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祖父の工房が異世界の森につながっていた件~森の賢者は魔道具修理やさん~  作者: 海水『墓地ダンジョン』書籍化予定
第一章 森と工房

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第2話 オレンジ色で四本腕のクマ①

 ママウサギが10個の行燈を持ってきてから1週間がたった。

 構が直した行燈は20個を超えた。ママウサギが持っている壊れた行燈は200個ほどあるらしく、まだまだ1割だ。祖父はいくつ作ったんだろうと構は気が遠くなる思いだ。

 修理のお礼には木の実のほかに野菜の種もあった。さすがに野菜は植えていないが、植える時期は関係ないのだとか。野菜は季節性があり、また収穫時期から逆算して植える。いつ植えてもいいというのはおかしすぎる。異世界かよ、と構はぼやいたものだ。


「で、問題はこの木だ」


 構は柵の扉脇に植えた木を見(・)上(・)げ(・)た(・)。木の実を植えた場所に青々と茂っている木だ。

 成人男性の中では低い160センチとはいえ、その背丈から1メートルは高い。

 葉の形は手のひら型で紅葉に近いが、二回りは大きく、イチジクの葉っぱにも思えた。

 その葉が柵の扉の上に傘のように広がっている。ちょっとした軒を作っていた。


「もらった木の実で間違いないよなぁ。なんの木だか知らないけど」


 隣に植えた栗の実も、すでに腰くらいまで育っている。

 早い、早いよ。構は叫びたかった。


「花も咲いてるし、この調子だと木の実もなるんだろうなぁ」


 謎の木には白い小さな花が咲いている。桜にも似た形で、眺めているとホッとする。

 花見をしてもいいかもしれない。

 構はそんなのんきなことを考えて現実逃避をしていた。



㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢㌢



「今日は集落の集会所の照明器具交換とエアコンの更新か。半日もあれば終わるな。こいつらはそれからだ」


 作業服姿の構は工房の作業台に置いてある未修理の行燈を見た。半分の5個がまだだった。


「ママウサは明後日に取りに来るから、まぁ余裕だな」


 構は工具バッグを肩に担いで工房を出た。

 ここ1週間で、構の何でも屋は集落及び役場に知れ渡った。

ガスから水道電気に至るまで、ちょっとした工事もできる何でも屋は繁盛しはじめている。ありがたいことだと構は思う。

 売り上げはたかが知れているが、工具の損耗品や光熱費などの維持費は賄える額だ。仕事終わりのビールくらいまでカバーできていた。

 特に儲けるつもりがない構はそれで満足だった。


「さて今日もご安全に!」


 構は資材を積んだ軽トラで向かった。


「アヂー、夏はまだだってのに日差しがきついって」


 構が仕事を終わらせて工房に戻ってきた。汗だくで作業服もじっとり濡れている。


「あー、工房に来ると生き返る」


 びっしょりの上着を脱いだ構はクーラーの目の前でアホ顔になる。工房は広いので家庭用ではなく一般設備用の空調を入れたのだ。大きなクーラーから出る冷風で工房はガチガチに冷えている。

 販売店への伝手は工場時代に持っているし、工事は自分でやった。


「工場はたたんじゃったけど、経験は役に立ってるな。さっさとシャワー浴びてさっぱりしよ」


 ポイポイと服を脱ぎ散らかした構は裸のままシャワー室へ向かった。


「さーて、直すぞー」


 シャワーを浴びてさっぱりした構がはんだごて片手に行燈を直していると、外でドスンと重い何かが地面に落ちた音が聞こえた。


「な、なんだ!?」


 うっかりはんだごてを行燈の和紙にぶつけそうになった。燃えてしまう。

 構ははんだごてを作業台に置くと、窓に寄ってこっそり覗き見る。


「ク、クマ!」


 構が見たのは、オレンジ色の体毛で、腕が4本もある熊だった。身の丈もママウサギよりも高く見え、3メートルはあるだろう。横幅は力士のごとくだ。

 ノシノシと二足でこちらに歩いて来る。


「どどどどうしよう! 隠れる場所! ダメだ逃げないと!」


 構があわあわしていると、木の戸がトントンとノックされた。


『ゲンゾー殿はご在宅か』


 素敵なバリトンボイスが戸の向こうから聞こえる。祖父の名前が出て、構はビタっと固まった。


「またじーちゃんに用事?」


 怖そうな熊だったが、戸の向こうから聞こえてくるのは流ちょうな日本語。窓からこっそりのぞいても、戸の向こうにいるのはオレンジ色で4本腕の熊だ。その手には木製のメガホンのようなものを持っていた。


「あれもじーちゃんが作ったもの?」


 ウサギが持って来た行燈を前提とすれば、そう推理できた。しかもよく見えれば源三の文字が刻まれている。間違いなく祖父の製品だ。いや、魔道具だ。


「どうしよう、もし普通の熊だったら俺が食われちゃう……」


 でも祖父の物が壊れてるとしたら直したい。

 数秒、板挟みで迷った構えだが、静かに木の戸を開けた。目の前にはオレンジの毛皮。恐る恐る上を見れば、熊が構を見下ろしている。

 構は、今までで一番頑張って悲鳴を口の中に飲み込んだ。


「源三は、その、亡くなりまして」

『……ウサギの言った通りであったか。残念であったな』


 オレンジの熊ががっくり肩を落とした。あまりにも人間っぽくて、構は拍子抜けしてしまった。


「その手に持ってる魔道具についてですか?」

『うむ、そうなのだが……』


 構がそう問えば、熊が言いよどむ。眼前の構が何者なのか測りかねているのだ。


「俺は源三じーちゃんの孫で構と言います。その魔道具が壊れてるんでしょ?」


 構がそう言うと熊が大きく目を開いた。


『わかるのか!』


 熊が身を屈ませて顔を寄せる。「うひぃ」と構は数歩後ずさり、しりもちをついた。

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