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祖父の工房が異世界の森につながっていた件~森の賢者は魔道具修理やさん~  作者: 海水『墓地ダンジョン』書籍化予定
第一章 森と工房

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第4話 お嬢様(?)がやってきた⑥

「クッキー、テントはあるか?」

「もちろんでございますお嬢様」

「よし。カマエ殿。我々は野宿するが、庭先をお借りできないだろうか」

「はへ? 野宿?」


 予想外の言葉に構は情けない声を漏らす。


「うむ。騎士たるもの、遠征で野宿は当たり前だ。私もクッキーも慣れている」

「いやいやいやいや、野宿はだめでしょ」


 自慢げに語るスフレに、ちょっとと構が止めに入る。

 柵があるとはいえ魔獣が出るかもしれない。恐ろしくて寝ていられないだろう。工房には仮眠用とはいえベッドはあるし、家の方にも祖母が使っていた余っているベッドがある。構は布団派なので家では布団なのだ。


「ここは工房だけどベッドもあるし、家にも余ってるベッドもあるんで持ってくるからここで寝てくださいよ。さすがに暗くなった森は危険だし、外だって安全じゃない」


 構は立ち上がって衝立をずらしてベッドを見せる。貴族だというスフレが使うような上品なベッドではないが寝るだけなら問題はないだろう。ここならトイレもある上シャワーも浴びることができる。冷蔵庫もあればキッチンもある。

 そもそも女性を外で野宿させるなど、現代の価値観の構にはできない相談だった。

 そんな構の様子を見たスフレはふふっと笑う。


「我々を心配してくれるのはありがたいが、貴殿が狼にならんとも限らんぞ?」

「お、俺は向こうで寝てるんで夜はこっちにいないし!」


 スフレがいたずらっぽい笑みを浮かべるので構は顔を赤くしてしまう。スフレとクッキーは顔を見合わせ、くすっと笑った。


「そこで笑みを向けられたならば疑うところだが、ムキになるなら信用できそうだな」


 からかわれたとわかった構はムッとしてしまう。童貞ではないが働き始めてから彼女はおらず、少々経験不足だった。


「ここは工房で、生活してるのはあの扉の先です」


 構はアルミのドアを指さす。工房にはキッチンやトイレシャワー室に仮眠用ベッドなど一通りそろっており、ここに住んでいると思われると困るからである。ただ、戻るのが面倒でここで寝起きすることが多いのも事実である。


「ほう、そうなのか」


 スフレはうんうんと頷いているが、お付きのクッキーは工房のあちこちに視線を飛ばしている。構は視界の端でそれを「何かおかしなところでもあるのかな?」と気にした。

 壁も棚もごちゃごちゃしているのは自覚していた。片付けないとと思いつつもそこが定位置になってしまっているので動かすとどこに置いたかわからなくなってしまいそうだった。汚部屋あるあるだ。


「直す前に工房を説明しますよ」


 構は立ち上がってずんずん歩く。最初はトイレだ。


「ここがトイレです」

「お嬢様、説明は私が聞いておきます」

「いや、私も聞こう。森の賢者殿の住まう場所がどのようなのか興味がある」


 クッキーが制止するもスフレはワクワクを隠せない顔で歩いてきた。クッキーは小さく息を吐き「ご説明をお願いします」と小さく頭を下げた。


「これが便器で、こう、座って用を足します。その後は紙で拭いてもらって、このコックをひねって水で流します」


 実際にジャバーッと流して見せる。


「水洗トイレは屋敷にもあるが陶器とは」

「この形状はどうやって作るのでしょう」

「この紙はなぜこんなに薄いのだ?」

「紙を流してよいのでしょうか?」


 スフレとクッキーは別なものが気になっている。


「ここが脱衣所で、この先でシャワーを浴びます。ここを回すと温度調整できますんで」


 構は同じように実演する。


「かなり軽いな。金属ではないな。なんだこれは」

「ずいぶん自在に曲がるものなのですね」


 シャワーヘッドの材質とホースの便利さに驚くふたり。


「こっちがボディーソープで、こっちがシャンプーです。コンディショナーはないんでごめんなさい」


 ボトルに入ったボディソープとシャンプーに怪訝な顔をするふたり。こりゃ使い方がわからないだろうなと思った構は実際にポンプを押しボディスポンジで泡立てた。


「む、なんという泡立ち」

「泡もきめ細かい……」


 ふたりは構そっちのけで泡をもにもにしている。


「これが冷蔵庫で、中に飲料と食材が入ってます」

「保冷の魔導具か。これほど小さいのは王族でも持っていまい」

「お嬢様、こちらは氷が入っています」

「なんと、この大きさでか!」


 冷蔵庫の小ささと冷凍庫に驚くふたり。冷蔵庫はあるんだなと、ふたりが生活するシフォン領とやらの文明レベルを推し量る構。お互いに探り合いをしている。


「あれがエアコンで、この部屋を快適な温度にしてます」

「あれが冷暖の魔導具だと?」

「床に置くものではないのですね」

「部屋を照らす明かりもかなり小さいぞ」

「魔核はどこに入れているのでしょうか」


 ふたりはこしょこしょ内緒話をしているが構には全部聞こえていた。

 ふたりの会話から、家電品は魔導具としては存在するが大きいのではないか、という結論に達した。工業技術はそこそこあるがまだ小型化が難しい段階だろう、と。

 小型化は技術的にも難易度が高い。製造技術の難度、物理的制約、コスト、発生する熱の対策。これらをクリアせねばならない。大きければ内部に空間があるのでごまかせることも多い。

 しかし、小型化のメリットはでかい。占有する空間を小さくでき、携帯することも可能だ。だからこそ、よく使われる便利なものは小型化する。


「予備のベッドがあるんで持ってきますよ」


 思案顔で語り合っているふたりを置いて、構は家に戻った。

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