第52話 炎の奥の光
レイヴが地面を蹴った。
一歩で間合いを詰め、長剣を振り下ろした。
「――《ガード・ヴェール》!」
半透明の膜が刃を受けた。
衝撃に押され、ファイの足が砂を削る。
レイヴは剣を引かず、体重を乗せて押し込んだ。
膜の表面に細い亀裂が走る。
ファイが両手を外へ払った。
膜が斜めに傾き、刃を横へ流す。
体勢を崩したレイヴの足元で、影が沈んだ。
「――《ノクス・バインド》!」
黒い帯が影から噴き上がる。
両脚を捉える寸前、レイヴは横へ跳んだ。
着地と同時に踏み込み、長剣を横薙ぎに振るう。
ファイは身を沈めた。
刃が前髪を揺らし、頭上を通り過ぎる。
「――《ノクス・ゼロ》」
ファイの身体が闇そのものへ変わった。
人の輪郭が一瞬でほどけ、黒い一閃となってレイヴの脇を抜ける。
レイヴの足元から背後へ伸びた影が膨らんだ。
膨らんだ闇の中から、ファイが姿を戻す。
「なっ……!?」
ファイは背後から、長剣を握る手首を両手でつかんだ。
「捕まえた!」
レイヴは剣を握った腕を引きつけ、身体を鋭くひねった。
ファイの身体が横へ振られる。
ファイは手を放し、後ろへ跳んだ。
返された長剣が鼻先を薙ぐ。
レイヴはさらに踏み込み、長剣を切り上げた。
「――《ノクス・ゼロ》」
刃が届く寸前、ファイの輪郭が再び闇へほどけた。
闇の軌跡がレイヴの横を抜ける。
レイヴの視線が周囲を走った。
レイヴの足元から伸びた影が揺れ、影の縁からファイが低い姿勢で飛び出す。
「――《ブラスト・ショット》!」
爆発がレイヴの足元で弾けた。
レイヴは直前に跳び、爆風を越える。
空中で身体をひねり、その勢いのまま長剣を振り下ろした。
「わっ!」
「――《ガード・ヴェール》!」
ファイの頭上へ半透明の膜が広がる。
刃が膜を叩き、衝撃が両腕を突き上げた。
レイヴは着地し、いったん足を止めて長剣を構え直した。
橙褐色の瞳がファイを捉える。
レイヴはファイを見据えたあと、足元の影へ一瞬だけ視線を落とした。
ファイは気づかなかった。
「――《ノクス・ゼロ》」
三度、ファイの身体が闇へ変わる。
黒い一閃が走った。
レイヴは黒い軌跡を追わず、足元の影へ切っ先を向けた。
影が膨らむ。
ファイの輪郭が戻り始めた瞬間、レイヴの剣が走った。
「えっ!?」
目の前へ迫る切っ先に、ファイの肩が跳ねた。
反射的に身体を反らす。
切っ先が鼻先をかすめ、遅れて前髪が揺れた。
ファイは地面を蹴り、大きく後ろへ跳ぶ。
着地しても、赤い瞳は見開かれたままだった。
「読まれた……」
「三度目だ」
レイヴは長剣を正面へ構え直した。
ファイも両手を上げる。
開いた間合いを挟み、二人は向き合った。
レイヴの左手に炎が集まる。
「――《フレイム・ショット》!」
小さな火球が放たれた。
その陰で、レイヴの身体が低く沈む。
ファイは火球へ片手を突き出した。
「――《フレイム・ショット》!」
同じ大きさの火球が放たれる。
二つの炎が、二人の中央で衝突した。
相殺される――はずだった。
ぶつかった炎が、内側へ押し潰される。
次の瞬間、白熱した光が弾けた。
「なっ――!?」
「えっ!?」
轟音が施設の入口を揺らした。
爆炎が一気に膨れ上がり、衝撃波が地面を削る。砕けた石が四方へ飛び、入口の岩壁へ叩きつけられた。
「――《ガード・ヴェール》!」
ファイの前へ半透明の膜が広がる。
爆風を受けた膜が大きくたわんだ。
ファイは両腕で支えたまま、身体ごと後方へ押し流される。
レイヴは長剣を地面へ突き立てた。
靴底が石を削り、数歩分の跡を残す。
爆炎が薄れていった。
二人の間には、黒く焼けた窪みができていた。
ファイは《ガード・ヴェール》を保ったまま、その跡を見つめる。
「こんなに強くしてないのに……」
レイヴの橙褐色の瞳にも、驚きが残っていた。
長剣を握ったまま、焼けた地面からファイへ視線を戻し、再び切っ先を向ける。
ファイも膜を保ったまま、レイヴの動きを見ていた。
『おい』
頭の奥で、ネロの声がした。
「ネロ?」
『あいつ、何かの素質を持っているな』
ファイの赤い瞳が、レイヴを見つめる。
「素質……?」
『おそらく、光の禁呪素質だ』




