理したらこうできるのでしょうか?」
「カマエ様、どうやればこれほど肉が薄く切れるのでしょうか」
「カマエ様、ずいぶん脂身が多いようですが、大丈夫なのでしょうか」
「カマエ様、これは胡椒でしょうか。なんとも真っ白な砂糖です! 黒いのはショウユ? 味を見てもよろしいですか? 魚醤に近い味です。王国の東部の海岸の領では魚醤が生産されておりますね」
「カマエ様、マヨネーズとはなんでしょうか? 油と卵と酢を混ぜたものですか。近いソースはありますが、この容器も不思議ですね」
食材を見たクッキーが構を質問攻めにする。加工技術はだいぶ差があるらしい。しれっと様呼びになっていた。
「クッキーさん、大根とかニンジンとか、横の畑にある野菜は好きに使ってください。メロンとかスイカもどうぞ」
「カマエ様、使ってもよろしいので?」
「理屈はわからないけど、収穫しても次の日にはまた実ってるんで」
「……まぁ素敵ですね。ちょっと拝見してきますね」
クッキーがメイド服のスカートを翻して工房を出て行った。派手に動いているように見えて肩の位置が変わっていない。恐るべきメイドだ。
「クッキーがすまない。クッキーは料理が好きでな。よく暴走するのだ」
座って紅茶を嗜んでいるスフレは困った様に眉尻を下げた。
「好きなことには暴走しちゃうのはわかります。俺もよくやるんで」
またもあははと後頭部をかく構。今日もスフレとクッキーという客を放置して修理に入り込んでしまっていた。彼女らが賊であったらどうなっていたことか。
「森の賢者殿を疑って、本当にすまなかった」
スフレが深々と頭を下げるので構はあわあわして「頭をあげてください!」と叫んだ。構としては、森の賢者など偉そうな名前は似合わないし、呼ばれたくもなかった。ただの何でも屋の構で良かったのだ。




