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闇より速く、光より深く  作者: なすび
第五章 名をたどる者たち
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第46話 5人の精鋭

 数日後。


 作戦室の中央に、辺境惑星セレムの立体映像が浮かんでいた。


 集められた隊員は五人。


 ブエンが全員を見渡す。


「今回、セレムへ向かうのはこの五名だ」


 ブエンは、隣に立つファイへ視線を向けた。


「ファイだ。今回の探知を行った。闇属性魔法の素質を持っている」


「よろしくお願いします」


 ファイが頭を下げる。


 三人の視線が、ファイへ集まった。


 驚きはあった。


 だが、闇属性と聞いて身構える者はいない。


 背中に大剣を担いだ大柄な男だけが、ファイの姿を見て眉を上げた。


「……この子どもも同行するのか?」


「そうだ。戦力として選んだ」


 ブエンが即答する。


 男はもう一度ファイを見た。


 すぐに疑問を引っ込め、口元を緩める。


「なら、俺が口を挟むことじゃねえな。ブエン隊長が選んだんだ。間違いはねえだろ」


 男はファイの前へ歩み、大きな手を差し出した。


「よろしくな、相棒」


「相棒?」


「ああ。一緒に戦うんだから、相棒だろ?」


「そっか」


 ファイは差し出された手を、両手で握った。


「よろしくね」


「おう」


 男は豪快に笑い、元の位置へ戻った。


「ガルド。前衛を担当する」


 ブエンの紹介に、ガルドが軽く手を上げる。


「敵が出たら、まず俺が止める。後ろは気にせず動いてくれ」


 続いてブエンが、資料を胸に抱えた女性へ目を向けた。


「リネア。回復を担当する」


「は、はい!」


 リネアは勢いよく頭を下げた。


「リネアです。よ、よろしくお願いします!」


 頭を上げた拍子に、抱えていた資料が一枚滑り落ちる。


「あっ」


 リネアより先に、ファイが拾った。


「これ、落ちたよ」


「ありがとうございます!」


 リネアは受け取った紙を資料の束へ戻そうとして、その内容を見た。


 動きが止まる。


「……あれ?」


 隣に立っていたセイルが、紙へ視線を落とす。


「それはセレムの調査資料ではありません」


「えっ?」


「基地医療区画の備品申請書です」


 リネアが慌てて資料をめくる。


 どの紙にも、セレムの文字はなかった。


「どうして……。ちゃんと机の上に置いておいたのに……」


 セイルが小さく息を吐く。


「正確な情報を持たずに、任務へ向かうつもりですか?」


「ち、違います! 準備はしたんです! 持ってくる方を間違えただけで……」


「結果は同じです」


 セイルは自分の鞄から資料を取り出し、リネアへ差し出した。


「予備です」


「どうしてセイルさんが持ってるんですか?」


「あなたが間違える可能性を考えました」


「そんなにはっきり言わなくても……」


「正しい判断でした」


 リネアは何も言い返せず、正しい資料を抱えた。


 ガルドが声を抑えて笑う。


「いいじゃねえか。忘れた奴と、忘れる前提で用意してる奴。組ませりゃちょうどいい」


「私、まだ忘れてません。間違えただけです」


「そっちの方が心配だな」


「ガルドさんまで!」


「静かにしろ」


 ブエンの声で、二人の口が同時に閉じた。


 ブエンは最後にセイルを見る。


「セイル。現地調査と術式解析を担当する」


「セイルです」


 細身の男が、手にしていた光板を起動する。


「未知の魔力、術式、文字を発見した場合、触れる前に私へ報告してください。見た目が安全でも、同じとは限りません」


 セイルの視線がファイで止まる。


「特に、あなたが《ノクス・サーチ》とやらで見たものと似たものがあれば、すぐに教えてください」


「うん。分かった」


 ファイがうなずくと、セイルも短くうなずき返した。


 ブエンが立体映像を拡大する。


 セレムの地表に、赤い点が表示された。


「任務の目的を確認する。ファイが探知した座標へ向かい、真名術の接続先と思われる地点を調査する」


 セイルが光板を操作する。


 赤い点の周囲に、地形情報が重なった。


「記録上、この座標に人工物はありません。地下空間も確認されていません」


 ガルドが腕を組む。


「何もない場所から、真名術だけが飛んできたのか?」


「記録が正しければ、そうなります」


「でも、あったよ」


 ファイが赤い点を指さした。


「魔法陣と、光ってる丸いの。知らない文字もいっぱい浮かんでた」


「地形情報と、ファイの探知結果が食い違っているわけか」


 ガルドの言葉に、セイルが答える。


「はい。現地に存在するものを隠している可能性があります」


 ブエンは立体映像を閉じた。


「敵との接触も想定する。ガルドは前衛。セイルとリネアは中央を維持しろ」


