第2話 オレンジ色で四本腕のクマ③
「こういう時が一番楽しんだよなぁ」
何かを作るときは、どうしようかあーしようかと考えるときが一番楽しくもある。構の顔は輝いていた。根っからの工作ダイスキーなのだ。
「これも大量にあるだろうから、材料もいっぱい注文しとこ」
さっそくタブレットで注文を開始する。大量なときは店の在庫でも足りなくなるので、迷惑をかけない様に注文するのが筋だ。そのうえで在庫があれば買い付けに行く。
「何万も使っちゃうなー。でも楽しいからいいよね!」
ワクワクのためには金を使うことは厭わない構だ。そして在庫確認のメールが来る。
「お、あるじゃん! 買いに行くぞ!」
構は意気揚々と家を出た。
「ヨーシ、材料を買ってきたぞ!」
帰宅した構はそのまま工房へ向かう。ふふふとよからぬ企みでもするかのような含み笑いの構。楽しみが隠せないだけだ。そろそろ夕食の準備なのだがお構いなしだ。飯抜きは日常茶飯事だった。
「まずは端子台を作るところからだ」
電気溶接機で厚みのある鉄の板に端子を溶接する。万力で固定し、鉄仮面のような溶接用のマスクで顔を覆う。これがないと目をやられてしまうのだ。
「アースヨシ、電源ヨシ」
指さし確認は大事。現場猫はどこにでもいる。思い込みがけがの元だ。
準備ができたら溶接だ。鉄の板と端子をバヂヂヂと火花を散らして溶接する。
「まぁこれでいいかな」
溶接部のチェックは大切だ。溶接不良でスパークしたらまた修理だ。
「これも動作チェックができないんだよなぁ」
あの熊を待たねばならない。でもまぁ焦ることはないか、と気楽な構だった。
㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢
二日後の朝。工房の戸が優しくノックされた。目玉焼きを作っていた構が「ちょっと待ってー」と叫ぶ。コンロの電源を切りフライパンに蓋をした構は戸を開ける。やはりあのオレンジの熊、シュウチョウだった。
『良き朝であるな』
オレンジの毛皮が光っているので外は快晴なのだろう。戸が熊でふさがれているので空は見えないが。
「おはようございます。修理は終わってるので動作チェックをお願いしていいですか?」
『うむ、任されよ』
シュウチョウの体が縮んで、構くらいになる。一緒に工房へ入り、龕灯を渡す。
『ふむ、見かけに変わりはないようだ。どれどれ』
シュウチョウが持つ龕灯から光がでた。指向性の強いオレンジの光だ。
『おお、これだこれだ!』
嬉しいのか、シュウチョウは龕灯をあちこちに向ける。工房の照明と朝日が差し込んでいるが、それにも負けていない光量だ。まばゆくて直視は危険なほどだ。
「壊れないか試したいので強くゆすってもらってもいいですか?」
『む、我らは丁寧に扱うぞ?』
「バランスを崩したり手違いで落としたりとかあり得るので」
『む、確かに』
心当たりがあるのか、オレンジの熊はうむうむと強く頷く。構の予想だが、おそらくはウサギと一緒でチビ熊が持ち歩くのだろう。チビウサギたちは落ち着きがなかった。であれば熊も同じだろう。
『では遠慮なく』
シュウチョウは龕灯を持った手を強く上下に振った。横にも、細かく振動させてみた。だが、その間もオレンジの光が途絶えることはなかった。
『素晴らしい!』
熊の顔なので表情がわからないが、声は弾んでいるので感動しているのだろう。興奮気味の熊の顔は、ちょっと怖かった。だが構も一安心だ。自分の修理方法に間違いはなかったのだから。
「壊れてる龕灯はまだありますか?」
『うむ、あと……我の手足の指の3倍ほどはあるな』
シュウチョウがそう言うので構は思わず数えてしまう。
手足が6本で、それぞれに5本の指だから30個か。それの3倍だと90個。予想よりも少ないけど、あくまで壊れてる龕灯の数だから、まだ壊れてないやつが壊れる可能性もあるな。
構は頭の中でそろばんをはじく。材料の都合もあるのだ。
「順次直すので、次は5個くらい持ってきてもらえるとこっちも助かります」
『心得た』
シュウチョウは力強く頷く。これで毎日恐ろしげな熊が来ることもない。紳士だとわかってはいるが、外見が怖すぎる。
ではと帰ろうとするシュウチョウに、構は声をかけた。
「その、魔導具とやらで排除する瘴気って、どれくらい危険なのものなんです?」
『瘴気の危険性か。そういえば、ゲンゾーも見たことがないと言っておったな』
あごに前足をあててしたり顔(?)のシュウチョウ。そらそうだと構は思うも口には出さない。
『瘴気を浴び続けると正気を失い狂暴化し魔獣となる』
「魔獣?」
『攻撃的になり、目の前にあるものはすべて排除する衝動に駆られる、らしい』
「らしいんですか」
『元に戻ったものはいない故な』
構は言葉を失う。魔獣化したら最後、正気を取り戻すことはなく、おそらくは退治されるのだろう。
瘴気がどのようなものかは不明だが、家族や仲間が狂暴化して倒さなければならないとなったときの悲しみを思えば、ウサギや熊が修理を頼みに来るのも理解できた。構だって、集落の人や役場のおっさんが狂人になってしまい、殺すしかないとなったら悲しい。ましてそれが家族だった時の感情は想像もできない。
「そうなんですね……ほかにも壊れた魔導具があれば持ってきてください。修理可能かはわかりませんけど」
『ありがたい。ほかの森の住人にも伝えよう』
シュウチョウはそう言うと森に帰っていった。




