第2話 オレンジ色で四本腕のクマ⑥
『あの魔導具では食い止めるのがせいぜいだねぇ』
ママウサギはため息とともに答えた。
『ゲンゾーが何度か改良してやっとあの魔導具になったのさ』
「じーちゃんが……」
『ゲンゾー曰く、瘴気を変換しているあの部品の性能がそこまでで限界だったらしい。妾にはよくわからない言葉だってのを覚えてるよ』
「性能の限界……」
構はあごに手を当て考える。
「あの部品は何でできているんです?」
もしかした改良できるかもと構は聞いてみた。祖父が作った魔道具を改良したい。物とは何かの役に立ってこそだ。構はそう考えている。
ちっぽけな小さなビスだって、小さな部品を止めるために作られる。役に立っているし、なければ困るのだ。
何かの役に立つ。これこそがモノづくりの神髄だと思っていた。
『あれは、カマエにあげた、木の実の木さ。ベルーイゲンと言う名だ』
「あの木!?」
柵の扉脇に植えた木だ。ベルーイゲンの木という。もう構の背丈の3倍になっていた。幹も構の胴回りほどもある。木材としてなかなかの太さだ。家の柱や梁にも使えるだろう。
『ベルーイゲンの木は瘴気を吸収する特性があってね。ま、それだけじゃないけど』
「そんな特性があるならあの木を瘴気の近くに植えればいいんじゃ?」
『あの木は育つ場所を選ぶんだ。日当たりのいい場所でないとまず芽が出ない。森の中は日が当たらないからね』
ママウサギは首を横に振りながらそう言う。たれ耳も動いて、なんだかかわいらしい。
「森だと明るさが足りないのか」
森の中は基本的に薄暗い。木は日光を求めて高く、そして横に広がる。必然的に地表近くは暗いのだ。
日本の森はほぼ人の手によって整備されているので陽もさすが、未踏の原生林は薄暗い。
木の実を落としたとて芽吹かない
「その木を加工して行燈の機能を強化できれば、ここも安心かなぁ」
道具は改良するものだ。どんなに優れた道具でも不満点は出る。使う人の性別、体つきでも差が出る。求める機能でも過不足はある。新しい技術に対応を迫られることもある。だから改良するのだ。
今の行燈で能力が足りないのなら強化すればいい。車の出力が足りないならもっと大きなエンジンに換装すれば解決する。それと同じだ。
「もっと木の実があればここで育てられるかな?」
『おや、ベルーイゲンの木を増やすつもりかい。ちょうど木の実ならあるねぇ』
ママウサギが毛皮からあの木の実を取り出した。コンコンと作業台に置いていく。
『ゲンゾーから渡されてた木の実さ。手持ちは10個だ、足りるかい?』
「じ-ちゃんから!?」
構は飛び上がるほど驚いた。まさか祖父がウサギとそこまで関係を持っていたとは。祖父が渡した木の実なら孫である構が育てねばなるまい。
「大丈夫です。もし増やすにしても、試作が成功してからでいいので」
構が植えた木の実の成長がとてつもなく早かった。いま育っている木を丸太にして部品を作り出せばいい。
そこで構はとあることに気が付いてしまった。
「……あの木を切り倒すのには、チェーンソーがあればいいか。さすがに持ってないから買うしかないな。でも資格は持ってないなぁ」
構が額に手を当てながらぶつぶつつぶやく。
チェーンソーで直径30cm以上の木を切り倒す場合は特別講習(技能講習)が必要だ。現状でも構の胴より太いのでばっちり該当する。
別に資格なしでいいじゃんとは、構は思わない。道具は適正に使用することで道具となるが、不適切に扱えば凶器でしかない。特別講習は適正な扱いの講義でもある。
ケガをしたくないというのは構の正直なところだが、それも正しいのだ。
「ひとり親方なら資格は不要とはなってるけど怪我はしたくないし」
ひとり親方とは個人事業主のことだ。構は法人化はしていないがひとりでやっているのでひとり親方でもある。怪我をしたら収入がなくなってしまうので安全第一だ。
『妾が斬っても良いぞ』
「全部自分でやってみたくってさ」
構はママウサギの申し出を断った。材料の入手からやってみたい。普通ならできないが、この特殊な状況では可能だ。工作スキーの血がどうしようもなく騒ぐ。
ワクワクした顔の構を見て、ママウサギはあきれた風に息を吐いた。
『そういえばカマエ、野菜の種はまいたかい?』
ママウサギに話を振られ構は現実に引き戻された。




