第4話 お嬢様(?)がやってきた②
領都から境界の森までは約100キロ。構がドローンで見たときの目算とほぼ同じだ。
スフレとクッキーは休憩含めて6時間ほどで森の外側についた。日はすでに天頂を越えており、明るいうちに帰ることはできないだろう。
「この時間から森に入るのははばかられるが、ここで野宿もそう変わらないだろう」
凛々しいスフレがロードコッコにまたがったまま森を見つめる。
森には獣がいる。体格の大きなロードコッコならば蹴散らせるが、それは平原での話。森のように障害物だらけの環境では、ロードコッコの能力も半減だ。
『おや、怪しいニンゲンだねぇ』
大木の陰からママウサギが姿を現した。たれ耳の巨大な白いロップイヤーだ。巨大なだけで遠くから眺めればかわいいものである。
「む、森に住まう聖獣か」
『獣扱いするんじゃないよニンゲン。妾達は、お前たちの言葉でいう住人さ』
スフレの言葉にママウサギの赤い目が細まる。
『森に何用だい?』
ママウサギは冷たく言い捨てた。
人間の住む領域は森から離れている。この森にはハネウサギやヨツデクマなどが住んでおり、開拓する余地などない。昔、森を開拓しようとした人間と住人で争いがおこった。森の住人の圧勝だったが犠牲がなかったわけではない。
人間側は森の開拓を諦めた。森の恵みを求めて中に入ることはするが。
なので、武装した人間が来たことに、ママウサギは警戒しているのだ。
「森の瘴気が激減しているのがわかった。森の賢者殿が再来されているのであれば、頼みがある」
『ふぅん、何を企んでいるんだい?』
「何も企んでなどない。ただ、我らの領域にも瘴気が沸く。対抗する魔導具はあったがほぼ壊れてしまっており、年々被害が大きくなっている。それを何とかしたいだけだ」
スフレは怯まない。今日だって騎士と領民に負傷者が出ているのだ。解決できる可能性が出たのなら確認すべきで、領主の一族の、長女としての義務は果たしたい。
『あぁ、あの平原は大昔に赤と青が戦った場所だったっけねぇ。妾も母に話を聞いただけだけども』
ママウサギがうんうんと頷く。
「賢者殿に危害は加えないことを誓おう」
『ニンゲンの宣誓に意味なんぞないが、まぁ、道案内くらいはしようかねぇ』
ママウサギは踵を返した。
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天気の良いおやつ時。構はコーヒーで一服していた。作業台には改良しかけの行燈。中途半端だが集中力が無くなれば効率も正確性も落ちる。
「この苦みが良いんだ」などと構が知ったかを発揮してると、戸がぽふぽふとノックされる。この叩き方はママウサギだと警戒せず戸を開けた。目の前には白いモフモフの壁。やはりママウサギだった。
「今日は来る日でしたっけ?」
『客が来たんだよ』
「客?」
構が首をひねると、ママウサギがすっとどいた。
構の視界には、歌劇団のような恰好の長身金髪の女性に、ファンタジーめいた衣装の赤い髪の女性と、巨大なにわとり2羽が入ってきた。
「でっか! ニワトリでかすぎでしょ」
『そっちじゃないよ』
ママウサギに額をツンとされた。構は改めて女性を見る。
長身の金髪で碧眼の外人さんじゃん。歌劇団の人かな。ふたりとも俺よりは若そうだ。つーか美人過ぎんか?
構の脳みそは総動員されている。いままでの人生で外人は見たことはある。そもそも祖母が外国人だ。しかし、コスプレ紛いの恰好の外人は初めてだ。日本人でもコスプレ会場でしか見ない。秋葉原でメイドは見かけるがあれは仕事なのでノーカンだ。
「シフォン伯爵が長女スフレ・シフォンと申す。こちらは侍女のクッキーだ。森の賢者ゲンゾー殿から賜られた魔導具が壊れてしまった。何とか直せないものかとご相談に参った次第である」
女性にしては低い、凛とした声が森に響く。格式ばった言い方に構はポカーンとしてしまった。だが魔導具と聞いて正気に戻った。壊れた魔導具と聞けば、祖父の作ったものかもしれないのだ。
「あ、はい。俺は物部構と言います」
「ゲンゾー殿はおられるか?」
「源三、祖父は亡くなりました」
「な、なんだと……」
スフレはガクと地面に膝をついた。隣の女性が「お嬢様」と隣にかがんだ。あまりの気の落ちように構は申し訳なさを覚えた。
「し、しかし、森の瘴気が激減していた。これは、森の賢者殿が戻ってきた証左ではないのか?」
泣きそうな顔のスフレの疑問だが、それには答えられる。
「そこのママさんたちが持っていた壊れた魔導具は俺が直して、それを使って瘴気を減らしま……したであってますよね?」
構がママウサギに顔を向けて確認する。「なぜそこの聖獣に?と」スフレは柳眉を顰めた。美人はどんな顔でも美人なんだな、と構の思考は横道にそれていたが。
「君が直したというのか」
「俺、源三じーちゃんの孫で構と言います。そこのママウサさんの魔導具を直したのが俺です」
「まことか?」
構の言葉に、スフレがママウサギに顔を向ける。ママウサギは面倒くさそうに顔を顰めた。




