第4話 お嬢様(?)がやってきた①
境界の森を抱えるシフォン伯爵領。その領都パウンドには領主のリコッタ・シフォン伯爵とその妻ティラミス・シフォン夫妻が居を構えている。2男2女に恵まれていた。
長女スフレ・シフォンは20歳になっていた。
凛々しい切れ長の目、肩までの金髪と青い瞳。身長は190センチと長身で細身の体躯。蒼い騎士服、黒い皮のブーツ、腰に帯細い剣を佩いている。さながら王子さまだ。
そのスフレが騎士団長の執務室で、同じく騎士服の男性から報告を受けていた。
「境界の森の瘴気が激減していると?」
「はい。巡回の騎士隊によると、先月に比べてかなり減少していると報告書が上がってきました」
「ふむ」
スフレは形の良いあごに手を当てた。
「いままでにこんなことなかったな」
「はい。森の賢者殿がいなくなってから、瘴気は増加傾向でありました」
「森で何かが起きたか……」
「森の賢者殿がまたこられたのでは?」
報告している騎士がそう言うと、スフレは「簡単に断定はできん」と返す。
シフォン領内にも瘴気の湧く場所があった。数百年前の青と赤の大戦があった古戦場跡で負の感情が大地に染みついている場所だ。そこに渦巻く怨念をもとに瘴気が湧く。
シフォン領にはそんな場所がいくつもあった。
「昨日も瘴気による魔獣との戦闘で騎士に負傷者が出たばかりだ」
スフレが顔を伏せる。
瘴気は突然湧き、周辺の獣を魔獣化させる。魔獣化によって瘴気は消えるが魔獣が残り周辺の村や町を襲っていた。領民を守るため、シフォン領の騎士は魔獣と戦っている。
戦えば怪我をする。領民だけでなく騎士にも被害が出ていた。
騎士が領内を定期的に巡回するが瘴気の出現は兆候もなく察知が難しい。古戦場跡も広大で、領の半分ほどにもなる。畑になっている場所もあり、全てを回り切れない。
「使える大筒はひとつしかなかったな」
「はい、5つある内、壊れていない最後のひとつです」
「我らもじり貧だな」
スフレの顔は暗い。
先代シフォン伯爵が森の賢者に作ってもらった魔導具『大筒』があったのだが、大半が壊れてしまい、使えるのがたったひとつとなっていた。
対瘴気用魔導具『大筒』。抱えるほど大きな筒型の投光器だ。
瘴気を消滅させるほかに魔獣の中から瘴気を消して弱らせる効果もある。しかし人体に影響はない。
「森の賢者殿が帰ってきたのならば行かねばなるまい」
「ちょ、お嬢様!」
「団長と呼べ」
「伯爵令嬢が行っちゃだめですって。行くなら俺らが行きますから、お嬢様はおとなしくしててください!」
そう窘められたスフレはぷぅとほほを膨らませた。
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「そうは言っても、行かねばなるまい」
騎士が去った後、スフレは騎士団の執務室を出て廊下を歩いていた。すれ違う使用人らは立ち止まって首を垂れた。
スフレが向かった先は厩舎だ。コッコッコッと独特な鳴き声が聞こえる。厩舎担当の使用人がスフレを見つけた。
「お嬢様、お出かけですか?」
「団長と呼べ」
スフレはシフォン領の騎士団長なのだが同時に伯爵令嬢でもあり、親しみを込めてお嬢様と呼ばれている。
成人年齢が18歳。成人前には伴侶が決まっているというこの国で、年齢的には行き遅れに片足を突っ込んでいるスフレを気遣ってのことなのだが、スフレはそれが気に入らない。
「ちょっと巡回に行く」
スフレは自分用のニワトリ型乗騎に近づく。
ニワトリ型乗騎のロードコッコは体高3メートルになる大型のニワトリだ。色は白、茶、黒が多い。飛べないが高所からの滑空くらいはできる。メスは体が小さいために騎乗できるのはオスのみ。
足が長く時速20キロほどで6時間走り続けることが可能だ。全力だと50キロも出せるが10分が限界である。
「ダー、頼むぞ」
スフレは白いロードコッコの羽を撫でた。ダーと呼ばれたロードコッコはクククと喉を鳴らす。
ふっと小さく息を吐いたスフレは地を蹴りロードコッコに飛び乗る。騎士たるもの身体強化の魔法が使えないと話にならない。もちろんスフレも使えた。
「行ってくる」
「お気をつけて」
使用人に見送られ、スフレは伯爵家の屋敷の裏口から出た。屋敷は領都の西の端にあり、裏口からすぐに領都の外に出られるようになっている。
「お嬢様?」
「む、クッキーか」
単騎で向かおうとしたスフレだが、お付きの侍女のクッキーに見つかった。赤い髪をおさげにまとめた美女で、スフレよりも年上の25歳だ。キリリとしているが平民出身で人妻である。
各所にガードを取り付けた特製のドレスアーマー装備に肩からポシェットをかけロードコッコ『グー』に乗って待ち構えていた。
「お嬢さまは言い出したら即実行なのでお止めしませんが私も行きますからね」
「……準備万端のようだな。致し方ない。ついてこい」
スフレはクッキーと共に森へ向かった。




