第3話 瘴気の原因と魔導具の強化⑥
この工房の存在が謎なのだ。考えたところで答えなどない。
「木材加工の機械は……」
構は工房を漁った。構が持っているのは金属加工の工具ばかりで木材用はなかったが祖父なら持っているのではと。龕灯を作ったのは祖父なのだし。
構は工房の奥にある棚に向かった。そこには祖父の工具類がある。
「各種電動チェーンソーにジグソー、木材加工用のビット類がたくさん。さすがじーちゃんだ」
揃えられた工具類を見て、構は幼い時に遊んでもらった祖父を思い出した。祖父は木材の端材で車や飛行機などを作ってくれた。かなり細かいディテールで、どうやって作っているんだろうと思ったものだった。
構は木材加工の経験はないが、ワクワクが止まらない。やったことがない工作は胸躍るものだ。
「やるしかない!」
構はさっそく両手持ちの大型電動チェーンソーを持ち出して外に出る。もちろん潤滑オイルは充填してある。巨大な木のままでは工房に持ち込めない。重さもあるので、小さく切らないと持てない。
「俺が転がすにしてもドアの幅は超えられないから、50センチで切ろうかな」
工房のドア幅は有効で80センチ。ギリギリだと通しにくいから余裕を持たせた数値だ。倒木の根元に近い方にスケールを当てて油性マジックの太い方で印をつける。
「おっと保護メガネがないや」
構は工房に取りに帰った。保護メガネは目を保護する透明なゴーグルだ。木片が目に入った場合に角膜を傷つけてしまうがそれを防止するメガネだ。どんなに小さくとも目にとっては大きな異物。安全第一である。
皮の手袋にヘルメットに防護メガネ。
「保護具ヨーシ! さてやるぞ!」
構は腰を落とし、チェーンソーを倒木の幹に当て、深呼吸する。初めての作業にロマンティック……ではなくワクワクが止まらない。
ぐっとトリガーを引けばギュイーンと重厚なモーター音。幹に食い込めばくぐもった重厚な音に変わる。構は無理に押さず、重力に任せてゆっくり進めていく。
「ちゃんと持ってないと衝撃にもっていかれるな」
チェーンソーが暴れない様に腕に力がこもる。大した肉体ではないがそれなりに引き締まっているのがちょっと自慢だったりする。
切り始めて3分ほどで切断できた。切断面も滑らかだ。
「思ったよりも早く切れたな。電動工具万歳!」
構はチェーンソーごと万歳をし、落ちてきた切りくずまみれになった。
「ぶへぇぇぇ」
やっちまったーと構はうなだれた。木くずでよかったがこれが金属片なら皮膚を切っているところだ。金属片は切断した部分が刃物になるので小さくともケガの原因となる。
怪我は油断から生まれる。構の工場にも指を、手を失った社員はいた。電源が入っていないと思い込んで工作機械に触ってしまい、急に稼働した機械に挟まれて大ケガを負ったのだ。
生きてはいるが不便な体になってしまった上に、人の目が気になるようになってしまったと聞いた。目の前にいる人にあるべきものがついてないとなれば、気にもなる。不躾ではあるが視線が向かってしまうのは仕方がないだろう。
構は頭をブンブン振り木くずを落とす。髪の中に入ってしまったのはシャワーの時に落とすしかない。
「作業はご安全に!」
構はやけくそ気味に叫んだ。
「気を取り直して。この丸太の中をくり抜かないと」
構は丸太を転がして工房の近くに持って来た。「よっこいせー!」と丸太の切断面を底にして地面に立てた。「ふー」と腕で額の汗をぬぐう。重いものを移動するだけでも体が熱を持つのだ。
「ケーシングの厚みは出力に影響しそうだから厚めにしておこう。5センチもあれば割れないでしょ」
構は油性マジックで大まかに円を描いていく。どうせきれいには切れないのでアバウトでよいのだ。
「ガイド穴を空けましょうかねー」
構は工房から延長ドラムを持ち出した。作業が長くなりそうなので充電ドライバでは最後まで作業ができない。電動ドライバにロングビットをつけ、今しがた付けた円の内側にいくつか穴をあける。
くり抜くためにはチェーンソーでザクザク切っていくのだが、ただ切り入れてもうまくいかないのでずれないようにガイド穴を空けるのだ。ガキキキキと機械的な音が森に響く。
構はチェーンソーに持ち替え、あけた穴を結ぶようにチェーンソーを切り入れていく。ギュイィィィィンとモーター音が響き、構の心は高揚していった。
「さすがハイパワー電動チェーンソーだ。サクサク切れるや」
構はニコニコしつつも作業は繊細に行った。先ほどのやらかしは繰り返さない。
「よし、大まかに切れたぞ」
丸太はくり抜かれたが内側の円はぐちゃぐちゃだ。これを整形していく。
「リューターの出番だ」
構は電動ドライバのビットを、たわしのお化けのようなものに変えた。チェーンソーの荒れた切断面を削って滑らかにする治具だ。
ゴゴゴゴゴと腹に響く重低音で木が削れていく。
「思った以上に持っていかれるなコレ」
構は電動ドライバを両手で持った。ガリゴリガリゴリと丁寧に削っていく。
『ナニナニー』
『ウルサイー』
森からチビウサらが飛び出してきた。作業の音のクレームだ。都市でも森でも騒音はクレームだ。
「うるさくしてごめんねー! 危ないからこっちに来ちゃだめだよー!」
作業を止めるわけにもいかず、構は大声を上げる。
『『『ニンジンー!』』』
構が相手にしてくないからか、チビウサたちは畑に向かった。構はホッとした。怪我などさせたくない。
チビウサの行動を気にかけつつ作業を続け、15分ほどで表面が滑らかになった。直径30センチ、長さ60センチ、厚さ5センチの筒が出来上がった。
「つかれたー」
構は仰向けに転がった。汗と土の香りが混ざり合う。さわさわと風が吹き、ほてった体に気持ちがいい。
「このまま寝ちゃいそうだー」
『オキロー』
『ネルナー』
構の顔と体の上にチビウサが乗っかった。




