第4話 お嬢様(?)がやってきた⑤
「……差し出がましいようですが、魔水晶があれば修理可能なのでしょうか」
クッキーが小さく手を挙げる。
「お持ちなんですか?」
「いえ、同じ魔導具がありますので」
そういったクッキーがポシェットから丸太を3つ取り出し、作業台に載せた。構はちょっと引いてしまった。
そりゃ、複数作ってるよね。
構は驚きつつも納得した。予備品はマストだ。
「これはすべて壊れてしまっている魔導具です」
「あ、そうなの? でもあれか、部品取りに使えるか。魔水晶ってのは後でどうにかするとして」
構は後から出てきた3つの魔導具をざっと調べた。3つとも魔水晶はある。壊れているのであれば、内部だろう。試しに持ちあげたら内部でコツと音がした。間違いなさそうだ。ひとつがだめでも3つのうち使えるのがあればいい。
「早速、と言いたいところですが、修理が途中で止まってる行燈を先に直しちゃいますね」
「うむ、先客が優先だな」
スフレは腕を組んで鷹揚に頷いた。ホントに王子様だな、と構は感心すらした。
構は「では」と断って行燈に取り掛かる。修理という名の強化も部品の取り付け不備がないかの確認と蓋を取り付けるだけだった。
「はんだ付けも問題なし。蓋をすればオッケーだ」
構はペンシル型充電ドライバでビスを締めていく。キュインと音がするたびにスフレの肩がぴくっと跳ねる。
「うるさくしてすみません」
「いや、聞きなれない音でな……」
スフレがばつの悪そうな顔になる。それでも美人だった。
「それも魔導具なのですか?」
フォローするようにクッキーが口をはさんできた。できたメイドである。
「魔導具ではなく電動工具ですね。先端部を交換するといろいろな用途に使えて便利なんですよ。小さくて携帯にも向きますしね」
構はビットと呼ばれる先端部を外した。いま使っているのはプラスの形をしたビットだ。ほかにはマイナスもあれば六角もある。溶接を使えば自作も可能だ。
「ずいぶん小さいものだな。作るのもさぞかし大変だろう」
「もちろん大きな奴もありますけど、小さいので済むならこれで十分です」
そう言っているうちにビスも止め終えた。構は行燈を両手に持ち、外見を確認する。特に和紙が破れていないか。機能に影響はないが、見てくれも大事だ。
「もう終わったのか?」
スフレが興味津々な顔で行燈を見つめる。
「終わったんですけど、俺に魔力とやらはないんで動作確認ができないんですよね」
「先ほどそう言っていたな。では私が試してもよいだろうか? もちろん壊すことなどしないと誓おう」
どこかワクワクした気配のスフレが申し立てた。瞳がキラキラ輝いており、まさに王子様な雰囲気だ。
それならと構は彼女に行燈を渡す。両手で恭しく受け取ったスフレはコホンと咳払いする。
では、と一声かけると行燈がほのかに灯る。スフレの青い瞳に行燈のオレンジが映った。
「ほぅ……優しい光なのだな」
スフレは自分の手で光る行燈を、うっとりと眺めている。和紙を通る光は程よくぼかされ、鋭利な光のLEDよりも優しく感じる人もあろう。暖かく照らされたスフレの顔は、美形さも相まって危い魅力さえあった。構は光よりもそっちに目を奪われていた。
「この光は、やはり瘴気に対抗するものだろうか」
「えっと、この光で瘴気を浄化するんです。ハネウサギはこの魔導具で瘴気から自分たちの生活圏を守ってますね」
「生活圏か。しかしこれだけでは瘴気を抑えきれまい」
スフレは構を横目で見る。行燈の光は弱く、浄化できる範囲も狭い。光の強さが浄化の強さでもあるのだ。
「行燈も強化しましたし、ヨツデクマと協力して遺跡から発生する瘴気に対処してて、だいぶ瘴気の範囲も小さくなりましたね」
実際に現場を見た構だから言える。
不安を湧きたたせる漆黒の霧。見た瞬間背筋が凍った。まさに瘴気だ。あれに囚われた獣が魔獣になるのも頷ける。
「……そうか、ハネウサギだけでなくほかの聖獣とも交流があるのだな」
スフレは腕を組んでうんうんと納得顔だ。構は「聖獣ってなんやねん」とエセ関西人化しているが。
ともあれ、行燈は終わったので丸太のような魔導具に取り掛からねば。
「じゃあ早速こっちに取り掛かりますね」
構がちらと窓を見れば、森が茜色に染まりつつあった。もう夕方だ。
今から分解して魔水晶の移設を試しても、夜までには終わるだろうが、彼女らはどうするのだろう、と構は心配になった。ここは森だ。ドローンで見た限り、だいぶ奥にある。ただでさえ森は暗い。この時間から帰すのは危険だろう。
「とりあえずこの魔導具に魔水晶を移植しますけど、もう日も暮れますよ?」
「む、そんな時間か」
構の言葉にスフレは窓を見てそう呟いた。