「了解」


「承知しました」


「はい!」


「ファイ」


「うん」


「お前は遊撃だ。異常を探知した場合も、単独で先行するな。必ず報告しろ」


「……分かった」


 ガルドが横からファイの顔をのぞき込む。


「相棒。本当に分かってるか?」


「分かってるよ」


「今、返事まで少し間があったぞ」


「ちゃんと報告してから行くよ」


「報告したら一人で行っていい、という意味ではない」


 ブエンの声が飛ぶ。


 ファイは口を閉じた。


「……一緒に行きます」


「よし」


 ブエンが作戦室の扉へ向かう。


「出発する」


 五人は転送区画へ移動した。


 装置の中央へ並ぶと、足元に淡い光が広がっていく。


 リネアは腰の収納具へ手を伸ばした。


「回復薬、魔力補助具、包帯……」


「医療装備は、作戦室へ入る前に照合済みです」


 セイルが正面を向いたまま告げる。


「いつ確認したんですか?」


「あなたが資料を探している間です」


「……ありがとうございます」


「任務中に不足が判明するよりはましです」


 転送装置の光が強くなる。


『転送を開始します』


 視界が白く染まり、足元の感覚が消えた。


 次の瞬間、乾いた風が五人の間を吹き抜けた。


 辺境惑星セレム。


 濁った空の下に、灰色の岩と砂が広がっている。


 草木は見当たらず、生き物の声もない。


「ずいぶん寂しい星だな」


 ガルドは周囲を見回しながら、大剣の柄へ手を置いた。


「知的生命体は確認されていません」


 セイルが光板を起動する。


「大気に問題はありません。周囲に大型生物の反応もなし。目的の座標は北東です」


 ブエンが先を示す。


「進むぞ。ガルドが先頭。ファイは周囲の探知を続けろ」


「うん」


 五人は岩場を進んだ。


 先頭をガルドが歩き、その後ろにセイルとリネアが続く。


 ファイとブエンは、周囲を警戒しながら後方を進んだ。


 しばらく歩いたところで、ファイが顔を上げる。


「あっち」


 前方には、切り立った岩壁があった。


 その下に、小さな洞窟が口を開けている。


 ガルドが足を止め、大剣を抜いた。


「あれが探知した場所か?」


「うん。糸が、あの中に続いてる」


 ファイには、ガイから伸びていた細い魔力の糸が見えていた。


 糸は洞窟の暗闇へ吸い込まれ、その先へ続いている。


 ガルドは入口の横に立ち、内部をのぞき込んだ。


「ただの洞窟にしか見えねえな」


「見えるものと、存在するものが同じとは限りません」


 セイルが洞窟へ近づく。


 光板から細い光が伸び、入口と周囲の岩肌をなぞった。


 数値と波形が次々に表示される。


 セイルの指が止まった。


「……計測結果が合いません」


 ブエンがセイルの横へ立つ。


「何が違う?」


「目視では、洞窟は岩壁の内側へ十数メートル続いています。ですが、解析では入口から先の岩も空洞も検出されません」


 ガルドが洞窟を見直す。


「そこに見えてるのに、存在しないってことか?」


「はい」


 リネアが洞窟を指さす。


「じゃあ、私たちが見ているものは……?」


「偽物です」


 セイルは地面へ小型の解析器を置いた。


 装置から淡い波紋が広がる。


 洞窟の輪郭が、わずかに揺れた。


「動いた」


 ファイの声に、ガルドが大剣を構える。


「俺にも見えた」


 ブエンも剣を抜いた。


「セイル、詳細を」


「周囲の景色を魔力で読み取り、存在しない岩壁と洞窟を重ねています」


 セイルは解析器の出力を調整する。


「光学迷彩に近い偽装です」


「解除できるか?」


 ブエンが問う。


「可能です。ただし、偽装を破れば内部に感知される可能性があります」


「構わん。ガルド、前へ出ろ」


「了解」


 ガルドが解析器の前に立つ。


「ファイはセイルとリネアを守れ」


「分かった」


 ファイが二人の前へ移動し、いつでも防御魔法を展開できるように手を上げる。


 セイルの指が光板を走った。


「解除します」


 解析器から放たれた波紋が、岩壁全体へ広がった。


 洞窟が大きく歪む。


 灰色の岩肌に亀裂のような光が走り、重ねられていた景色が薄い膜となって剥がれていく。


 その奥から現れたのは、自然にできた洞窟ではなかった。


 崖の内部へ埋め込まれた、巨大な人工建造物。


 黒い金属で作られた扉には、見覚えのない文字が幾重にも浮かんでいる。


 ファイが扉を見上げた。


「これ……見たよ」


 扉の奥から、濁った魔力が脈打つ。


 セイルが光板に表示された反応を確認した。


「探知された術式と一致します」


 ブエンが剣を構える。


「全員、戦闘態勢」


 閉ざされた扉の文字が、一斉に赤く染まった。


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