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闇より速く、光より深く  作者: なすび
第五章 名をたどる者たち
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第44話 実践訓練

 翌日。


 座標の特定が完了した。


 作戦室の中央に、青白い星図が浮かんでいる。


 その端に、一つの惑星が示されていた。


 銀河連邦の主要航路から外れた、辺境の星。


 知的生命体の存在は、確認されていない。


 ブエンは星図の前に立っていた。


 周囲には、測定班と数名の隊員。


 ファイも、その中にいた。


「昨日、ファイの探知により、真名術の接続先と思われる反応を検出した」


 ブエンの声が、作戦室に通る。


「場所は辺境惑星セレム。現時点で、知的生命体の存在は確認されていない」


 星図の一点が拡大される。


 灰色の地表。


 薄い大気。


 いくつかの古い地形情報。


 建造物らしい影はない。


「ただし、測定班は魔力の指向性を確認している。自然発生の反応とは考えにくい」


 測定班の一人が光板を操作する。


 細い線が、銀河連邦基地からセレムへ伸びた。


 ファイは、それをじっと見る。


 昨日見えた糸とは違う。


 それでも、指す先は同じだった。


 ブエンがファイを見る。


「ファイ」


「うん」


「あの時、何を見た」


 作戦室が静かになる。


 ファイは少し考えた。


「魔法陣があってね」


「真ん中に、球がふわふわしてたよ」


「球?」


「うん。丸いやつ。光ってる玉みたいな感じ」


 ファイは両手で丸を作る。


「その周りに、文字が浮かんでた。でも、読めなかった」


「文字の形は」


「えっと……」


 ファイは眉を寄せた。


 しばらく宙を見ていたが、ふいに顔を上げる。


「あ」


「ガイに浮かんでた文字に似てたよ」


 ブエンは短くうなずいた。


「そうか」


 隊員たちへ向き直る。


「調査任務を行う。目的は、真名術の接続先と思われる地点の確認だ」


 隊員たちの表情が引き締まる。


「敵対勢力との接触も想定される。戦闘力の高い少数精鋭で向かう」


 そこで、ブエンの視線がファイに戻った。


「ファイ」


「うん?」


「お前も来い」


 作戦室が、わずかにざわついた。


 ファイは目を丸くする。


「……僕も?」


「そうだ」


 近くの隊員が一歩前に出る。


「ですが、隊長」


 ブエンは視線だけを向けた。


「戦力としては申し分ない」


「ましてや今回、探知したのは紛れもないファイだ」


 隊員は口を閉じた。


 ファイの胸の奥が、じわりと熱くなる。


 認めてもらえた。


 必要だから、呼ばれた。


 その期待に、ちゃんと応えたい。


 ファイは膝の上で、手をぎゅっと握った。


「……うん」


 ブエンはそれを見ても、何も言わなかった。


「事前ブリーフィングは以上だ」


 光板が閉じる。


 隊員たちが席を立つ。


 ファイの胸には、まだ「お前も来い」が残っていた。


 ――しばらくして、訓練場。


 ファイは闇属性訓練のために呼ばれていた。


 いつもの標的装置が並び、測定班がその前に控えている。


 けれど、ブエンは訓練場の中央に立っていた。


 腰の剣に手を置いている。


「今回は、私と実戦訓練を行う」


 ファイは目を丸くした。


「えっ」


 隊員たちの空気が変わった。


「ブエン隊長、それは危険です」


 誰かが言った。


 ブエンはその隊員を見る。


「なら、お前が相手をするか」


 隊員は黙った。


 ブエンは続ける。


「ファイの闇属性訓練は、すでに装置で行える領域を越えている」


 ファイは、ブエンを見た。


「装置の動きは決まっている。今のファイは、すぐにそのパターンへ適応する」


 ブエンの声は淡々としていた。


「実戦で使えるようにするなら、実戦で覚えるしかない」


 隊員たちは、それ以上何も言わなかった。


 ブエンはファイへ向き直る。


「ファイ」


「……うん」


「闇を解放しろ」


 ファイは唾を飲み込んだ。


 足元の影が、じわりと濃くなる。


 次の瞬間、黒い魔力が噴き出した。


 床を這い、肩を越え、背中からあふれる。


 隊員たちが身構えた。


 闇は一度外へあふれたあと、ゆっくりと落ち着いていく。


 ファイの瞳が、赤くなる。


 ブエンが剣を抜いた。


 刃が、訓練場の光を返す。


 ブエンは低く言った。


「行くぞ」


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