第4話 お嬢様(?)がやってきた⑦
構が家に戻ったのを確認したスフレはクッキーに耳打ちする。
「クッキー。鑑定魔法ではどう出ている?」
「小型の冷温庫はレイゾウコと出ましたが、名前だけです。あの冷暖の魔導具はエアコンという名前です」
「ふぅむ。このテーブルもそうだが、我々では作り方も不明なものばかりだな」
「森の賢者殿で間違いないかと思われます」
「魔導具を直していたしな」
ふたりは頷きあった。
「ともかく、彼の機嫌を損ねないようにするぞ」
「わかりました」
内緒話が終わったころ、構がベッドの部品を抱えて戻ってきた。アルミ製のベッドの骨組だ。仮眠用ベッドの隣に置く。
「マットレスと布団を持って来るんで、場所だけ決めてください」
構はまた家に戻った。置いていかれたスフレとクッキーはベッドの骨組に興味を持った。
「これは、軽いな!」
「鉄ではなさそうですが、なにでできているのでしょうか」
「ベッドとしての強度も申し分ない。遠征時に持ち出せば、野営の時の疲労回復にも繋がるな」
「まったくガタつきませんね」
「すさまじいな」
ふたりでベッドの骨組をいじり観察する。未知の物質に触れ、スフレは興奮気味だ。
「お嬢様、あの窓のガラスも、透明度も高く巨大で歪みもありません」
「我が屋敷でもあれほど大きくきれいなガラスはないぞ」
ふたりの興味はベッドから工房そのものに向いた。
「調理の魔導具もあるな」
「シャワーやトイレもそうですが、水はどこから引いているのでしょう」
「わからん。予想もつかんぞ」
スフレは小さく両手を挙げた。お手上げという仕草だ。
「賢者という名に恥じぬ部屋だな」
スフレは心を落ち着けるためか、構が出したメロンを口にした。
「むぐ! んっく。これは!」
「お嬢様!」
「なんという密度の魔力だ。クッキーも食べてみろ」
「では失礼して……美味しい!」
「確かに味も絶品だが、濃密な魔力がすさまじい」
メロンを食べたふたりの体が淡く光る。
「ここまでの疲労が抜けていくように思えます」
「クッキーもか。私もそうだ」
スフレが自分の体を見下ろす。ロードコッコに乗っていると振動が来るため、膝や腿で中和させていた。少しあったダルさがきれいに消えているのだ。
「これも賢者殿に聞きたいが」
「ふぅふぅ」
ちょうどのタイミングでマットレスを抱えた構が工房に帰ってきた。暑さ15センチほどの高反発マットレスだ。
ベッドに設置し、ふたり分のシーツも置いた。
「バスタオルは後で持ってきます。えっと先に直しちゃいますね」
「あ、ああ、よろしく頼む」
「よっしやるぞー!」
構の高いテンションにスフレは押されて沈黙した。
構は工具箱を持って作業台につく。大筒を前に必要な工具をピックアップした。
「ふっふっふ。中がどうなってるか楽しみだなー」
構は大筒をばらすべく工具を手に取った。
「ほぅほぅ、ここをボルトで止めてて、あー、全部で3分割できるのか。で、照明部と延長部と電源部に分かれると。うん、電線もかなり太いの使ってるし、断線もない。端子にゆるみもないけど、接点復活材を塗っておこう」
構はブツブツと口にしながら工具をとっかえひっかえする。
内部構造は問題なさそうだった。魔水晶がないだけだと判断した構は、ほかの大筒も分解し始める。
「構造がわかっちゃえば早いもんだ」
2台目の分解は数分で終わる。
「水晶は台座からの4本の爪で固定してるのか。で、その爪はビスで固定されてると。じゃあこれ一式移植すればいけそうだな」
構はしゃべりながら手際よく作業を進める。
「見事なものだな」
「えぇ、あの魔導具は誰も分解すらできませんでした」
「先代が作ったと言っていたが、案外図面でも残っているのかもしれんな」
構の後ろでスフレとクッキーがひそひそ会話をしているが集中している構の耳には入らない。
作業開始から45分ほどたった。窓の外は夜の帳が降りつつある。
「ここを止めれば、完成!!」
「できたー!」と構は大筒を持ち上げる。
「スフレさん、できました! チェックをお願いします!」
「わ、わかった」
目を輝かせている構の圧にスフレはタジタジだ。
構が作業台に置いた大筒を、スフレは慎重に持ち上げる。ここで落とすなど許されない。
ゆっくり右の脇に抱え、左手を大筒に添えた。大筒は窓に向けてある。
スフレの顔に緊張が走る。
「すーはーすーはー。いくぞ」
深呼吸をしたスフレが大筒に魔力を流す。大筒の先端からすさまじい光線が放射された。
「うわっ、まぶしい! 目がつぶれる!」
構はとっさに両腕で目を覆った。
「す、すまぬ。外で試してもよいか。いや外でないとだめだな」
大筒を抱えたスフレは外に出た。「お嬢様!」とクッキーも続く。構は目がちかちかしてばしばしと瞬いている。
日は地平の下に隠れ、空は群青色に変わっている。外に出たスフレは大筒を空に向けた。
「よし、行くぞ」
今度は落ち着いた声色で魔力を流すと、大筒の先端から白い光が真っすぐ放出される。さながら30センチの太さのレーザー光線だ。群青色の空を光が突き刺していた。
「こ、これだ! 直ったぞ!」
感動に震えているスフレが大筒を持ったままクッキーに振り返った。
「うわぁぁぁ」
その光線は外に出ようとした構に直撃。驚いた構は戸の前でひっくり返った。
「す、すまん! 興奮して消すのを忘れた」
「カマエ様、大丈夫ですか?」
スフレが駆け寄るよりも先にクッキーが構を抱き起した。大筒を地面に置いたスフレは構の脇に跪く。
「申し訳ないカマエ殿!」
「いててて、あ、大丈夫ですよ。驚いただけなので。でもちゃんと直せてよかったです」
構はへらっと笑った。修理できたことのうれしさで、細かいことなどどうでもよくなっている。
「あぁ、ちゃんと直っているぞ。感謝する!」
目を潤ませたスフレが構の両手を握る。至近距離で目を潤ませた美人を前に、構は「うひゃぁぁ」と情けない悲鳴を上げた。




