第2話 オレンジ色で四本腕のクマ②
『む、すまぬ。少々興奮してしまったようだ』
熊が一歩下がって扉から離れた。
『驚かせてすまぬ。我はヨツデクマ族のシュウチョウだ』
オレンジ色の熊が、片方の2つの腕を曲げぺこりと一礼した。なかなか堂に入った礼だ。
「物部構と言います。じーちゃんの家を継いで、先週からここに住んでます」
『うむ、ウサギから話を聞いておる』
扉を挟んで会話が始まった。ヨツデクマのシュウチョウがでかすぎて工房に入らないのだ。
「あ、俺が外に出ますよ」
なんとなく落ち着かない構が外に出た。玄関先で話し込む感じがして嫌だっただけだ。
「それって、壊れた魔導具ですか?」
構はシュウチョウが手にしているメガホンのようなものを指さした。名前など知らないのだから動作で示すしかない。
『あぁ、龕灯だ』
「龕灯龕灯……あ、あれか!」
シュウチョウが言うものを、構は記憶の奥底から引っ張り出した。
龕灯とは、懐中電灯のご先祖様だ。電池などない大昔、桶の中にロウソクを置き、明かりに指向性を持たせた照明器具だ。
シュウチョウが持って来たのは、行燈と同じように持ち手があり、木の桶の中に水晶の玉がある。
持ち手のところに源三の彫刻があった。
「やっぱりじーちゃんのだ」
これもかと構はうれしくもあり、でもこれも修理かと複雑な気持ちになった。
「持ち手部の根元にビスがあるから、ここからばらせそうだ。ちょっとばらしてもいいですか?」
『壊れておる、問題ない』
「あ、中に入れますか?」
ばらすなら作業台でやりたいが、シュウチョウを外に置いたままは心苦しい。案内はしたものの、戸をくぐれるかわからない。この紳士的な熊は大きいのだ。
『ちとまて』
そう断ったシュウチョウの体がにゅにゅにゅと縮んでいく。
「は?」
『これならばいけるであろう』
構と同じくらいまで縮んだ4本腕のオレンジの熊が工房に入っていった。
「ナニコレ!?」
構は素っ頓狂な声を上げた。
㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢
数秒間混乱した構だが落ち着きを取り戻し、工房に入る。
「えっと、水でいいですか?」
『うむ、水で』
構は木のコップに水を入れ作業台に置く。ガラスだと割れそうだった。ついでに集落の農家さんにもらったスイカも置いておく。カットしてフォークで食べられるようにしたものだ。爪に刺せばいけそうだ。
案の定シュウチョウの視線はスイカにくぎ付けだ。構はその隙に龕灯を分解する。
「ははーん、これか」
手持ちの部分を外すして中を見ると、配線が焦げていて途中で切れているのがわかった。配線はそこそこ太く、またはんだでつなぐには長さが足りない。電線はできるだけ継ぎ足しはしない方がいい。接続部が不良だとそこでスパークして火事の原因となりかねないからだ。
「電線を継ぎ足すかやり直すか。まぁやり直し一択かな」
手持ちに太い電線もないので預かって構造を調べることにした。
「これって、やっぱり瘴気が関係してるんですか?」
スイカを食べて口の周りを赤くしたシュウチョウに尋ねる。ちょっと怖かったのは内緒だ。
『そうだ。この明かりで瘴気を無害化して追い出すのだ』
「追い出す?」
『光を当てると瘴気が消える』
行燈は魔力を流すと光を発し瘴気を浄化する。龕灯は瘴気を追い出す。
両方とも瘴気に関係していた。
『魔力を流すと光が出る。我らヨツデクマは魔力が多いのだ』
「ここでも魔力か……」
ということは、直しても構では検査できない。
「修理しますけど、俺だと動作確認ができないので、二日後にまた来れますか?」
『心得た』
『馳走になった』とシュウチョウは森に返っていった。
「さて、まずはどう直すかを決めないと材料が買えないな」
構は龕灯をのぞき込む。中の電線はより線の5.5sqと割と太く、車のブースターケーブルほどもある。おそらく電線を止めていただろう場所には、厚めの金属の板があった。ちょうど持ち手の接合部だ。ここから魔力とやらを伝達するのだろうと構は予想した。
「水晶の方は、端子受けしてるな。こっちには端子がないのは、貫通させると邪魔になるからか?」
構は分解し始めた。残ってる電線は端子から外した。
「この太さで足りないってことは、さらに電線を太くしないと同じになるだけか。さすがに手持ちの電線にはないなぁ」
電線の太さにすれば8sqだ。電流値にするとおおよそ60アンペア。前の電線に比べると2割アップだ。
家庭用のエアコンなどの工事で使う電線ではもっと細い。工場の設備の電源で使うレベルだ。常備するものではなかった。
「電線を溶接できる太さでもないし、端子を作っちゃうか。端子と丸端子がいるな。線も固定しとけば、持ち歩くときに電線が揺れなくていい」
構はバラした龕灯を前に必要な部品をリストアップし始めた。




