第3話 瘴気の原因と魔導具の強化①
瘴気を見に行く日になった。森の天気はやや曇り。景色は残念だが日差しは甘く過ごしやすくはある。
『準備はできてるかい?』
朝一でママウサギが工房を訪ねていた。足元にはチビウサギがワイワイしている。構は「んむ?」と首を傾げた。
「この子たちも連れて?」
『この子らは留守番さ。魔獣が来た時用のね、万が一もないだろうけど念のためさね』
「留守番ねぇ」
魔獣はあの柵を突破できないみたいだから無用だとは思うけど。もしかしたら託児所代わりにするつもりかな?
構はジト目でママウサギを見る。が、まぁこちらに損はないのだと切り替えた。
「畑に野菜があるから好きに食べていいけど、散らかしたら片付けもするんだよ?」
構がチビウサギたちを見れば『『『ワカッター』』』と揃った返事が。ホントかなぁと思いつつも信じることにした。子供だけで留守番するだけでも偉いのだ。多くは望むまい。
「よく使う工具と、タブレットも持った。一応飲み物も」
構は持って行くリュックの中身を確認する。構の装いは、背中にいろいろ荷物を入れたリュックと腰に工具類を入れた腰袋だ。腰袋とは、現場作業の際に工具を入れておくベルト状の物。またはベルトに引っ掛ける袋だ。必要な時にすぐ取り出せるので便利なのだ。
『それじゃ行くかね。背中に乗りな』
ママウサギが伏せになる。羽もきれいにたたんで、普通の巨大な白ウサギに大変身だ。構は毛をつかみつつ何とかママウサギの背中に登った。
ママウサギの毛はふかふかふわふわでミンクの毛などペペッとできそうな触り心地だ。思わずすりすりしてしまう。
『あんたたち、いい子にしてるんだよ』
『『『ハーイ』』』
ママウサギが羽を広げた。陽の光に白く輝く、天使のような羽だ。
きれいだなと見とれていた構えだが、不意に浮き上がる感じがして慌ててママウサギの毛をつかむ。
「ママさん、合図くらい欲しいって!」
『連れてってやるんだ、それくらい我慢しな』
「うぇぇぇスパルタだぁ」
構が苦情を申し立てている間も上昇していく。羽ばたいてないのに浮かぶんだな、と物理法則がめちゃくちゃに殴られているのを実感した。モノ作りが好きな構としては残念でならないが実体験しているので信じざるを得ないのだ。
森の木々の上に出てまだ少し上がったあたりで上昇は止まった。おおよそ30メートルという高さだ。
『そろそろ行くよ』
「あ、ちょっと待って!」
『なんだいまったく』
構はスマホを取り出し、ストラップを首にかけた。カメラを起動し動画撮影を開始した。
「ママさん、オッケー!」
『じゃあ行くよ。しっかりつかまりな!』
ママウサギが動き始めた。電車のようにゆっくり動き出すのではなく、いきなりばびゅんと加速した。構の体が後方に引っ張られる。
「ちょっとぉぉぉぉぉ」
構の絶叫が森に響く。だがそれも10秒ほどで別な叫びに変わった。速度になれた構が目をキラキラさせて叫ぶ。
「うぉぉぉすげぇぇぇぇ!!」
構は大興奮だ。飛行機くらいは乗ったことはあるが、生身で空を飛ぶなど、パラセールかパラシュートが趣味の趣味人か空挺部隊でもなければ経験はないだろう。
「木の枝までよく見える!」
飛ぶ速度はおおよそ時速60キロ。流れていく木々の枝まで見える距離をカットんでいくので迫力満点だ。
「きんもちいぃぃぃぃぃ!!」
構はママウサギの背中にしがみつきながら少年のように瞳を輝かせた。
工作で飛行機を作ったことは数知れずだが同じ数だけその飛行機に自分で乗ることを空想した。高くなくとも、飛んでみたかった。
夢かなったり!
ビールがあれば祝杯を挙げているところである。
『そろそろ見えるよ』
ママウサギの声に構は目を細める。だいぶ先だが、ドローンで見たあの禍々しい黒い霧が見えた。ママウサギを掴む手にも力が入る。
「あれが瘴気」
画面越しとは違う、実物のおどろおどろしさ。黒い霧の外周部が液体のようにうねり、たえず形を変える。粘度の高そうな黒い霧が森をじわじわ攻めている。構はそんな印象を受けた。




