第4話 お嬢様(?)がやってきた③
『妾だけでなくクマの魔導具もさね』
「熊? 熊というとヨツデクマのことか?」
『あぁそうさ。外で話してないで中で話しな。妾は帰るよ』
そう言い残してママウサギは跳ねて森へ消えた。気まずい空気を感じた構は「散らかってますけど中へどうぞ」と声をかけ先に工房へ入る。
「ダーとグーは庭で待機だ。いい子でいるんだぞ」
『クックー』
スフレは巨大なニワトリのダーとグーの胸をモフった。
いいなぁ、もふってみたいなぁと思う構だった。
「えっと、とりあえず椅子にでも」
構は丸椅子をふたつ持ってきて作業台の前に置いた。
「コーヒーとお茶だと、どっちがいいですか?」
構はコーヒーの飲みかけがあるので客用にお茶かコーヒーかを聞く。
「お構いなく。クッキー」
「すでに用意ができております」
いつの間にか作業台の上に紅茶が入ったカップが載せられていた。かすかに湯気が立っているので熱々だろう。
「……いったいそれはどこに?」
「侍女のたしなみです。お嬢様は紅茶をお好みでありますので」
「えぇぇ……」
ついていけない構がポカーンとする傍ら、スフレが優雅にカップに口をつけた。椅子も用意した丸椅子ではなく、ひじ掛け付きの高そうな椅子だった。絵画に思えるくらい様になっていた。
構は冷蔵庫から冷えたメロンを取り出して一口サイズにカットし、お茶菓子代わりと作業台に置く。そして構も椅子に座った。
「突然の訪問、申し訳なく思うが、我らの話を聞いてもらいたい」
「ア、ハイ」
スフレは優雅に頭を下げたが、構の意志はひとまず置かれてしまった。
「改めて。私はスフレ・シフォン。この森に隣接したシフォン伯爵の娘だ。こんななりだが一応女だ」
スフレが拳で胸をたたく。少々寂しい胸なのだが、青い騎士服もあってふくらみが見えない。
つやのある金髪を肩に届かない程度で切りそろえた髪型も相まって、女子高の中の王子様に見えてしまう。さぞかしモテたろうなと。
「こちらは私付の侍女でクッキーだ」
いつの間にかメイド服に着替え終わっているクッキーがスカートをつまんでカーテシーをする。構は二度見した。いつ着替えたんだ?と。
「クッキーは騎士団に伴侶がいるから、美人だからと言って口説いてはいけないぞ」
ちらちらとクッキーを見る構に、スフレは妙な圧をかける。いやそうじゃなくってと言いたかったがクッキーがお澄まししているので黙っていることにした。美人だしさぞかし悪い虫が寄って来るんだろうな、と軽く考えてもいる。だが既婚者に手を出す趣味はないのでご安心だ。
侍女をかばうスフレさんも美人なんだけど、とむしろそっちが気になっていた。
「貴族かー。いるんだなぁ」
と構はコーヒーをすすりながら小声で独り言ちる。
貴族と言われても見たこともない。欧州にはいるらしいが詳しくは知らない。日本の皇族とも違うだろうと考えた。まぁ失礼な態度をとらなければ良いかな、大きな会社と一緒でしょ、と軽い。
クッキーとかスフレとかお菓子な名前だな、などと益体もないことすら考えていた。
「コホン」
「おっと失礼」
スフレの咳払いに促され構はコーヒーカップを作業台に置いた。
「改めまして、源三じーちゃんの孫の物部構です。背は低いですけど、もう30歳です」
構が年齢に触れると、スフレとクッキーは無言で目を開く。
「30歳には見えんな」
「黒い髪は、いないことはありませんが、珍しいですね」
「南部に多いんだったか」
「南部のバター子爵領では半数が黒い髪だったかと」
「そんな名前だったな」
スフレとクッキーのささやきあいを、構はコーヒーをすすりながら聞いている。バター子爵とか聞いたこともない名前だし。
「その、先ほどゲンゾー殿が亡くなったと聞いたが」
言いにくそうに眉をハの字にしたスフレが問うてきた。
「じーちゃんは病気で亡くなりました。それで、じーちゃんの家を継いだんですけど」
「では、カマエ殿は森の賢者ではない、と?」
「その、森の賢者ってのがよくわからないんですけど。さっきのママさんとかクマのシュウチョウさんにも言われましたけど」
森の賢者と言われたが構にはよくわからない。祖父からもそんな話は聞いていない。祖父が魔導具を作っていたことも、ここに来てから知ったのだ。祖父が急病で、そのまま亡くなってしまったせいもあるだろう。
「先ほど、森の聖獣らの魔導具を直したと聞こえたが」
姿勢を正したスフレが聞く。
「えぇ、直してますね。これもそうなんですけど」
構は作業台にある行燈を持ち上げた。まだ修理中で分解してあるが。
「それも魔導具なのか」
「修理を終えたやつがそこにあります」
構が壁にある棚を指す。そこには行燈が9個並んでいた。みな修理を終えてあり、いま構が直しているのが最後の1個だ。
「触れても良いだろうか」
「あー、魔力がないと動かないですけど」
「ふむ?」
構の言葉にスフレが首を傾げた。クッキーと顔を見合い、そして構を向いた。
「カマエ殿は、魔力がないのか?」
「はい、全くないです。なので修理をした行燈はチビウサたちに確認してもらってます」
構がどう踏ん張ろうと力を籠めようと念じようと、行燈は光らない。祖父である源三もそうだったのだから当然だ。
「そうか。カマエ殿は魔力がないのだな。先代の賢者殿も魔力がなかったと聞く」
「そりゃじーちゃんは普通の人だったし、ないでしょうねぇ」
構はコーヒーをすすった。




